EP 6
ドワーフの探求心と魔砲の胎動
マルストアでの領主生活が軌道に乗り始め、内政の基盤が固まりつつあったある日。
勇太たちは、街の重工業を支えるドワーフの名工――ドルグの工房を訪れていた。
工房に足を踏み入れた瞬間、肌を焼くような炉の熱気と、鉄を打つリズミカルな金属音、そして煤と油が混じり合った独特の匂いが一行を包み込む。
「おう、来たか若いの。いや……領主様よ」
ドルグは真っ赤に焼けた鋼を槌で叩きながら、顔中に大粒の汗を光らせて勇太たちを迎えた。その横には、勇太が発注していた干鰯用の金属網や、改良型の農具がずらりと並んでいる。
「ドルグさん、例の農具の進捗を確認しに来たんですが……」
「ああ、そっちは順調だ。……だがなぁ、それより勇太様よ。お主に一生に一度の『頼み』があるんじゃ」
ドルグは槌を置くと、タオルで顔を拭い、いつになく真剣な、それこそ魂を射抜くような眼差しで勇太に向き直った。
「頼み? 僕にできることなら協力しますけど」
「単刀直入に言う。お主が腰に差している、あの漆黒の鉄の塊……『グロック』とか言ったな。あれを、一晩でいい、俺に預けてみてはくれんか?」
「えっ……グロック20を、ですか?」
勇太は思わず腰のホルスターに手をやった。
それは地球の技術の結晶であり、魔法の使えない勇太がこの世界で生き抜くための、文字通り「最後の砦」だ。
ドルグは、新発明を夢見る子供のような熱を瞳に宿しながらも、一人の職人としての切実な探求心を吐露した。
「頼む! 分解はせん、傷もつけん! ただ、あの小さな体で、どうやってあれほどの威力と『連射性』を実現しているのか……。その構造、部品の噛み合わせ、そしてあの未知の『黒い材』をこの目で確かめたいんじゃ! あれには、老朽化した城塞の魔砲を小型化する、歴史的なヒントが詰まっているはずなんじゃよ!」
勇太は迷った。現代兵器の構造をこの世界に開示することのリスク。
だが、ドルグの瞳にあるのは軍事的な野心ではなく、「より良い道具を作りたい」という純粋な職人の矜持だった。
(……この世界の魔法技術と、地球の機械工学。この二つがドルグさんの手で混ざり合えば、もしかしたら……)
勇太は覚悟を決め、ホルスターから愛銃を引き抜いた。
「……分かりました。一日だけですよ。マガジン(弾倉)は抜いておきます。絶対に無理な負荷はかけないでくださいね」
「おおぉ……ッ! ありがてぇ、かたじけないッ!」
ドルグは、まるで伝説の聖遺物を受け取るかのように、恭しく、震える手でグロック20を拝受した。
指先で冷たいスライドの質感をなぞり、カチャリとスライドを引いてバレルやスプリングの構造を覗き込むなり、ドルグは「ひょ~……」と感嘆の声を漏らし、そのまま自分の世界へと没入していった。
翌日。
勇太が再び工房を訪れると、そこには目の下に真っ黒なクマを作り、しかし精神的な高揚で顔をテカテカと輝かせているドルグが立っていた。
「あんがとよ、勇太様! おかげで、すべてが繋がったぜ……ッ!」
彼は丁寧にオイルで磨き上げられたグロック20を、名残惜しそうに、しかし満足げに勇太へ返却した。
「一晩中こいつを眺め回して、ようやく『理』が見えてきた。この銃は、火薬の爆発エネルギーをスライドの後退に変えて次弾を装填する……。なら、それを『魔石の反発力』に置き換えればいいんじゃ!」
ドルグは工房の奥に置かれた、まだ骨組みだけの奇妙な装置を指差した。
「城塞にある巨大な魔砲を、このグロックのように片手で持てるサイズにまで凝縮する。魔力回路を簡略化し、代わりに機械的な『バネ』と『撃鉄』で魔石を叩き、瞬間的な魔力暴発を引き起こす……。小型連装魔導砲――その名も、『魔砲:マギス・マグナム』の完成形が見えたぜ!」
「マギス・マグナム……。それは、すごいことになりそうですね」
勇太が驚きと共に冷静に相槌を打つと、ドルグは再び槌を握りしめ、炉の中に激しく燃え上がる炎を見つめて不敵に笑った。
「おうよ! 仕組みさえ分かれば、あとはドワーフの意地を見せるだけだ! 今夜も徹夜だぜ~、ガハハハッ!」
ドルグの背中からは、新たな傑作の誕生を確信した名工の魂が、炉の火よりも熱く燃え上がっていた。
地球の近代兵器の『合理性』が、異世界の『魔法鍛冶』と出会い、今、このマルストアで全く新しい武器の歴史が産声を上げようとしていた。




