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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 11

刺客襲来。視察官の命を狙う闇の刃

「ひぃぃぃっ……! 化け物だ……っ! あんな連中、人間の軍隊で太刀打ちできるはずがない……っ!」

深夜のマルストア城、客室。

ゲルマン子爵は、ガチガチと激しく歯の根を鳴らしながら、部屋中を這い回るようにして逃げ支度を始めていた。

高価なトランクに、宝石や金貨、そして重要な書類を手当たり次第に詰め込んでいく。

彼の脳裏には、先ほど訓練場で目撃した、暗闇の中で極彩色のサイリウムを振り回す数百人の狂信的暗殺集団(オタ芸兵士)と、それを束ねる魔王ユウタの姿が焼き付いて離れなかった。

(あの光の軌跡……恐るべき速度の回避運動と全方位斬撃! しかも、あのような戦闘技術を数百人の平兵士が完璧に連携してやってのけるなど、帝都の常識ではあり得ない! これ以上こんな魔境に留まれば、私の命がいくつあっても足りん!)

ゲルマン子爵は、鼻水を啜りながらトランクの鍵を閉めた。

近衛騎士たちは、昼間のイグニスとの一件でまだ気絶したままだ。彼らを起こして連れて行く余裕すらない。自分一人でも、一刻も早くこの城から逃げ出さなければならない。

彼が重いトランクを持ち上げ、窓からこっそりと脱出しようと振り返った、まさにその時だった。

「――逃げ支度とは、随分と手回しがいいですね。ゲルマン子爵」

「……っ!?」

客室の闇が、ヌルリと剥がれ落ちた。

ゲルマン子爵の目の前、窓際のカーテンの陰から、全身を黒装束で包んだ男たちが音もなく現れたのだ。その数、五人。

彼らの手には、月明かりを反射しないように黒く塗られ、致死の猛毒が塗布された短剣が握られていた。

「き、貴様ら……何者だ! ここを帝都の特使の部屋と知っての狼藉か!」

ゲルマン子爵がトランクを盾にするように身構える。

「ええ、存じておりますとも。むしろ、貴方がこの辺境にノコノコとやって来るのを、我々は待っていたのですよ。帝都での貴方の政敵……ダグウェル伯爵からの依頼でね」

黒装束のリーダー格が、マスク越しに冷酷な笑みを浮かべた。

ダグウェル伯爵。帝都における革新派の筆頭であり、保守派の重鎮であるゲルマン子爵とは長年対立してきた男だ。

「貴方が連れてきた近衛騎士どもは、先ほど様子を見に行きましたが、なぜか全員白目を剥いて昏倒していましたよ。……おかげで、手間が省けました」

(ヒィッ! それは亜人イグニスにボコボコにされたからだ……!)

ゲルマン子爵は心の中で叫んだが、暗殺者たちは自分たちの実力で忍び込めたと勘違いしているらしい。

「ば、莫迦な……ダグウェルめ、ついに私を消しにかかったか……! ま、待て! 奴がいくら払ったか知らないが、私がその倍、いや三倍の金を出そう! だから私を……!」

「お断りします。我々『黒蜘蛛』は、プロフェッショナルですので」

暗殺者のリーダーが一歩、ジリッと距離を詰める。

ゲルマン子爵は恐怖で悲鳴を上げそうになりながらも、最後の抵抗として、懐から短い杖を抜き放った。

「なめるな! 昼間の『あの屈辱』を、貴様らで晴らしてくれるわ! 喰らえ、灼熱の……!」

シュッ!

ゲルマン子爵が呪文を詠唱し終えるより早く。

暗殺者の一人が手首をスナップさせ、放たれた一本の投げナイフが、ゲルマン子爵の杖を弾き飛ばし、そのまま彼の手首の袖を背後の壁へと縫い付けた。

「ギャアアアッ!?」

「無駄な抵抗はおやめなさい。貴族様の温室育ちの魔法など、我々の前では児戯に等しい」

暗殺者たちが、完全に獲物を追い詰めた肉食獣の足取りで、ジリジリと間合いを詰めてくる。

ゲルマン子爵は腰から砕け落ち、壁にへたり込んだ。

絶体絶命。

帝都の権力闘争の果てに、こんな辺境の地で、名もなき暗殺者の毒刃にかかって死ぬ。

あまりの惨めさと恐怖に、ゲルマン子爵の股間から生温かい液体が染み出し、豪華な絨毯を濡らしていく。

「ヒィィ……た、助けて……誰か……ッ!」

涙と鼻水に塗れ、ゲルマン子爵が情けなく命乞いをした。

「さようなら、ゲルマン子爵。闇に抱かれて眠りなさい」

暗殺者のリーダーが、毒に濡れた刃を高く振り上げた。

ゲルマン子爵が、ギュッと目を閉じ、死を覚悟した――まさに、その刹那である。

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!

客室の分厚いオーク材の扉が、まるで爆弾でも仕掛けられたかのように、蝶番ごと木端微塵に吹き飛んだ。

「なっ!?」

暗殺者たちが驚愕し、一斉に扉の方へと振り返る。

もうもうと立ち込める粉塵。

いや、それはただの粉塵ではない。暗殺者たちの視界を奪うかのように、廊下から『ピンクと水色の極彩色の煙(特撮エフェクト)』が、キラキラと輝きながら客室の中へと流れ込んできたのだ。

「夜遅くに、他人の領地おうちでコソコソと……。随分と不作法なネズミさんたちね」

「はいっ! 勇太様が、夜中は大きな音を立てちゃダメだって言ってたのに、悪い人たちです!」

極彩色の煙が晴れた後。

そこに立っていたのは、深夜の暗殺劇にはあまりにも不釣り合いな、二人の可憐な少女だった。

一人は、ウサギの耳を揺らし、ピンクのフリルがふんだんにあしらわれたミニスカート姿の月兎族キャルル

もう一人は、長い銀髪をなびかせ、ブルーの鮮やかなリボンで装飾された衣装を着たエルフ(リーシャ)。

二人は、月明かりを背に受けながら、ゲルマン子爵と暗殺者たちの前に堂々と立ちはだかった。

「……なんだ、この女どもは?」

暗殺者のリーダーが、毒刃を構えたまま胡乱な目を向ける。

「チッ、ただのメイドか愛妾だろう。こんな奇抜な服を着やがって、辺境の領主は随分と悪趣味らしいな」

「おいネエちゃんたち。ここは遊び場じゃねえんだ。痛い目を見たくなきゃ、すっこんで……」

暗殺者たちが、下卑た笑いを浮かべながら、キャルルとリーシャを嘲笑する。

だが。

部屋の隅でへたり込んでいたゲルマン子爵だけは、その二人の姿を見た瞬間、恐怖で心臓が止まりそうになっていた。

(ば、莫迦な……! なぜ、あいつらがここに!?)

ゲルマン子爵は知っている。

あのふざけた衣装を着たエルフが、昼間、サブリナと共にいた大魔術師であることを。

そして、あの月兎族の小娘が持っている「星の飾りがついたピンクの杖」が、ただのオモチャではなく、数十キロの特殊重金属で作られた規格外の質量兵器ダブルトンファーであることを。

「お前ら……! 逃げろ……っ!!」

ゲルマン子爵は、自分を殺そうとしていた暗殺者たちに向かって、悲鳴のような裏返った声で叫んだ。

「あいつらは……あいつらは人間の姿をした化け物だ! 触れれば一瞬で挽肉にされるぞォォォッ!!」

「……はぁ? 何をトチ狂ってやがる、子爵サマ」

暗殺者の一人が、呆れたように鼻で笑った。

「こんなヒョロヒョロのコスプレ女が化け物なわけ……」

暗殺者の言葉が終わるのを待たず。

キャルルとリーシャは、可愛らしく両手を頭上で交差させ、ビシッとポーズを決めた。

「愛と正義の星の戦士! ティンクルピーチ!」

「月の戦士、ティンクルムーン!」

二人の声が重なり、深夜の客室に、凛とした、しかし暗殺者たちにとっては文字通り『死の宣告』となる言葉が響き渡った。

「「月に代わって……お仕置きよッ!」」

(アァァァァァッ! 終わった……こいつら、全員ミンチにされるぅぅぅっ!)

ゲルマン子爵は両手で頭を抱え、ガタガタと震えながら部屋の隅で丸くなった。

帝都の暗部を担う凄腕の暗殺者集団と、マルストアが誇る狂気の魔法少女(殲滅部隊)。

圧倒的な暴力の蹂躙劇おしおきタイムが、今まさに幕を開けようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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