第十一章 聖戦の90分! 焼肉バイキング『タロキン』防衛戦 〜食材たちの誇りと、悪魔の胃袋〜
開戦の銅鑼! 悪魔の軍団襲来
マルストア領・中央商業特区。
建国者である佐藤太郎の『100円ショップの概念』から派生し、領主である中村優太の政策によってさらなる発展を遂げたこの街に、新たな娯楽施設がオープンした。
その名も、焼肉バイキング『タロキン』。
広大なフロア、各テーブルに設置された最新型の無煙魔導ロースター。そして、肉、野菜、惣菜、デザートに至るまで、百種類以上の食材がショーケースに並ぶ、夢のような食べ放題レストランである。
そして今日、この『タロキン』の入り口に、かつてないほどの凶悪なオーラを放つ一団が降り立っていた。
「……いいか、お前ら。今日の戦い(ランチ)の制限時間は90分だ」
ジャージ姿の領主、中村優太が、腕を組みながら真剣な面持ちで仲間たちを見回す。
「朝食を抜いて胃袋を極限まで空けてきたな? バイキングの鉄則は『元を取る』ことだ。原価率の高い牛肉を中心に攻め、水分は極力控える。……間違っても、最初にポテトサラダやフライドポテトでお腹を満たすような素人ムーブは許さないぞ」
「ガハハハハ! 任せておけ軍団長! 俺様の胃袋は今、腹の虫が暴れ回って竜の咆哮を上げてるぜ! ショーケースの肉を端から全部平らげてやる!」
身長二メートルを超える竜人族のイグニスが、拳をバキバキと鳴らしながらよだれを垂らす。
「ふふん! 徹底的なコスト計算ならお任せですの! 太客のプロデューサー(優太)のお財布とはいえ、食べ放題なら遠慮はしませんわ! 高級肉だけを狙い撃ちにして、お店を赤字にしてやりますの!」
芋ジャージの地下アイドル・リーザが、電卓を弾きながら強欲な笑みを浮かべている。
「極めて論理的ね。タンパク質の過剰摂取は筋肉の修復に役立つわ。私の魔力代謝をもってすれば、牛一頭分は軽いでしょう」
「わぁぁ、お肉! お肉! デザートのアイスも全種類食べたいです!」
エルフのリーシャが眼鏡をクイッと押し上げ、兎耳のキャルルがぴょんぴょんと飛び跳ねた。
さらにその後ろでは。
「ひゃっほー! 昼間からタダで焼肉とビール! 最高の休日ね! 今日は飲むわよぉぉっ!」
ピンクのジャージを着た駄女神ルチアナが、ジョッキを握りしめる素振りをしながら荒い鼻息を吐いていた。
全員、極限の空腹状態。
天魔窟の激戦を乗り越え、さらに胃袋の容量が限界突破しているマルストア最強チームの面々。彼らは今、ただの腹ペコな悪魔の軍団と化していた。
「よし。行くぞ、野郎ども!」
優太の号令と共に、悪魔たちは自動ドアを潜り、戦場へと足を踏み入れた。
***
一方、その頃。
タロキンの厨房奥深く――冷気に包まれた巨大な業務用冷蔵庫の中。
そこは、食材たちにとっての『王城』であった。
霜が降りる極寒の空間の中、美しく並べられた銀のトレイの上で、彼らは悲痛な面持ちで集結していた。
「……トンデモナイトよ。ついに、この時が来てしまったのですね」
透き通るような美しい赤身に、芸術的なまでの白いサシ(脂)が入った高貴なる姿。
食材たちの象徴であり、最も美味とされる絶対的ヒロイン――『ハラミ姫』が、悲しげに声を震わせた。
「ご安心くだされ、ハラミ姫!」
彼女の前に跪き、分厚い白脂の鎧をガシャンと鳴らしたのは、豚肉の精鋭部隊を束ねる誇り高き騎士、『トンデモナイト』であった。
彼の分厚い肉体は、どんな強火にも耐えうる強靭さを誇り、手には聖剣(銀のトング)が握られている。
「我ら食材の誇りに懸けて、姫のお命……いや、その美しい『鮮度』は、私が必ずお守りいたします!」
「おお……トンデモナイト。なんと心強い……っ」
その時、冷蔵庫の扉の隙間から、斥候部隊である『サンチュ』が息を切らして駆け込んできた。
「ほ、報告します! 大広間に、恐るべき『暴食の悪魔たち』が襲来しました! 奴ら、朝食を抜いており、眼の血走りが尋常ではありません! しかも、竜人族やエルフまで混ざった最悪の混成部隊です!」
その報告を聞き、冷蔵庫内に待機していた一般兵(ウインナーや玉ねぎたち)が、「ヒィィッ!」と絶望の悲鳴を上げた。
食材たちにとって、ショーケースに並べられることは『死の宣告』に等しい。
悪魔(客)の皿に乗せられ、灼熱の地獄で焼かれ、容赦なく咀嚼されて胃袋の酸の海へと沈められる。
彼らに残された生存ルートはただ一つ。
『90分間』。
タロキンの食べ放題の制限時間である90分を耐え抜き、客の満腹中枢を刺激して食欲を削ぎ落とし、タイムアップのブザーを鳴らすこと。
無事に90分を生き延びれば、彼らは再びこの王城(冷蔵庫)へと帰還し、平和な夜を迎えることができるのだ。
「怯むな、皆の衆!!」
絶望に包まれる王城の中で、トンデモナイトが立ち上がり、大音声で一喝した。
「奴らがどれほど腹を空かせていようと、胃袋の容量には必ず限界がある! 我々はただ無策で食われるだけの肉塊ではない! 誇り高きタロキンの戦士だ!」
トンデモナイトは聖剣を天高く掲げた。
「前衛部隊で奴らの腹を膨らませ、アルコールで感覚を狂わせる! 仲間の犠牲を決して無駄にはするな! この90分の聖戦、我ら食材軍の総力を結集し、必ずやハラミ姫をお守りするのだ!!」
「「「おおおおおおおおっっ!!!」」」
トンデモナイトの熱き演説に、カルビ、タン塩、ホルモンといった歴戦の猛者たちが一斉に雄叫びを上げた。
自らの身を焦がしてでも、姫を守り抜く。
食材たちの気高い闘志が、極寒の冷蔵庫を熱く焦がしていく。
***
「いらっしゃいませー! 90分食べ放題コース、6名様ですね! それでは、お時間スタートになります!」
店員の明るい声と共に、無情にも伝票に開始時間が印字された。
「よし! 作戦開始だ! イグニス、お前はデカい皿を三枚持ってこい! 俺はタレの調合をする!」
優太が腕まくりをし、戦場を見据える。
人間たちの容赦なき欲望(食欲)と、食材たちの気高き誇り(生存戦略)。
絶対に交わることのない二つの思惑が、今、煌々と輝くショーケースの前で激突しようとしていた。
果たして、この凄惨な90分の死闘を制するのは、悪魔の胃袋か、それとも食材の絆か。
「姫、行ってまいります」
「トンデモナイト……どうか、ご無事で……ッ」
ショーケースのガラス越し。
よだれを垂らして迫り来る巨大な人間の顔(優太たち)を見上げながら、トンデモナイトは静かに聖剣を構え、最初の陣形を敷いた。
伝説の焼肉防衛戦が、今、静かに幕を開ける――!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
前章までのシリアスな死闘から一転!
まさかの『焼肉バイキングの食材たち(DBパロディ風味)』が命懸けの防衛戦を繰り広げる、異色のコメディ新章がスタートしました!(笑)
読者の皆様、いかがだったでしょうか?
「バカバカしすぎるだろ!」「食材側のシリアスと人間側の温度差がヤバい!」と少しでも笑っていただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
次回、ついに食材軍団の先陣が特攻を仕掛けます!
しかし、立ちはだかるのは大食漢の竜人イグニスと、常識外れのあの男……! 飲茶の運命やいかに!?
【読者の皆様へのお願い】
もしこの第1話を読んで「続きが気になる!」「トンデモナイトを応援したい(食べたい)!」「このバカバカしさが好き!」と少しでも思っていただけましたら……
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それでは、次回の第2話「カレーライスで腹を膨らませろ!」でお会いしましょう! 絶対に笑わせます!




