表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
197/247

EP 4

学科試験とエルフのカンペ

「……『問題。見通しの悪い交差点において、上空にワイバーンの影が落ちた場合、魔導車両の運転手はどう対処すべきか』……ええと、たしか……」

ルナミス魔導教習所の自習室。

優太は頭を抱えながら、分厚い『帝国魔導交通法・教本』と睨み合っていた。

実技教習では、地球の教習所で培った完璧なテクニックとドルクの魔改造サスペンションのおかげで、バロッサ教官から(イグニスの尻尾破壊事件を乗り越えて)高い評価を得た。

しかし、運転免許取得への道は実技だけではない。最大の難関である「学科試験」が立ちはだかっていたのだ。

「正解は……『直ちに車両を路肩に停止させ、対空魔法障壁を展開するか、速やかに車体を茂みに隠してワイバーンが通り過ぎるのを待つ』。……いや、無理だろ! 対空魔法障壁なんて標準装備してる車がどれだけあるんだよ!」

「ガハハハ! ワイバーン程度で隠れるたぁ、帝国の人間は臆病だな! 俺様なら車から飛び出して、両手斧で真っ二つにしてやるぜ!」

自習室の長机に足を乗せ、ふんぞり返っているイグニスが豪快に笑う。

優太はため息をつきながら、教本の次のページをめくった。

「お前がそれをやったら『過剰防衛』と『道路損壊罪』で一発免停だよ。……次の問題。『横断歩道を渡るトレント(樹人)の群れに遭遇した場合の正しい行動を答えよ』」

優太は地球の道交法の知識を総動員する。歩行者優先の原則に従えば、答えは自ずと出るはずだ。

「ええと、歩行者……いや、歩行樹優先だから、『トレントが渡り切るまで一時停止して待つ』だろ?」

「ブッブー! 不正解です、優太」

不意に、優太の背後から凛とした美しい声が響いた。

振り返ると、透き通るような金髪を揺らし、知的な青い瞳を輝かせたエルフの美女――第二夫人のリーシャが、分厚い魔導書を何冊も抱えて立っていた。

「リーシャ! どうして教習所に?」

「妻として、あなたの社会的な挑戦をサポートするのは当然の義務よ。ルンベルスから、あなたが異世界の『法』の壁にぶつかっていると聞いて、参考資料を持ってきたの」

リーシャは優太の隣に腰を下ろし、教本を覗き込んだ。

「さっきのトレントの問題の正解は、『トレントの移動には数日を要するため、無理に待たず、迂回路を探す。ただし、魔法の肥料(ポーション等)を貢ぐことで道を譲ってもらう交渉は合法である』よ」

「数日!? 信号待ちのレベルじゃないのか!? しかも賄賂(肥料)が合法って、どういう交通ルールなんだよ!」

「地球の『道交法』と、このマンルシア大陸の『魔導交通法』は、根本的な前提が違うのよ、優太」

リーシャは持参した羽ペンをすらすらと羊皮紙に走らせ、見事な対比表を描き出した。

「地球のルールが『人間同士の安全と効率』を目的としているのに対し、この世界のルールは『人間と圧倒的な大自然(魔獣・亜人・魔法現象)との共存と生存』が目的なの。だから、ワイバーンからの退避や、トレントへの交渉術が『運転技術』として組み込まれているのよ」

「なるほど……。文化と環境の違いか。防衛医大でTCCC(戦術的戦傷救護)のガイドラインを暗記した時よりも、はるかにイレギュラーな要素が多いな……」

「でも、論理的な法則はあるわ。私が地球のルールと、この世界のルールを照らし合わせた『比較暗記表カンペ』を作ってあげる。……ほら、これを見て」

リーシャが書き上げた羊皮紙には、優太の脳内にある地球の概念に翻訳された、完璧な学習マニュアルが記されていた。

【地球】歩行者横断妨害 = 【帝国】大魔獣進路妨害(※踏み潰されるため命の危険あり)

【地球】スピード違反 = 【帝国】闘気・魔力過剰出力罪(※周囲の魔力場を乱すため)

【地球】煽り運転 = 【帝国】狂化魔法の不正使用(※ただちに聖騎士が飛んでくる)

「すごい……! これなら医学書を暗記する要領で、頭にスッと入ってくる! さすがリーシャ、大陸一の賢者だ!」

「ふふっ。愛する夫の役に立てて光栄よ。……でも、頭を使うには糖分と栄養が必要ね」

リーシャが微笑んだその時、自習室のドアが勢いよく開き、今度は銀色の兎耳をピンと立てた少女が満面の笑みで飛び込んできた。

「優太くーん! お勉強、お疲れ様です! 愛妻特製、栄養満点のお弁当をお持ちしましたよーっ!」

「キャルル! わざわざ作ってきてくれたのか!」

第一夫人のキャルルが、嬉しそうに駆け寄ってくる。彼女の手には、優太の顔より大きいのではないかというほどの、巨大な三段重の弁当箱が抱えられていた。

「おっ! 飯か! 待ってましたとばかりに俺様が……」

「イグニス、お前はさっき食堂で『ピラダイの丸焼き定食』を三人前食ったばかりだろ。これは俺の分だ」

優太がすかさず弁当箱をガードすると、キャルルはパカッと一段目の蓋を開けた。

中から、食欲をそそる芳醇な香りが自習室いっぱいに広がる。

「じゃーん! まずは『肉椎茸と米麦草のスタミナおにぎり』です! それから、二段目は『ハニーかぼちゃの甘煮』! 農家のおばちゃんたちにフラれて絶望したハニーかぼちゃを、私が愛を込めて煮込み直しました! そして三段目は……『たまんネギの賢者炒め』です!」

「お、おお……豪華だな。しかし『賢者炒め』とは?」

「はい! 収穫の時に、たまんネギが読んでいたルナミス新聞社のエロ本をビリビリに破いて没収したら、スゥッと悟りを開いて最高の甘味を出してくれたんです! 優太くんの脳細胞も、これで賢者モードまちがいなしですよ!」

キャルルの愛(と少しの狂気を含んだ食材)が詰まった弁当に、優太は苦笑しながらも箸を伸ばした。

肉椎茸の深い旨味と、たまんネギの澄み切った甘さが、勉強で疲弊した優太の脳に染み渡っていく。

「美味い……! キャルル、本当にありがとう。すごく元気が出たよ」

「えへへ……優太くんの『美味しい』が聞けるのが、私の一番の幸せですから」

キャルルは兎耳をパタパタと揺らしながら、愛おしそうに優太の頬を拭った。リーシャも隣で静かに微笑みながら、持参した魔法瓶から温かい『陽薬草茶』を注いでくれる。

圧倒的な武力と権力を持ちながらも、こうして妻たちに支えられ、真面目に交通ルールを覚えようとする優太の姿は、ひどく人間臭くて、尊いものだった。

「よし! 食った分、しっかり頭に叩き込むぞ!」

優太は気合を入れ直し、リーシャの作ってくれた『カンペ(比較表)』と教本を照らし合わせながら、猛烈な勢いで学科試験の勉強を再開した。

防衛医科大を突破した持ち前の集中力と記憶力が、異世界の交通法規を次々と飲み込んでいく。

数時間後――。

教習所の学科試験室にて、バロッサ教官は信じられないものを見るような目で、優太の答案用紙を見つめていた。

「……満点、だと?」

「はい。引っかけ問題もバッチリでした。『交差点にメロロンが転がってきた場合』の対処法は『絶対に窓を開けず、耳栓をして徐行で通過する』ですよね」

「ああ……その通りだ。過去、メロロンの甘い声に惑わされて車を降り、そのまま失踪した騎士が後を絶たなかったからな……。いや、それにしても驚異的な学習能力だ。帝国法をここまで完璧に理解するとは」

バロッサは胃の痛みが完全に消え去ったお腹をさすりながら、満足げに頷いた。

目の前の青年の実技と学科の成績は、教習所の歴史上でも類を見ないトップクラスだ。彼が明日行われる『路上・高速教習』をクリアすれば、文句なしで卒業検定へ進むことができる。

「よし、中村優太。明日は実際の街道を使った『高速教習』を行う。君のあの鉄のゴーレム……ランクルの真の性能を見せてもらうぞ。くれぐれも油断しないことだ」

「もちろんです、教官! 安全運転でいきます!」

優太はビシッと敬礼し、清々しい笑顔で自習室を後にした。

「はぁ、みんなのおかげで無事に学科もクリアできたし、今日も良い一日だった。平和だなぁ」

教習所の外に停めたランクルのボンネットを撫でながら、優太が何気なくそう呟いた時だった。

明日の高速教習に、帝国全土を揺るがす恐るべき『事件』が待ち受けていることなど、この時の優太はまだ知る由もなかったのである。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ