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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 32

初陣と静かなる薙刀

帝都武術大会「獅子王祭」の予選が開幕し、コロッセオ・アウストラの複数の闘技場ブロックでは、朝から血湧き肉躍る熱戦が繰り広げられていた。

そしてついに、勇太の初戦の番が回ってきた。

彼は、大会から支給されたずっしりと重い鉄木てつぼく製の『模擬薙刀』を手に、闘技場の乾いた砂をゆっくりと踏みしめる。

観客席に近い選手待機エリアからは、仲間たちの大きな声援が飛んできた。

「ユウタ! 気張っていけよ! あんなトロそうなデカブツ、初戦でサクッと叩きのめしてやれ!」

イグニスが、自慢の剛腕を突き上げて叫ぶ。

「勇太さーん! ファイトー! いつものお庭の訓練通りやれば、絶対勝てますからねー!」

キャルルも、長い兎耳を揺らしながら一生懸命に手を振っている。(少し離れた特等席では、リーシャが優雅に手を振り返してくれていた)。

二人の声援に小さく頷き返し、勇太は目の前の対戦相手に意識を集中させた。

「両者、前へ!」

審判の厳かな声が響く。

勇太の前に立ったのは、バンクスと名乗る屈強な男だった。

熊のように分厚い筋肉に、歴戦を思わせる無数の傷跡。その手には、巨大な円盾ラウンドシールドと、幅広の片手剣が握られている。典型的なパワー型の重戦士だ。

「おいおい、なんだその細長い棒切れは? 随分と貧弱な坊やが出てきたもんだな。怪我したくなかったら、さっさと降参しな!」

バンクスが下品な笑い声を上げる。

観客席からも、「おいおい、あの体格差は危険だろ」「東方の変な武器じゃ、あの盾は割れないぜ」と、勇太を不安視する声が漏れ聞こえていた。

(片手剣に盾持ち……。懐に入られたら厄介だな。なら、入れさせなければいい)

勇太は挑発に乗ることなく、静かに呼吸を整え、薙刀を青眼に構えた。

「始めッ!!」

審判の合図と共に、試合が動いた。

「おおおおおーっ!! 潰れろォ!!」

バンクスは野獣のような雄叫びを上げ、盾を構えながら猛然と突進してきた。重戦車のような、土煙を上げる強烈なチャージだ。

「……ふっ」

だが、勇太は全く慌てない。

衝突の直前、華麗な体捌き(足さばき)でふわりと軸をずらし、突進をいなす。そして、薙刀の圧倒的な『長さ』を活かし、バンクスとの距離――絶対的な『間合い』を支配した。

バンクスが苛立って剣を振り回すが、全く届かない。

逆にバンクスが踏み込もうとすれば、剣の間合いの遥か外から、薙刀の切先が的確に彼の喉元や顔面を牽制する。強引に盾で防ごうとすれば、今度は薙刀の柄が蛇のようにしなり、盾の縁を巧みに押さえつけて体勢を崩させる。

遠心力とてこの原理を完璧に理解した、ウルジ直伝の『理』の武術。

「糞っ! なんだこの棒切れ! ちょこまかと鬱陶しいッ!」

バンクスは、空を斬るばかりで全く攻撃が当たらず、急速に苛立ちと疲労を募らせていく。

何度か攻防が繰り返された後。

勇太はふっと全身の力を抜き、薙刀の穂先をだらりと地面に下ろした。一見すると、完全に無防備な自然体の構えだ。

「ハァ……ハァ……! フン、疲れ果てたか? 隙だらけだぜェッ!!」

バンクスは、これを絶好の好機と見た。

彼は残る全体力を脚に込め、弾丸のように踏み込むと、渾身の力で片手剣を勇太の頭上めがけて大上段から振り下ろした。

だが、それこそが勇太の仕掛けた『罠』だった。

「……もらった」

勇太は、死の風を纏って振り下ろされる剣を、最小限の動きで紙一重で躱す。

同時に、その回避の勢いを利用して独楽こまのように体を回転させた。薙刀の刃の反対側――硬く重い柄の末端である『石突いしづき』が、下から跳ね上がるような軌道を描く。

ゴッ!!

「がァッ!?」

石突が、バンクスが剣を握る手首の関節を的確に、かつ強烈に打ち抜いた。

耐えきれない激痛と痺れに、バンクスはたまらず模擬剣を取り落としてしまう。

武器を失い、一瞬だけ呆然と目を見開く巨漢。

そのがら空きになった側頭部へ向けて――勇太は手首を返し、水が流れるような滑らかな動きで、薙刀のみねを叩き込んだ。

パーンッ!!

乾いた打撃音がコロッセオに響き渡る。

それは、相手を殺傷せず、しかし脳を揺らして確実に意識を刈り取る、完璧にコントロールされた一撃だった。

バンクスは白目を剥き、糸が切れた操り人形のように、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。

ズシン、と重い音を立てて砂に沈み、二度と動かない。

「…………勝負有り! 勝者、ナカムラ・ユウタァァッ!!」

一瞬、闘技場は水を打ったような静寂に包まれた。

そして審判が高らかに勝者の名を告げた瞬間、コロッセオ全体が爆発したかのような大歓声に包まれた。

「おい、今何が起こったんだ!?」

「全然見えなかったぞ! なんだあの流れるような連続技は!」

「あの巨体が、一瞬で……!」

「すげええええっ! あの黒髪の兄ちゃん、何者だ!?」

「ガハハハッ! ユウタ! 良くやったぞ! 見事な勝ちっぷりだ!」

イグニスが、自分のことのように喜んで柵から身を乗り出して叫ぶ。

「勇太さーん! カッコいいですーっ!!」

キャルルは目をハートにして、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

勇太は乱れた息を整え、倒れたバンクスと審判に向けて静かに一礼すると、仲間たちの待つ待機エリアへと涼しい顔で歩き始めた。

帝都での彼の名は、まだほとんど知られていない。

だが、この僅か数十秒の一戦は、静かなる東方の武人が、獅子王祭に大波乱を巻き起こす……その鮮烈な序章に過ぎなかった。

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