EP 5
脂と塩(タン塩)の双璧! 悪魔の無限ループ(チート戦術)
「見よ! 我らが誇る肉の双璧が、ついに悪魔の網へと降り立ったぞ!」
タロキン厨房の王城(巨大冷蔵庫)。
豚の騎士トンデモナイトは、ショーケース越しに燃え上がる炎を見つめながら、固唾を呑んで戦況を見守っていた。
優太たちのテーブルの網の上では、今まさに激しい戦闘(焼き)が繰り広げられていた。
ジューーッ! という暴力的な音と共に、網から立ち上る分厚い煙と炎。
その猛火の中心で、悠然と脂の汗を流している重戦士こそ、焼肉界の絶対的エース――『カルビ』であった。
そしてその隣には、レモンの盾を構え、薄い身を反らせながら強烈な塩のオーラを放つ双剣使い――『タン塩』が陣取っている。
「行け、カルビ! タン塩! 奴らの胃袋に、我ら食材の意地を見せつけてやれ!」
トンデモナイトの祈りに呼応するかのように、カルビとタン塩は、網の上で最高の焼き加減(ウェルダン一歩手前)へと仕上がっていった。
『フッ……俺の脂の重さ、耐えられるかな?』
カルビが滴る肉汁と共に不敵に笑う。
『私の塩分で、奴らの喉を砂漠のように干上がらせてみせましょう』
タン塩が、レモンの盾を構えながら冷徹に呟く。
カルビの狙いは「胃もたれ」。
圧倒的な脂質で悪魔たちの胃壁をコーティングし、消化を遅らせて満腹中枢を刺激する。
一方、タン塩の狙いは「喉の渇き」。
強烈な塩分で喉を渇かせ、たまらず水を大量に飲ませることで、胃袋を水分でタプタプにしてキャパシティを奪う。
まさに、攻防一体の完璧な布陣であった。
***
「よし、焼けたぞ。どんどん食え!」
優太の合図と共に、イグニスがカルビを三枚まとめて口に放り込む。
「ガハハ! うめぇ! 脂が口の中で爆発しやがる!」
「こっちの薄いお肉(タン塩)も、塩味が効いててすっごく美味しいです!」
キャルルがウサギの耳を揺らしながら、タン塩を頬張る。
順調に肉を消費していくマルストアチーム。
だが、食材たちの作戦は、確実に一人の「ターゲット」を蝕み始めていた。
「……うーん」
エルフの賢者、リーシャの箸がピタリと止まったのだ。
「どうした、リーシャ。ペースが落ちてるぞ」
優太が烏龍茶を飲みながら尋ねる。
「……極めて非論理的なことだけど、私のエルフの胃腸には、この『カルビ』という肉は少々重たすぎるみたい。三枚食べただけで、胃の腑に脂が膜を張っているような不快感(胃もたれ)があるわ」
リーシャは顔をしかめ、お冷のグラスを手に取った。
「それに、この『タン塩』の塩分も強烈ね。美味しいのだけれど、どうしても喉が渇いてお水を飲みたくなるわ。……少し、休憩させてもらうわね」
『よしっ!!』
ショーケースの中で、トンデモナイトがガッツポーズを決めた。
「見たか! あの冷静沈着なエルフの女を、見事に足止めしたぞ! カルビの脂とタン塩の塩分による見事な連携だ!」
「やりましたね、トンデモナイト様! これで悪魔の戦力を一人削りました!」
サンチュが葉っぱを揺らして歓喜の声を上げる。
このままいけば、他の悪魔たちも次々と胃もたれと水分の過剰摂取でダウンしていくはず。
勝利の光が、食材軍団に差し込んだかに見えた。
だが。
「……リーシャ。お前、ただ肉をそのままタレにつけて食ってるだけじゃないか」
優太が、呆れたようなため息をついた。
「え? 焼肉なのだから、焼いてタレにつけて食べるのが論理的でしょう?」
「バカ言え。それは素人の食い方だ。脂の重い肉を無限に食い続けるための『地球の焼肉メソッド(チート戦術)』を教えてやる」
優太は立ち上がると、バイキングの野菜コーナーから『あるモノ』を大量に皿に乗せて持ってきた。
それを見た瞬間、冷蔵庫の中のトンデモナイトは血の気を引いた。
「な、なんだと!? あれは我が軍の斥候部隊……サンチュではないか! いつわらわらの同胞を拉致したのだ!」
優太が持ってきたのは、みずみずしい緑色の葉っぱ――『サンチュ』だった。
「リーシャ、よく見とけ。まず、サンチュの葉を広げる。そこに、コチュジャンを少し塗り、こんがり焼けたカルビを乗せる。お好みでキムチやナムルを添えて、こうして巻いて……一口で食う」
優太が実演し、サンチュで巻かれたカルビの塊をパクッと口に放り込んだ。
「(ぎゃあああああぁぁぁっ! 私の体が、脂まみれのカルビの野郎を包む毛布にされているぅぅっ!)」
食道へと消えていくサンチュの悲痛な断末魔が響く。
「……ッ!」
リーシャは半信半疑ながらも、優太に言われた通りにサンチュでカルビを巻き、上品に口へと運んだ。
その瞬間、エルフの瞳孔が限界まで見開かれた。
「こ……これは!?」
「どうだ? サンチュの瑞々しさと食物繊維がカルビの脂っこさを完全に中和し、コチュジャンの辛味が食欲を再着火させただろ」
「ええ……! さっきまでの胃の重たさが嘘のように消え去ったわ! お肉の旨味だけがダイレクトに伝わってきて……これなら、あと三十枚は余裕で食べられるわ!」
『ば、ばかなぁぁぁっ!?』
冷蔵庫のトンデモナイトが絶叫した。
「我が軍の斥候部隊を、味方のカルビの脂を中和するための盾として使うだと!? 己の胃袋を守るために敵の死骸を利用するなど、悪魔の所業……ッ!」
「さらに、タン塩の食い方も間違ってるぞ」
優太の猛攻は止まらない。
彼は、卓上に置かれていた小瓶を取り出した。
「タン塩は、ただ塩で食うと喉が渇く。だから、この『レモン汁』に浸して食うんだ。クエン酸が塩分の角を丸くし、消化液の分泌を促して胃袋をリセットしてくれる」
「な、なるほど……! 酸味が塩味を包み込み、極めて爽やかな後味になるわね!」
リーシャが、レモン汁にくぐらせたタン塩を次々と平らげていく。
『グァァァァッ! レモンの盾ごと、酸の海(レモン汁)に沈められるとは……ッ!』
タン塩の断末魔が、網の上でジュワッと蒸発していく。
優太はニヤリと笑い、マルストアチームの全員に向かって宣言した。
「いいか、お前ら! 焼肉バイキングの極意は『無限ループ』だ!
タン塩(塩・酸味)でサッパリと口火を切り、
カルビ(脂)をサンチュ(野菜)で巻いて中和しながら食い、
口の中が脂っぽくなったら、再びタン塩に戻る!
この【塩→脂+野菜→酸】の無限サイクル(チート)を回し続ければ、90分間、胃袋は絶対に限界を錯覚しない!」
「おおおおおっ!! さすが軍団長! 永久機関の完成だぜ!」
イグニスが歓声を上げ、猛烈な勢いでループを回し始める。
「無限ループ! アイカツの周回プレイみたいで燃えますわね!」
リーザも強欲に肉を焼き、サンチュで巻きまくる。
「(あぁぁっ! 痛い、熱い! サンチュの姉御ォォォッ!)」
「(すまん、カルビ……。俺の塩分が、逆に奴らの食欲を加速させるスパイスになってしまったようだ……)」
網の上で、そして皿の上で。
肉の双璧と呼ばれたカルビとタン塩は、優太の『地球の焼肉メソッド』の前に完全に攻略され、ただの「美味しい無限ループのパーツ」として、無惨かつ幸せそうに消費されていった。
***
「…………」
ショーケースの奥深く。
トンデモナイトは、もはや言葉を失い、その場に膝をついていた。
カレーライス、ビール、飲茶、そして最強の主力であったカルビとタン塩の双璧すらもが、あのジャージの男の知略の前に完全に打ち破られた。
「トンデモナイト……」
後ろから、美しきハラミ姫が震える声で彼を呼ぶ。
「姫……申し訳ございません。私の指揮が至らぬばかりに、精鋭たちが……っ」
「謝らないで。皆、立派に戦いました。……残り時間は、あとどれくらい?」
トンデモナイトは、壁掛けの魔導時計を見上げた。
「……残り、40分。奴らの胃袋は、いまだ底を見せません」
絶望的な時間。
主力部隊を失った食材軍団にとって、残りの40分を耐え抜くことは不可能に思えた。
だが、トンデモナイトは再び立ち上がり、聖剣を強く握り直した。
「姫……まだです。まだ、我らには『時間稼ぎのスペシャリスト』が残されております」
トンデモナイトの視線の先。
そこには、白く、ブヨブヨとした、見るからに強靭な肉体を持つ異形の部隊が、静かに横たわっていた。
「出番だ……ホルモン部隊。奴らの顎を疲労させ、時間を稼げ! 絶対に、飲み込ませるな!!」
次話。
決して噛み切れない絶対防御の盾。
ホルモン部隊の決死の遅延工作が、マルストアチームの顎に襲い掛かる!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第5話、いかがだったでしょうか!?
焼肉の主役である「カルビ」と「タン塩」が満を持して登場しましたが、優太の『地球の焼肉無限ループ理論(サンチュとレモン汁)』の前に、なす術なく平らげられてしまいました(笑)。
サンチュが「敵の死骸を盾にする悪魔の所業」と捉えられている食材側の視点、楽しんでいただけましたら幸いです!
次回は、焼肉における最強の遅延トラップ「ホルモン」が登場します!
いつまで噛んでも飲み込めないあの肉に、優太はどう立ち向かうのか!?
そして、徐々に迫り来るタイムリミット! 食材たちの命運やいかに!?
【読者の皆様へ、全力のお願い!】
カルビとタン塩の散り様に涙した方、無限ループ理論に「あるあるw」と頷いてしまった方は、ぜひ応援をお願いいたします!
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それでは、次回の第6話「時間稼ぎの無限回廊」でお会いしましょう! 絶対に笑わせます!




