EP 4
飲茶の悲劇! 網の上のクレーター
「……来るぞ。ついに悪魔の総大将(優太)が、我らの王城の前に立った!」
タロキン厨房の巨大冷蔵庫。
豚の騎士トンデモナイトは、ショーケースのガラス越しに、トングを構えて立ちはだかる優太の姿を睨みつけていた。
カレーライス部隊は竜人の胃袋に沈み、アルコール部隊は駄女神の神の肝臓によって無力化された。
前衛と搦め手を失い、食材軍団に残されたのは、もはや『正面切っての肉弾戦』のみ。
だが、相手は焼肉バイキングの原価率を熟知し、決して炭水化物や無駄なサイドメニューには手を出さない冷徹なる知将である。
「くっ……このままでは、ハラミ姫はもちろん、主力であるカルビやロースたちも次々と焼き尽くされてしまう! 誰か、奴らの出鼻を挫き、満腹中枢に一矢報いる勇者はいないのか!」
トンデモナイトが悲痛な声を上げた、その時だった。
『ヘヘッ……トンさんの旦那。ここらで俺の出番ってわけだな』
「ッ!? お、お前は……!」
バイキングコーナーの一角。湯気を立てる中華保温器の中から、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった小柄な戦士がいた。
薄くもっちりとした皮の装甲に身を包み、その内部に灼熱の肉汁を秘めた点心部隊の切り込み隊長――『飲茶』である。
「飲茶! お前、前線に出るつもりか!?」
「当たり前だろ。カレーの野郎も、ビールの奴らも、やられっぱなしじゃ食材のメンツが立たねぇ」
飲茶は、せいろの縁に足をかけ、親指で己の胸をドンッと突いた。
「ここらでお遊びは、いい加減にしろって所をみせてやりたいぜ」
「な、なんて頼もしい背中なんだ……!」
サンチュやウインナーたちが、飲茶の自信に満ちた姿に感涙を流す。
点心部隊は、焼肉屋のサイドメニューの中でも異色の存在。肉と炭水化物を併せ持ち、さらに内部に潜ませた熱々のスープで『客の舌を火傷させる』という、物理的なカウンター攻撃すら可能な歴戦の猛者なのだ。
「ヘッ……見てな。俺の『狼牙風風スープ』で、あいつらの舌をズル剥けにして、食欲を根こそぎ奪ってやるよ。俺一人で十分だ!」
「飲茶、無茶するな! 相手はこれまでの常識が通用しないバケモノ揃いだぞ!」
トンデモナイトが必死に制止する。
だが、飲茶はニヤリと笑うと、自ら進んで保温器から飛び出し、バイキングのトングに掴まれる位置へと躍り出た。
「へへっ、心配すんなトンさん。ちょっと網の上で暴れてくるわ!」
***
一方、タロキンのフロア。
肉のショーケース前で真剣にハラミやカルビを選別している優太の横を、空の皿を持った芋ジャージの少女――地下アイドルのリーザが通りかかった。
「ふふん! プロデューサーは相変わらずお肉の質に厳しいですわね! でも、私はアイドル! お肉ばかりでなく、バラエティに富んだお食事をファンにアピールしなくてはなりませんの!」
強欲な人魚姫は、肉のコーナーを素通りし、サイドメニューの並ぶコーナーへとやってきた。
そして、せいろの中で一番大きく、美味しそうな湯気を立てている一個の『小籠包(飲茶)』に目を留めた。
「あ、美味しそうな小籠包ですの!」
リーザは迷わずトングを伸ばし、飲茶を自分の皿へと乗せた。
「(来たぜ……! しかも、後衛の小娘一人! 俺を網の上で温めようって魂胆だな? いいぜ、乗ってやるよ!)」
飲茶は皿の上で不敵に笑っていた。
リーザが席に戻り、熱々の網の端っこに飲茶をコロンと乗せる。
ジューッという音と共に、飲茶の皮が香ばしく焼かれ、内部の肉汁が極限まで加熱されていく。
「(ヘヘヘ……! 温度は最高潮だ。さぁ、小娘! 俺を口に入れてみろ! 噛んだ瞬間、超高温のスープが口腔内で爆発し、お前の舌と喉を確実に焼き尽く――)」
『パクッ。』
「…………え?」
飲茶が思考を完了させるよりも、遥かに早く。
リーザは、網の上でグツグツと煮えたぎっていた飲茶を箸で摘まむと、一切の躊躇もなく、フーフーと冷ますことすらなく、一口でパクリと口の中に放り込んだのだ。
「(なっ……!? 冷ましもせずに丸呑みだと!? バ、バカな、俺の超高温スープが……ッ!)」
『モニュ、モニュ……ゴクッ。』
「んーっ! 熱々で美味しいですの! 中からジュワッと出てくるお汁が最高ですわ! さーて、次は唐揚げを取ってきますの!」
リーザは、顔色ひとつ変えずにペロリと唇を舐めると、皿を持って再びバイキングコーナーへとスキップしていった。
彼女は、下積み時代にスーパーの試食コーナーで鍛え上げられた『強欲なる鉄の胃袋と鋼の粘膜』を持つ女。常人の舌を焼く程度の熱々スープなど、彼女にとっては「ちょうどいい温度の肉汁」でしかなかったのだ。
「(ば、ばかな……俺の……俺の狼牙風風……スゥ……プ……が……)」
圧倒的強者の前になす術もなく、飲茶の意識は、リーザのブラックホールのような胃袋の底へと、あっけなく消え去っていった。
***
「…………」
ショーケースの中。
王城の食材たちは、息を呑んでその光景を見つめていた。
誰もが言葉を失い、静まり返る極寒の冷蔵庫内。
優太たちのテーブルの上の、煌々と燃えるロースター。
その熱き網の上には。
リーザが飲茶を掴み取った際に破れた、薄い皮の切れ端と、焦げ付いた肉汁の跡だけが……まるで『爆発跡のクレーター』のように、ぽつんと、ただ哀れに張り付いていた。
「……う、嘘だろ……」
サンチュが震える声で呟く。
「飲茶あああああああああっっ!! 無茶しやがってェェェェェェェェッ……!!」
トンデモナイトの血を吐くような絶叫が、タロキンの厨房に虚しくこだました。
あの自信に満ちた背中。
「お遊びはいい加減にしろってみせてやる」と語った、誇り高き戦士の姿。
それが、戦いの幕が開いた瞬間に、小娘の一口で網の上の小さなクレーター(焦げ跡)に成り果ててしまったのだ。
「なんて……なんて恐ろしい悪魔たちなのだ……ッ!」
トンデモナイトは、聖剣を持つ手をガクガクと震わせた。
「カレーライス部隊が食い尽くされ、アルコール部隊が無効化され、頼みの綱であった遊撃の飲茶すらも、一瞬の瞬殺劇……ッ! 奴らの食欲には、底というものがないのか!?」
「トンデモナイト様! お気を確かに! 今ここで貴方が倒れれば、ハラミ姫をお守りする者は誰もいなくなってしまいます!」
ウインナー兵が必死に励ます。
「……分かっている。分かっているとも!」
トンデモナイトは、自らの分厚い白脂を叩き、気合を入れ直した。
彼の視線の先には、大量の肉を皿に盛り付け、いよいよ本陣である自分たちのテーブル(網)へと戻っていく優太の姿があった。
「小細工はもう通用しない。……いくぞ、我が精鋭たちよ! 奴らの胃袋を物理的な質量と脂で叩き潰す、正面からの総力戦だ!」
トンデモナイトの呼びかけに応え、ショーケースの奥から立ち上がった二つの強大な影。
一人は、燃え盛るような赤身と、網を炎上させるほどの圧倒的な脂を誇る重戦士――『カルビ』。
もう一人は、レモンの盾を持ち、さっぱりとした身のこなしでありながら、強烈な塩分で客の喉の渇きを誘う双剣使い――『タンシオ』。
「行くぞ、タンシオ」
「ええ。我ら肉の双璧の力、悪魔の胃袋に刻み込んでやりましょう」
次話。
ついに火蓋が切られる、網の上の最終決戦。
脂と塩の最強コンビが、優太の『地球の焼肉メソッド(チート戦術)』と激突する!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第4話、いかがだったでしょうか!?
「ここらでお遊びは、いい加減にしろって所をみせてやりたい」と自信満々に飛び出し、開始数秒でリーザに丸呑みされ、網の上に『例のクレーター(残りカス)』だけを残して散っていった飲茶の悲劇……!
皆様の脳裏に、あの有名なポーズで倒れている点心の姿が浮かんでいれば大成功です(笑)。
カレー、ビール、そして飲茶。
あらゆる作戦を完璧に粉砕された食材軍団に、果たして勝ち目はあるのか!?
次回からは、ついに焼肉の主役である「カルビ」と「タンシオ」の双璧が、優太のトングと激突します!
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それでは、次回の第5話「脂と塩の双璧」でお会いしましょう! 絶対に笑わせます!




