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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 6

絶望の隔離部屋(VIPルーム)と、エルフの決断

ズドドドドドドドッ!!!

「うわああああぁぁぁっ!」

「くっ……!」

天魔窟の地盤が唐突に崩落し、ユートとリーシャの体は、底知れぬ暗闇の縦穴へと吸い込まれていった。

上の方から「ユート! リーシャ!」という優太の叫び声が聞こえた気がしたが、それもすぐに崩落の轟音にかき消されてしまう。

数秒の落下。

そして、ドスゥンッ! という鈍い衝撃と共に、二人はさらに深い地下空間の床へと叩きつけられた。

「ゲホッ、ゴホッ……! い、いってぇぇ……」

ユートは全身の骨が軋むような痛みに顔を歪めながら、もうもうと舞い上がる土煙の中で身を起こした。

タローマン製の鉄鎧がひしゃげ、先ほど優太に縫合してもらった胸の傷が再びズキズキと痛む。だが、奇跡的に骨折はしていないようだった。

「リーシャさん! 大丈夫ですか!?」

ユートが慌てて周囲を見渡すと、数メートル先の土煙の中に、金糸の髪を泥に汚したエルフの美女――リーシャの姿があった。

だが、彼女の状況は、ユートのそれよりも遥かに深刻だった。

「……極めて、非論理的なトラップね。まさかダンジョンの地殻そのものを強制的に改変するなんて」

リーシャは顔をしかめ、自身の足元を見下ろしていた。

崩落の際、天井から降ってきた数トンはあろうかという巨大な岩盤が、彼女の右足の膝下を完全に押し潰す形で乗っかっていたのだ。

「り、リーシャさん! 足がっ!」

「騒がないで、ユート。幸い、岩が落ちてくる瞬間に局所的な防御結界シールドを張ったから、足は千切れていないわ。……ただ、魔力の大半を防御に回してしまったせいで、結界の維持だけで手一杯。自力で岩を退かす魔力は残っていないわね」

冷静に自身の状況を分析するリーシャだが、その美しい額には脂汗が浮かび、結界を維持する手が微かに震えている。

「僕が退かします! うおおおおっ!」

ユートは岩盤に取り付き、太陽芋の収穫で鍛えた背筋力を全開にして持ち上げようとした。

だが、数トンの岩石は、レベル1の農民勇者の力でどうにかなるものではない。ピクリとも動かなかった。

「……無駄よ。人間の力学的な限界を超えているわ」

「でもっ、このままじゃ……!」

『アハハハハハハハ!! いいザマだねぇ!』

突如、広大な地下空間に、耳障りな甲高い笑い声が響き渡った。

「誰だ!?」

ユートが剣を構えて周囲を見回す。

空間の四隅に設置された不気味な魔導スピーカーから、道化師の仮面を被った死蟲軍の指揮官・ギアンの声が、ノイズ混じりに流れてきた。

『チートみたいな戦術を使いやがって、腹が立って仕方なかったけど……こうして一番弱い農民のガキと、足の潰れたエルフを隔離してやれば、僕のストレスも少しはマシになるってもんだ!』

「卑怯だぞ! 罠にハメるなんて!」

ユートが虚空に向かって叫ぶ。

『卑怯? アハハ! ゲームマスター(管理者)がフィールドの仕様を変更しただけじゃないか! 仲良しゴッコの君たちには、この底冷えする地下闘技場(VIPルーム)がお似合いさ!』

ギアンの歪んだ笑い声と共に、暗い地下空間の奥で、ゴゴゴゴゴ……という重い岩扉が開く音がした。

『さぁ、紹介しよう! 僕が手塩にかけて生み出した最高傑作! ありとあらゆる虫の長所を悪魔合体させた、殺戮の芸術品!』

ズシンッ……。ズシンッ……。

暗闇の奥から姿を現した『それ』を見た瞬間。

ユートの全身の毛穴が開き、心臓が早鐘のように激しく鳴り始めた。

これまでに遭遇した死蟻型(エビ天)や死蛾型などとは、放っているプレッシャーの次元が違う。

体長は十メートル近く。

死甲虫型の強固な装甲をベースに、死蟷螂型の凶悪な鎌を両腕に備え、背中には死蛾型の巨大な羽。そして下半身は死蜘蛛型の多脚となっており、口からは死王蟻型の強力な溶解酸がボタボタと滴り落ちている。

合成死蟲将軍機ネクロキメラ・ジェネラル』。

死蟲王サルバロスの力を受け継いだ、天魔窟の中ボスとも呼べる最悪の存在だった。

『さぁ、ジェネラル! その生意気なエルフの女を、なぶり殺しにしておしまい! 男の方はどうでもいいよ、適当に酸で溶かしちゃえ!』

「ギョギギギギギギ……ッ!!」

死蟲将軍機が、耳をつんざくような咆哮を上げ、リーシャめがけてゆっくりと歩みを進めてくる。

一歩踏み出すたびに地響きが鳴り、圧倒的な『死』の気配が空間を支配した。

「……絶望的ね」

リーシャは、迫り来る巨大なバケモノを見据えながら、静かに魔導書を閉じた。

足は岩に挟まれて動かず、残存魔力は一桁。対する敵は、マルストア最強チームが全員揃っていても苦戦するであろう、規格外の合成魔獣。

天才的な頭脳を持つ彼女の導き出した生存確率は、『0%』だった。

「……ユート」

リーシャは、岩に取り付いて必死に持ち上げようとしている少年の背中に声をかけた。

「え?」

「聞きなさい。私の残存魔力で作れる防御障壁は、もって十秒。……その間に、あなたは全力でここから逃げなさい。上の階層に戻る隠し通路が、あなたの後ろの岩壁にあるはずよ」

「なっ……何言ってるんですか! リーシャさんを置いていくなんて、そんなことできるわけないだろ!」

ユートが涙目で振り向く。

「非論理的な感情論はやめなさい」

リーシャの声は、氷のように冷徹だった。

「あなたは戦力にならない。ここにいても、ただ酸で溶かされて無駄死にするだけよ。私が囮になって十秒稼ぐ。その間に優太たちと合流し、この魔獣の情報を伝えなさい。それが、あなたの命を最も有効に使う『論理的な選択』よ」

それは、紛れもない正論だった。

レベル1の借金勇者が、レベル100の中ボスに敵うはずがない。逃げて、強者に助けを求めるのが一番正しい判断だ。

これまでのユートなら、マグローザ漁船の恐怖を思い出して、一目散に逃げ出していたかもしれない。

だが。

「……嫌だ」

ユートは、岩から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。

足はガクガクと震え、ひしゃげた鉄の鎧がカチャカチャと情けない音を立てている。

手には、ホームセンターで買った1万円の安物の鉄の剣。

「ユート……? 私の論理が、理解できなかったの?」

「理解できますよ。僕が一番弱いし、逃げるのが正しいってことくらい……!」

ユートは、ポロポロと涙をこぼしながら、それでも。

動けないリーシャを背に庇うように、死蟲将軍機の真正面へと歩み出た。

「でも! さっきリーダーが言ってたんだ! 『助けるには段取りが要る』って! だから、僕がここで逃げたら、誰もリーシャさんを助ける段取りが組めないじゃないか!!」

「……ッ」

リーシャの論理的な瞳が、微かに見開かれる。

「それに……! 『撃たなきゃいけない瞬間は迷うな』って、リーダーが背中を押してくれたんだ! 今ここで逃げたら、僕はマグローザ漁船に乗るよりも……一生、自分のことが許せなくなるッ!!」

打算まみれで、気が小さくて、1億円の懸賞金が欲しかっただけの農民の三男坊。

だが、その心臓には、優太たちに触れて燃え上がった『見返りを求めない、真の勇気』の炎が、確かに宿っていたのだ。

「アハハハハ! 傑作だ! その小枝みたいな剣で、ジェネラルと戦うって!? 泣きながら震えてるくせに、カッコつけちゃってさぁ!」

ギアンの嘲笑がスピーカーから響く。

「ギョシャァァァァッ!!」

死蟲将軍機が、邪魔なユートを排除すべく、巨大な死の鎌を大きく振り上げた。

空気を切り裂く轟音と共に、刃がユートの頭上へと迫る。

「(怖い……死にたくない……っ! でも、退かない! 絶対に、退かないッ!!)」

ユートは鉄の盾を構え、目をカッと見開いて、死の刃を真正面から睨みつけた。

その瞬間。

ユートの心根にある『打算なき勇気』と『弱者を守る自己犠牲』が、ルチアナが仕込んだユニークスキル【ブレイブ】の隠し条件を、完全に満たした。

――ピシュンッ……!!!

ユートの心臓の奥底から、これまで感じたことのない、爆発的な熱量とエネルギーが、マグマのように全身の血管を駆け巡り始めた。

「え……?」

ユートの体が、淡い黄金色の光に包まれる。

次話。

ついに真の力を解放したユニークスキル【ブレイブ】。

借金まみれの農民勇者が、神に匹敵する力で理不尽を叩き斬る、最大のカタルシスが幕を開ける!

読んでいただきありがとうございます。

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