EP 38
準決勝、静かなる刃と氷花の剣姫
帝都武術大会「獅子王祭」。
大会は数日間にわたり、熾烈な激戦が繰り広げられていた。
イグニスは初日のライオット戦の負傷をリーシャのポーションとキャルルの月兎族の力で完治させ、その後も持ち前のパワーと闘気で並み居る強敵をなぎ倒し、順当に駒を進めている。
キャルルは初戦でサブリナに敗れたものの、その後の敗者復活(交流戦)では見事な連勝を収め、今は仲間たちの応援とサポートに専念していた。
そして勇太もまた、薙刀の流麗な体捌きと、時折見せる『地球の科学(物理法則)』を応用した規格外の戦術で強豪たちを次々と無力化し、ついに――準決勝の舞台へと勝ち進んでいた。
選手待機エリアの緊張感は、大会初日とは比べ物にならないほど濃密に張り詰めている。
残っているのは、大陸にその名を轟かせる一握りの本物の猛者たちだけだ。
その重い空気の中、進行係の魔法拡声器が響き渡った。
『次! 第一闘技場、準決勝第一試合! ナカムラ・ユウタ選手! 入場準備!』
「勇太さん! 頑張ってください! あの人、すごく強いけど……今の勇太さんなら絶対に勝てます!」
キャルルが祈るように両手を胸の前で固く握りしめ、勇太にエールを送る。
「ああ。君の悔しさと、イグニスの気合いを貰っていくよ。……頭はクールに、心は熱く、だね」
勇太はキャルルに優しく微笑みかけると、隣で腕を組んで壁に寄りかかるイグニスを見た。
「ふん。相手はあの銀髪の冷血女、サブリナだ。キャルルを圧倒した厄介な相手だが……な〜に、俺様は欠片も心配してねぇよ。お前なら、きっちりお釣りを付けて返してやるさ」
イグニスはぶっきらぼうに、しかし確かな信頼とライバルへの敬意を込めて鼻を鳴らした。
「ありがとう。行ってくる」
勇太は短く応え、支給された鉄木製の模擬薙刀を手に、闘技場へと続く薄暗い通路を歩き始めた。
光の先に見える闘技場は、準決勝ということもあり、数万人の観客の熱気で陽炎が立つほどに揺れていた。
闘技場の中央。
照りつける太陽の下、そこには既にサブリナが静かに彼を待っていた。
銀の髪を微風に揺らし、模擬レイピアを軽く下段に構えたその姿には、絵画のように美しく、そして一切の隙(死角)が存在しない。
勇太がゆっくりと歩み寄り、一定の距離――薙刀の先端がギリギリ届かない位置で足を止める。
「……ようやく、あなたと直接手合わせできるわね」
サブリナは、氷のように冷たいアメジスト色の瞳で勇太を真っ直ぐに見据えた。
「あなたのその長い武器……東方の武術かしら? 槍とも違うし、剣とも違う。その変幻自在な『間合い』、遠目から見ていても非常に厄介だったわ」
「…………」
勇太は無言のまま、静かに模擬薙刀を青眼に構えた。
刃の切先が、ピタリとサブリナの喉元に照準を合わせる。
(魔法剣士……。サブリナの得物は『レイピア(近距離)』、そして強力な『魔法(遠距離)』だ)
勇太の脳内で、極めて冷静な戦術コンピューターが弾き出される。
(近接戦闘での斬り合いに持ち込めば、薙刀のリーチ(中距離)で有利に戦える。だが、一度でも距離を取られれば、広範囲魔法で一方的に削られる。逆に懐に潜り込まれれば、レイピアの刺突速度には勝てない)
(……勝機はただ一つ。彼女の魔法を封じ、レイピアも届かない『僕だけの黄金の間合い』に彼女を釘付けにすることだ)
互いに相手の力量と戦術を測り合い、闘技場に鋭利な刃物のような緊張が走る。
数万人の観客の地鳴りのような喧騒が、二人の間では嘘のように遠のき、完全な無音の空間が形成されていた。
そして。
張り詰めた糸を断ち切るように、審判が二人の間に立ち、右手を高らかに振り下ろした。
「準決勝第一試合……始めェッ!!」
帝都の空の下。
静かなる東方の武人と、氷の花と謳われるSランクの魔法剣士。
キャルルの雪辱と、本戦決勝への切符を懸けた、極限の頭脳戦が今、幕を開けた。




