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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 10

「オタ芸」という名の軍事訓練。光るサイリウムの恐怖

「……認めん。あのようなデタラメが、あってたまるものか……!」

深夜のマルストア城。

あてがわれた豪奢な客室のベッドの上で、ゲルマン子爵は脂汗を浮かべながらガバッと身を起こした。

昼間の模擬戦――いや、一方的な蹂躙劇の記憶が、悪夢となって彼を苛んでいた。

野蛮な亜人が素手で十人のエリート騎士を捻り潰し、純白の騎士服を着た帝都の至宝サブリナが、ふざけた手遊び(ポーズ)で己の上位魔法を消し飛ばした。

「幻術だ……! そうに違いない! あの黒い水も、手遊びで魔法を消したのも、全て大掛かりな魔導具マジックアイテムを使ったインチキだ! そうでなければ、我が帝都の精鋭たちが辺境の田舎貴族に後れを取るはずがない!」

ゲルマン子爵は、ガチガチと鳴る歯を食いしばり、ベッドから這い出た。

彼は帝都の保守派を束ねる名門貴族だ。このまま尻尾を巻いて逃げ帰れば、彼の政治生命は終わる。何としても、あの忌々しいユウタという男の「イカサマの証拠」を掴まなければならない。

「夜陰に乗じて城内を探索し、奴らの仕掛けを暴いてくれるわ……」

ゲルマン子爵は隠し持っていた短剣を懐に忍ばせ、音もなく客室の扉を開け、深夜の城内へと潜入を開始した。

廊下には不気味なほど人気がなかった。

だが、城の中庭を抜け、さらに奥にある「第二訓練場」の付近まで差し掛かった時。

ゲルマン子爵の耳に、異様な音が届いた。

ズンッ……ズンッ……ズンッ……!

地鳴りのような、揃いすぎた足音。

そして、闇の中から低く響いてくる、無数の男たちの声。

「タイガーッ! ファイヤーッ! サイバーッ! ファイバーッ! ダイバーッ! バイバーッ! ジャージャーッ!!」

「な、なんだ……!? 古代の呪文か……!?」

ゲルマン子爵は息を呑み、訓練場を囲む石壁の陰に身を隠しながら、そっと訓練場の中を覗き込んだ。

そこには、彼の常識を根底から破壊する、恐るべき光景が広がっていた。

「パキッ」という小さな破裂音が連続して鳴ったかと思うと、漆黒の闇に包まれた訓練場の中に、赤、青、緑、ピンクといった「極彩色の光の棒」が数百本、突如として浮かび上がったのだ。

「ひぃっ!? 炎でもなく、魔力光でもない……! な、なんだあの不気味な光る棒は!?」

驚愕するゲルマン子爵の目の前で、数百人のマルストア領兵たちが、両手にその「光るサイリウム」を握りしめ、一糸乱れぬ異常な動きを始めた。

『そぉれッ!』

掛け声と共に、数百人の兵士が体を大きく海老反りにし、両手の光る棒を空に向かって激しく突き上げる(※オタ芸の基本技『ロマンス』である)。

ブンッ! ブンッ! ブンッ!

光の軌跡が闇夜に無数の残像エフェクトを描き出し、幾何学的な模様を空中に織りなしていく。

「あ、ああっ……!」

ゲルマン子爵は、その光景を見て、ガタガタと全身の震えが止まらなくなった。

彼の軍事知識フィルターが、目の前で行われている『オタ芸』を、最悪の形で解釈してしまったのだ。

(光の残像が消えないほどの、超高速の連撃……! いや、違う! あの極彩色の光の軌跡は、暗闇の中で味方同士が意思疎通を図るための『光学暗号通信シグナル』だ!)

ゲルマン子爵の脳内で、戦慄の推理が組み上がっていく。

(一切の言葉を交わさず、光の軌跡だけで数百人が完璧な連携を取っている! しかもあの、上体を異常な角度まで反らす動き……! 矢や魔法による遠距離攻撃を、紙一重で完全回避するための極限の体術! それを、一般の兵士レベルまでが完全に習得しているだと!?)

『いっくぞーッ! サンダァァァァ・スネイクッ!!』

兵士たちを束ねる小隊長が叫ぶと、今度は全員が低い姿勢に沈み込み、両手の光をまるで雷を帯びた蛇のようにうねらせながら、超高速で振り回し始めた(※オタ芸の大技『サンダースネイク』である)。

「ヒィィィッ!!」

ゲルマン子爵は、あまりの恐怖に両手で口を覆った。

(低い姿勢からの、全方位無死角の不可視の斬撃! あの光る棒自体が、音もなく敵を切り裂く暗殺用の魔力刃スナイプ・ブレードなのだ! あんなものを闇夜で一斉に振るわれれば、帝国の近衛騎士団など一瞬で細切れにされる!)

その時だった。

「――ストップ、ストップゥゥゥッ!!!」

訓練場の奥から、一人の男がツカツカと歩み出てきた。

頭に『推し命』と書かれた鉢巻を巻き、ピンク色の法被はっぴを着たマルストア辺境伯、ユウタである。彼の手にも、何本ものサイリウムが指の間に挟み込まれていた(※バルログ持ちである)。

「甘い! 甘すぎるぞお前ら! 特に左翼の連中、『ロマンス』の時の腰の落とし方が足りない! 推し(ピーチちゃん)に対する愛と情熱が全然表現できてないじゃないか! もっとキレを出せ、キレを!」

ユウタが檄を飛ばすと、数百人の完全武装(オタ芸装備)の兵士たちが、一斉に直立不動の姿勢をとり、一糸乱れぬ動きで敬礼した。

『ハッ! 申し訳ありません、総大将マスター!! 我々のピーチちゃんへの忠誠が足りておりませんでした!』

「分かればいい! オタ芸……いや、この光の演舞は、ただ体を動かすだけじゃない! 魂の共鳴だ! 戦場ライブハウスで己の全てを燃やし尽くす覚悟でやれ! もう一度、最初からだ!」

『Sir! Yes, Sir!!(イエッサー!!)』

ユウタの号令で、再び数百の光の軌跡が、夜の闇を恐ろしい速度で切り裂き始めた。

(そ、総大将……! マスター、だと……!?)

壁の陰からその光景を見ていたゲルマン子爵は、完全に絶望の淵へと突き落とされていた。

イグニスの暴力。サブリナの謎のポーズ。

それだけでも脅威だったのに、この領地には、あのような「光の軌跡で暗号通信を行いながら、超高速の回避運動と全方位斬撃を繰り出す狂気の暗殺部隊」が、軍の標準戦力として数百人規模で存在しているのだ。

そして、その頂点に君臨し、あのようなふざけた法被姿で彼らを完璧に統率している男――ユウタ。

「ま、魔王だ……。あの男は、魔法少女という名のカルト教団を作り上げ、帝国……いや、世界を転覆させるための暗殺軍団を育て上げているのだ……!!」

ゲルマン子爵は、恐怖のあまり失禁しそうになるのを必死に堪えながら、後ずさりした。

もはや、イカサマの証拠などどうでもよかった。

少しでも音を立てれば、あの極彩色の光の刃が、数百本同時に自分の首を刈りに飛んでくる。

「か、帰らねば……! 一刻も早く帝都に帰り、陛下にこの異常事態を報告しなければ、帝国が……世界が終わるぅぅっ……!」

ゲルマン子爵は、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、音を立てないように這いつくばって、客室へと逃げ帰っていった。

だが、恐怖に正気を失っていた彼は、まだ気づいていなかった。

彼がマルストア城を嗅ぎ回っていたのと全く同じ時刻。帝都における彼の「政敵」が差し向けた本物の暗殺者集団が、すでにこの城の結界をすり抜け、彼の命を狙ってすぐ背後まで迫ってきていることに――。

読んでいただきありがとうございます。

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