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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第十六話:恐怖は伝染する ―― 「なんだあれは」

戦いは終わっていた。

だが――終わっていないものがあった。

“声”だ。


・捕虜

野営地。

縛られた敵兵たち。

誰も暴れない。

誰も叫ばない。

ただ――震えている。

レヴァンティア兵が小声で言う。

「……おい、誰も騒がねえぞ」

「普通は暴れるだろ……」

「壊れてるな、完全に」

「……水をやれ」

レヴァンティア兵が水を差し出す。

「飲め」

敵兵は受け取る。

だが、手が震えて飲めない。

ぽつり、と呟く。

「……なんだあれは」

隣の兵が答える。

「わからない……」

別の兵が頭を抱える。

「あんなの……聞いてない……」

「盾を貫いて……」

「空から……落ちて……」

言葉が繋がらない。


・断片

一人の若い兵。

目が虚ろだ。

「聞いてくれ……」

「俺は……前列じゃなかった」

「後ろにいたんだ……だから見えた……」

周囲が静かになる。

「最初に……黒いのが飛んできて……」

「次の瞬間……人が消えた」

「消えたんだよ……」

「血とかじゃなくて……“いなくなった”」

誰かが吐く。

「やめろ……」

若い兵は止まらない。

「で、次は……音だ」

「バン、バンって……」

「そしたら……前の奴らが……全部倒れて……」

震えが止まらない。

「盾……意味なかった……」


・傭兵の声

そこに、傭兵が来る。

腕を組んで、捕虜を見下ろす。

「……いい顔してるな」

レヴァンティア兵が苦笑する。

「完全に戦意ゼロです」

傭兵はしゃがみ込む。

捕虜の目線に合わせる。

「で?」

「何が一番怖かった?」

敵兵が即答する。

「わからないことだ」

傭兵がわずかに笑う。

「だろうな」

「見えない、届かない、避けられない」

「三拍子揃ってる」

別の捕虜が叫ぶ。

「化け物だ!!」

「人間じゃない!!」

傭兵が首を振る。

「違う」

「ちゃんと人間が作ってる」

「だからもっとタチが悪い」


尋問アルベルト

アルベルトが現れる。

「静かにしろ」

一瞬で場が止まる。

彼は捕虜を見る。

「順番に話せ」

「何が起きた」

一人が震えながら言う。

「進んだら……撃たれた……」

「止まったら……落ちてきた……」

「逃げたら……撃たれた……」

沈黙。

アルベルトの眉が動く。

「指揮官は何をしていた」

「……叫んでた」

「でも……誰も聞いてなかった」

「だって……」

震えながら言う。

「意味がなかったから」

「……意味なかった?」

「命令出す前に……死んでた」

別の兵が割り込む。

「将軍が叫んでた!!」

「でも……誰も聞いてなかった!!」

「だって……!」

涙が出る。

「どうしていいかわからないんだ!!」


・恐怖の言語化

傭兵がぽつりと言う。

「詰みだな」

アルベルトが見る。

「……何?」

傭兵は肩をすくめる。

「どの選択肢も死ぬ」

「進む→撃たれる」

「止まる→降ってくる」

「逃げる→背中撃たれる」

捕虜が震える。

「そうだ……そうなんだ……」

「どこにも道がなかった……」


・繰り返される言葉

一人が呟く。

「……なんだあれは」

別の兵。

「なんだあれは……」

また一人。

「なんだあれは……」

それが広がる。

まるで呪いのように。


・報が走る

・三国へ、同時に報が届く。


・東の国

王城。

伝令が膝をつく。

「報告します!!」

「東部軍……壊滅!!」

「は?」

「どういう意味だ!」

ざわめき。

将軍が怒鳴る。

「あり得ん!!」

「相手は小国だぞ!」

王が低く言う。

「理由は」

伝令が震えながら続ける。

「新兵器により……一方的に……」

「戦闘にならず……」

王が低く問う。

「……どれほどの損害だ」

沈黙。

「……ほぼ全滅です」

空気が凍る。


・西の国

騎士団本部。

「騎兵が……全滅だと?」

報告書を握る手が震える。

「馬ごと倒された……?」

「騎兵が突撃できなかっただと!?」

「あり得るか!!」

副官が震える声で言う。

「馬が……倒されました」

「距離を詰める前に……」

「矢で……」

騎士団長が呟く。

「……馬を止められる弓?」

「そんなもの……」

報告書を落とす。

「存在しないはずだ」


・南の国

軍議室。

机が叩きつけられる。

「ふざけるな!!」

途中で止まる。

報告書の追記。

「説明になっていない!!」

将軍が怒鳴る。

だが、読み進めて止まる。

「射程外からの攻撃……」

「回避不能……」

「指揮崩壊……」

「巨大な岩が飛来し地面が避け……」

声が小さくなる。

「……化け物か」


・三国の共通認識

同じ結論に至る。

「これは戦争ではない」

「未知の兵器による一方的殲滅」

そして、共通の言葉。

「なんだあれは」


・王都(対比)

王が深く息を吐く。

「……恐怖が先に行くな」

傭兵が笑う。

「そりゃそうだ」

「兵隊より速いのは、噂とビビりだ」

アルベルトが静かに言う。

「戦わずに勝つ……」

俺は答える。

「ああ」


・恐怖の拡散

街。

酒場。

商人。

傭兵。

噂が広がる。

「空から死が降るらしい」

「盾が意味を持たない」

「見えない距離から殺される」

誰も確認していない。

だが、誰も否定できない。


夜。

捕虜の一人がうわ言のように繰り返す。

「なんだあれは……」

別の声。

「なんだあれは……」

遠くで、見張りの兵が小さく言う。

「……味方でよかったな」

傭兵が笑う。

「ほんとにな」

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