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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 39

間合いの攻防と幻惑の霧

「始めェッ!」

審判の振り下ろす腕が止まるよりも早く、勇太は既に地を爆発的に蹴っていた。

(魔法を詠唱するラグを与えない……! 息もつかせぬ超接近戦に持ち込む!)

それが、勇太が弾き出した唯一の勝機だった。

踏み込みと同時に薙刀の石突で闘技場の砂を激しく蹴り上げ、サブリナの視界を物理的に目隠しする。そしてその一瞬の隙に、勇太はサブリナの『絶対領域(レイピアの間合い)』のさらに内側へと滑り込んだ。

「なっ……!」

氷の魔法剣士の美麗な顔に、初めて驚愕の色が走る。

サブリナの思考を置き去りにするように、勇太の模擬薙刀から放たれる変幻自在の打撃が襲いかかった。

遠心力を乗せた刃の斬撃。

それを防がれた瞬間に手首を返し、柄で放つ強烈な胴打ち。

さらに死角から跳ね上がる、硬質な石突による顎への突き上げ。

「くっ……! なんて重い一撃……それに、速い!」

サブリナは、嵐のような薙刀の三位一体の連撃を、模擬レイピアを盾にして必死に受け流す。

一歩でも退けば、致命的な一撃を貰う。

彼女の予想を遥かに超える勇太の近接戦闘能力。魔法の詠唱を開始するための『一呼吸の集中』が、絶え間ない物理攻撃によってことごとくへし折られていく。

「このまま、一気に押し切る!」

勇太は好機と見て、さらに踏み込みを深くする。

刃、柄、石突。武器の全てを使いこなし、サブリナに瞬きをする暇すら与えない。

だが――彼女は数多の死線を潜り抜けてきた『Sランク』の冒険者だった。

「……随分と熱いラッシュね。でも、焦らないことよ、坊や」

幾千もの斬撃を受け流す中、サブリナはふっと氷が解けるような笑みを浮かべた。

レイピアで勇太の渾身の薙ぎ払いを『斜め』に受け流し、わずかに生まれたコンマ数秒の隙。その瞬間、彼女は空いた左手で流麗に印を結んでいた。

「『ミスト・イリュージョン』」

サブリナの涼やかな声と共に、彼女の足元から異常な濃度の白い霧が爆発的に噴き出し、あっという間に闘技場の中央をドーム状に覆い尽くした。

「しまっ……!」

勇太の視界が完全にホワイトアウトする。

それだけでなく、霧の中で音が乱反射し、聴覚や方向感覚までもが狂わされる。サブリナの気配が、前後左右、まるで何十人にも増殖したかのように曖昧になった。魔力による幻惑魔法だ。

「くそっ……どこだ!」

勇太が感覚を研ぎ澄ませて構え直した時には、すでに遅かった。

サブリナの意図的な操作で霧が晴れると、彼女は闘技場の反対側――勇太から十数メートル以上も距離を取ることに成功していた。

それは薙刀が絶対に届かず、彼女の魔法が最も威力を発揮する『必殺の間合い』だった。

「さあ、私のターンよ」

サブリナは優雅に、しかし一切の油断なく、杖のように握ったレイピアの切っ先を勇太へ向ける。

「炎よ、渦となりてかの者を焼き払え! 『フレイム・ストーム』!」

高速の詠唱と共に、勇太の足元の砂地に巨大な赤い魔法陣が展開される。

次の瞬間、灼熱の炎の竜巻が、地獄の釜が開いたかのように天に向かって噴き上がった!

「うわぁぁっ!!」

勇太は、足元が光った瞬間に咄嗟に前方へダイブするように横転した。

ゴォォォォッ!! という轟音と共に、直前まで彼が立っていた場所が爆炎に飲み込まれる。服の裾が炎に煽られて焦げ、闘技場の石畳が赤熱して陽炎が立ち上っていた。

「……ギリギリで躱したようだけど、これで距離は開いたわ。私の勝ちね」

サブリナは、勝利を確信したように静かに告げた。

この間合いならば、勇太が再び接近する前に、いくらでも強力な魔法を絨毯爆撃のように撃ち込める。勝負は決したと、数万の観客も息を呑んだ。

だが。

炎の熱波から逃れ、砂まみれになりながら立ち上がった勇太の瞳には、絶望の欠片もなかった。

そこにあったのは、極めて冷徹な『分析アナライズ』の光だ。

(……まだだ。まだ勝てる)

勇太は焦げた裾を払いながら、頭の中で先ほどの魔法のプロセスをリプレイしていた。

(今の炎魔法、威力と範囲は絶大だけど……『詠唱速度』はハッキリと見た。彼女が言葉を紡ぎ始め、足元に魔法陣が展開され、実際に炎が発生するまでのタイムラグ。……およそ、『1.0秒』)

現代の人間からすれば、1秒は一瞬だ。

だが、生死を分ける武術の間合いにおいて、1秒(約60フレーム)は『永遠』にも等しい致命的な隙である。

(あの1秒のラグに飛び込めば、俺の薙刀は届く。反撃のチャンスは、あと一回だけある……!)

サブリナが、トドメを刺すべく次なる魔法の詠唱を開始する。

勇太は静かに薙刀を構え直し、彼女の美しい唇の動きと、魔力が高まる予備動作モーションに全神経を集中させ――ただ一点の『死角』を見据えていた。

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