表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
209/239

EP 6

蹂躙のキマイラと、交戦下救護(CUF)の誓い

『ギャオォォォォォォォォォォッ!!!』

マルストア領・西の境界線。

月明かりをかき消すほどの威圧感を放ちながら、合成魔獣キマイラが三つの首をもたげた。

黄金の鬣を持つ獅子の頭が、極大の火球を生成する。同時に、背中に癒着した山羊の頭が、大気を凍り付かせる絶対零度の吹雪を吐き出した。

「炎と氷結の同時攻撃だと!? ふざけんな、物理法則はどうなってやがる!」

優太が薙刀を構えながら叫ぶ。

相反するはずの二つの魔法が、魔族の呪術によって強引に融合し、周囲の森を『燃やしながら凍らせる』という理不尽極まりない蹂躙を引き起こしていた。

「ガハハハ! 上等だ! 火力なら俺様だって負けねぇ!」

誰よりも早く動いたのは、マルストア領・突撃隊長のイグニスだった。

先ほどの『折れたス(ミスマッチ)』のトラウマを特製シーザーサラダで完全に克服し、闘気をみなぎらせている竜の戦士。彼は巨大な両手斧に紅蓮の炎を纏わせ、キマイラの正面へと一直線に跳躍した。

「吹き飛びやがれ! 『イグニス・ブレイク』ッ!!」

爆炎を伴った大質量の一撃が、キマイラの獅子頭めがけて叩き込まれる。

激突の瞬間、爆発的な衝撃波が周囲の木々をなぎ倒した。

だが――。

『メェェェェェェェェェ……ッ!!』

「なっ……!?」

イグニスの斧が獅子の頭を砕く直前、背中の山羊の頭が不気味に嘶き、極厚の『氷結障壁』を展開したのだ。

イグニスの爆炎と山羊の氷結が拮抗し、斧の軌道が完全に止められる。

「チィッ……なら、もう一発……!」

イグニスが斧を引き戻そうとした、まさにその死角。

キマイラの背後に隠れていた『蛇の尾』が、鞭のようにしなり、音速を超えてイグニスの無防備な脇腹へと襲い掛かった。

「イグニス! 左だ!」

優太の鋭い警告が飛ぶが、空中にいるイグニスは躱しきれない。

ガゴォォォォンッ!!

「ガ、ハァッ……!?」

大蛇の強烈な一撃をまともに受け、イグニスの巨体がボールのように弾き飛ばされた。

数百キロの巨体が大地を抉りながら転がり、マルストア領の結界付近でようやく停止する。

「イグニス殿!!」

ケンタウロス族のマンミアが蹄を鳴らして駆け寄るが、キマイラは追撃の手を緩めない。大蛇の牙から、先ほど長老トレントを溶かした【紫色の腐食毒】が、スコールのように降り注いできた。

「くそっ、避難している魔獣たちに当たる!」

マンミアは逃げることを良しとせず、愛用の大盾を構えて傷ついた動物たちの前に立ち塞がった。

「私が防ぎます! ――『騎士の誓盾』ッ!」

マンミアの闘気が盾に集中し、強固な光の壁を構築する。だが、魔族が練り上げた腐食毒は、闘気の壁すらもジュージューと音を立てて溶かし始めていた。

「くぅぅっ……! 盾が、長くは持ちません!」

マンミアが歯を食いしばる。毒の飛沫が彼女の肩口に飛び散り、ケンタウロスの美しい毛並みを焼き焦がしていく。

そこに、イグニスが口から血を吐きながら立ち上がろうとした。

「……ハァ、ハァ……。クソッタレが。三つの頭で、別々の攻撃をしてきやがる。俺様一人の突撃じゃ……押し切れねぇ……!」

圧倒的な武力を誇る竜人族に、初めて『個人の限界』を悟らせるほどの暴威。

それが、複数の命を冒涜的に繋ぎ合わせたキマイラというバケモノの真骨頂だった。

「――だから言っただろ、一人で戦おうとするなって!」

その時、絶望の雨が降り注ぐ最前線に、一陣の風が駆け抜けた。

中村優太である。

彼は背中に医療リュック(EDC)を背負ったまま、無双薙刀流の『縮地』に似た超高速の歩法で、マンミアとイグニスの元へと滑り込んだのだ。

優太の手には、薙刀ではなく、地球ショッピングで引き当てていた分厚い『耐熱・耐薬ケブラーポンチョ』が握られていた。

バサァッ! とポンチョを広げ、マンミアとイグニス、そして背後の魔獣たちをすっぽりと覆い隠す。直後、毒のスコールがポンチョに降り注ぐが、地球の軍事技術が魔族の毒を完全に弾き返した。

「ボス!?」

「優太……お前……!」

「喋るな。これより『CUF(Care Under Fire:交戦下救護)』を開始する!」

優太の瞳は、敵の猛攻を前にしても一切の揺らぎを見せなかった。

防衛医科大の戦術医療において、最も過酷で、最も冷静さを求められる状況。敵の銃弾――この場合はキマイラの魔法と毒――が飛び交う最前線で、仲間の命を繋ぎながら戦線を維持する究極の技術だ。

「リーシャ! キマイラの視界を奪え! キャルルは俺たちの周囲に飛んでくる火の粉を叩き落としてくれ!」

「了解よ! 『広域泥土結界マッド・ブラインド』!」

「はいっ! 任せてください優太くん!」

後方からリーシャが巨大な泥の壁を隆起させ、キマイラの視界を一時的に遮る。その間隙を縫って、キャルルが銀色のトンファーで迫り来る炎の残滓を次々と打ち払う。

仲間の完璧な援護の中、優太はポンチョの下でイグニスの脇腹を確認した。

「……肋骨が三本イッてるな。内臓破裂はないが、闘気の循環が乱れてる」

優太は医療リュックから『超強力鎮痛テープ』と、高濃度の治癒ポーションを取り出した。テープを肋骨に沿ってバツ印に貼り付けて患部を強引に固定し、ポーションをイグニスの口に流し込む。

「痛ぇっ! おい優太、もっと優しく……!」

「戦場にVIPルームはない。我慢しろ」

優太は次に、マンミアの肩に付着した腐食毒を、地球の『化学兵器中和スプレー』で一瞬にして無害化し、火傷跡に冷却ジェルを塗り込んだ。

ほんの数十秒の出来事だった。

飛び交う魔法の嵐の中で、優太は一切の恐怖を見せず、的確に、そして確実に応急処置を完了させたのだ。

「……っ、痛みが……引いた。呼吸もできる」

イグニスが驚いたように自分の脇腹を撫でる。マンミアも、肩の激痛が消え去っていることに目を見開いた。

「ボス……ありがとうございます。ですが、あのバケモノをどうすれば……」

「簡単だ。あいつは三つの頭が、それぞれバラバラに俺たちを狙っている。個々の火力は圧倒的だが、『心』が繋がっていない。ただ縫い合わされているだけの、悲しいバケモノだ」

優太はポンチョを撥ね退け、薙刀を拾い上げて立ち上がった。

「イグニス。お前は俺の自慢の悪友で、最強の戦士だ。でも、何でもかんでも一人で抱え込むのは、今日で終わりにしろ」

「……優太」

「お前が右の山羊の頭を抑えろ。リーシャが後方から水と土でアイツの足を止める。キャルルは俺と一緒に、獅子と蛇の頭を落とす。……相手が三つの頭の合成獣なら、俺たちは『四つの心』が繋がった、最高のチームで迎え撃つ!」

優太が薙刀の切先を、泥の壁を破って再び現れたキマイラへと真っ直ぐに突きつけた。

「俺が指揮を執る。お前たちの力、120パーセント引き出してやるから、俺を信じて前を向け!」

その言葉に、イグニスがニヤリと牙を剥き出しにして笑った。

折れたスによる絶望も、先ほどの敗北の痛みも、優太の『絶対に仲間を死なせない』という強烈な善性の前では、全てが吹き飛んでいた。

「ガハハハハ! 上等だ! お前が軍団長ってわけだな、優太!」

イグニスが両手斧を肩に担ぎ、再び闘気を爆発させる。

「よし、右の山羊野郎は俺様が引き受ける! 誰にも文句は言わせねぇぞ!」

マンミアが傷ついた魔獣たちの盾として後方を固め、キャルルが優太の背中合わせに立ち、銀色の闘気を練り上げる。

「優太くんの背中は、私が死守します!」

通信用の魔導石から、リーシャのクールな声が響く。

『優太、陣形の構築は完了よ。いつでも、極大魔法を放てるわ』

ハイブリッド・メディックによる交戦下救護が完了し、マルストア最強チームの反撃の陣形が、ついに完成した。

「行くぞ……。総員、反撃開始カウンター・アタック!!」

優太の裂帛の気合いと共に、四つの影が、絶望の合成魔獣へと同時多発的に襲い掛かる。

命を奪うための暴威に対し、命を守るための『絆』が牙を剥く。

反撃の狼煙が、魔獣の森の夜空に高々と上がった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ