EP 2
カレーライスで腹を膨らませろ! 前衛部隊の特攻
「……来るぞ。悪魔どもが、真っ直ぐにこの『王城』を目指して進軍してくる!」
タロキン店内、食材たちが並ぶ巨大な保冷ショーケース。
その最前列に陣取る豚の騎士『トンデモナイト』は、分厚い白脂の汗を滲ませながら、眼前に迫り来るマルストア最強チームの面々を睨みつけていた。
先頭を歩くジャージ姿の男(優太)の瞳には、一切の迷いがない。
その視線は、ショーケースの最奥、最も冷気が行き届いた特等席に鎮座する絶対的ヒロイン――『ハラミ姫』を正確に捉えていた。
「姫、奴らの狙いは間違いなく貴女だ。あの冷徹な眼差し……間違いなく『原価の高い肉から攻めて元を取る』という、バイキングの必勝法を熟知した死神の目!」
トンデモナイトは、手にした聖剣(銀のトング)を強く握りしめた。
このまま奴らを真っ直ぐショーケースに到達させてしまえば、ハラミ姫はもちろん、カルビやロースといった主戦力たちも一瞬で焼き尽くされてしまう。
「前衛部隊、前へ!!」
トンデモナイトの号令に応え、ショーケースの隣、温熱保温器の中から立ち上がった分厚い湯気。
そこに現れたのは、ドロッとした褐色の装甲を纏った重戦士――『特製・ロックバイソンカレー』であった。
「ヘッ……任せな、トンデモナイトの旦那。俺たち『炭水化物&スパイス』部隊の恐ろしさ、あいつらの胃袋にたっぷりと刻み込んでやるぜ」
カレーライス。
それは、焼肉バイキングにおいて店側が仕掛ける『最凶のトラップ』である。
肉を焼くまでの待ち時間、ふと漂うスパイシーな香りに誘われて一口食べてしまえば最後。強烈な炭水化物と重たいルーが胃の中で膨張し、開始早々に客の満腹中枢を破壊する、恐るべき自爆特攻部隊。
「頼むぞ、カレーライス部隊! お前たちの重い一撃で、奴らの胃袋の半分を削り取るのだ!」
「おう! 野郎ども、米麦草のライスを限界まで皿に盛れ! 悪魔どもの胃袋を、スパイスの海に沈めてやるァァァッ!!」
カレーライス部隊が、保温器の中でグツグツと煮えたぎり、決死の覚悟で香ばしい匂いをフロアに放った。
『フワァァァン……』
「……お?」
そのスパイスの香りに、いち早く反応した者がいた。
マルストア最強チームの誇る大食漢、身長二メートルを超える竜人族のイグニスである。
「ガハハハハ! なんだこの茶色いドロドロした汁飯は! すっげぇいい匂いがしやがるぜ!」
イグニスは、肉のショーケースへ向かっていた足をピタリと止め、カレーの保温器の前へと吸い寄せられていった。
「かかった……! かかったぞ!」
トンデモナイトが、ショーケースの中から歓喜の声を上げる。
「今だ、カレーライス部隊! 奴の胃壁にへばりつき、炭水化物の重みで身動きを封じるのだ!」
「うおおおおッ! 食らいやがれ、悪魔ァァッ!」
カレーライスが、備え付けの巨大なオタマによって、深皿にこれでもかと山盛りに注がれていく。
ご飯の白と、ルーの褐色が織りなす完璧なコントラスト。
イグニスはよだれを垂らしながら、巨大なスプーンを手に取った。
「いただきまーす! ガツッ、ムシャムシャ、バクバクバクッ!!」
イグニスの巨大な顎が、一切の咀嚼を放棄したかのような凄まじい速度で動く。
まさに竜の掃除機。
「い、いける! 奴の腹の中で、俺たちの米が極限まで膨張して……ふ、膨張し、て……?」
カレーライス部隊の隊長が、イグニスの口の中で異変に気づいた。
膨張するはずの炭水化物が、胃壁に張り付くはずの重厚なルーが。
竜人族の桁外れな胃酸と、圧倒的な消化スピードの前に、数秒で跡形もなくドロドロに溶かされていくのだ。
「ば、バカな……っ!? 俺たちの重撃が、まったく効いてないだと!? どんだけ底なしの胃袋してやがるんだ、こいつはぁぁぁっ!」
カレーライス隊長の悲痛な叫び声が響く。
「プハァッ! うめぇ! なんだこれ、中にロックバイソンの肉の切れ端がゴロゴロ入ってやがる! よーし、もう三杯おかわりだ!」
イグニスは、一瞬で深皿を空にすると、再び保温器のオタマを握りしめた。
「や、やめろ……っ! これ以上は……俺たちの部隊が、全滅しちまう……ッ!」
「トンデモナイトの旦那……悪ぃ……。俺たちじゃ、奴の腹の足しにもならなかった……ぜ……」
ズズズズズッ……!!
「カレーライスゥゥゥゥゥッ!!!」
トンデモナイトの悲痛な絶叫が、冷蔵庫内にこだました。
バイキング最強の前衛トラップであるはずのカレーライス部隊が、わずか三分。たった一人の竜人によって、寸胴鍋の底が見えるまで完全に平らげられてしまったのだ。
「化け物め……! なんという恐るべき悪魔だ! 我らが決死の特攻を、食前酒のようにおかわりするとは……ッ!」
トンデモナイトは、戦慄に白脂を震わせ、後ずさった。
食材たちに、絶望の影が落ちる。
だが、食材たちにとっての『本当の恐怖』は、竜人の胃袋の底なし具合ではなかった。
バシィィィィィンッ!!!
「いってぇぇっ!?」
カレーの寸胴鍋を空にしたイグニスの後頭部に、強烈な平手打ちが炸裂した。
「バカ野郎が!! お前、焼肉バイキングに来て、開始早々にカレーライス三杯も食ってどうするんだ!!」
ジャージ姿の軍団長、優太である。
彼は鬼の形相で、頭を抱えるイグニスを睨みつけていた。
「い、いいじゃねぇか優太! すっげぇ美味かったんだぜ!? ゴロゴロ肉も入ってたし!」
「それが店の罠なんだよ!!」
優太の怒声が、フロアに響き渡る。
「いいか、イグニス! バイキングにおける『カレー』や『チャーハン』、『ポテトサラダ』ってのはな、安価な炭水化物で客の腹を膨らませ、原価の高い肉を食わせないための『店側の刺客』なんだよ!」
「な、なんだってぇぇぇっ!?」
イグニスが驚愕に目を見開く。
「あんなの、肉の切れ端を煮込んでスパイスで誤魔化してるだけだ! あんなもんで胃袋の容量を30%も埋めやがって! 俺たちの目的は『元を取る』ことだと言ったはずだ! 次やったら、お前の今日のデザートは抜きだからな!」
「ヒィィッ! す、すまん軍団長! 以後気をつける!」
優太の容赦なき説教に、イグニスがシュンと肩を落として反省する。
その光景を、ショーケースの中から震えながら見ていたトンデモナイトたちは、絶望に言葉を失っていた。
「……ま、まさか。あのジャージの男……」
トンデモナイトが、ゴクリと肉汁を飲み込む。
「我々食材側の『炭水化物で満腹中枢を破壊する』という戦術を、完全に看破しているというのか……!?」
「と、トンデモナイト様! あの男、バイキングのルール(原価のからくり)を隅から隅まで知り尽くしています! このままでは、我らの作戦が全て読まれてしまいます!」
斥候のサンチュが、パニックを起こして葉っぱを震わせる。
「くっ……! なんという恐るべき知将だ。大食いの竜人ですら、あの男の掌の上というわけか」
トンデモナイトは、ショーケース越しに優太の冷徹な目を睨み返した。
「だが、まだ終わったわけではない! カレーライス部隊の犠牲は、決して無駄にはならぬ! 腹を物理的に膨らませるのがダメなら……次は、奴らの『思考(理性)』を奪うのみ!」
トンデモナイトは、ドリンクバーのコーナーへと視線を向けた。
「出撃せよ、アルコール部隊! 黄金の麦酒で奴らの脳を麻痺させ、満腹感の限界を錯覚させるのだ!」
果たして、食材たちの次なる作戦は、悪魔たちに通じるのか。
しかし、ドリンクバーの前に陣取っていたのは、神の肝臓を持つピンクジャージの駄女神であった――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第2話、いかがだったでしょうか!?
「カレーライス部隊の決死の自爆特攻(ヤムチャみのある死)」と、イグニスの「ただのつまみ食い」、そして優太の「バイキングガチ勢としてのガチ説教」が見事に交差する、アンジャッシュ的なすれ違いギャグをお届けしました!
焼肉食べ放題に行って、開始5分でカレーライスやポテトフライを山盛り食べて、友達や家族に怒られた経験……皆様にもあるのではないでしょうか?(笑)
次回は、トンデモナイトの次なる刺客「アルコール部隊」が立ちはだかります!
しかし、迎え撃つのは、ソシャゲ課金とタダ酒をこよなく愛する駄女神ルチアナ! 果たしてビールの運命やいかに!?
【読者の皆様へ、全力のお願い!】
このバカバカしい防衛戦に少しでも「フフッ」と笑ってしまった方、カレー部隊の犠牲に涙した方は、ぜひ応援をお願いいたします!
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それでは、次回の第3話「黄金の麦酒作戦! 酔わせれば勝ちだ!」でお会いしましょう! 絶対に笑わせます!




