EP 3
蹂躙。竜人族の斧を凌駕する「ステッキ(物理)」
「押し返せェェッ!! 盾持ち(シールド)、一歩も引くんじゃねえぞ!」
ドォォォォンッ!!
鋼鉄の盾の壁に、数千の魔物の大群の先頭が激突し、凄まじい衝撃音が渓谷に響き渡った。
「オラァッ!!」
最前線に立つ竜人族のイグニスが、猛々しい咆哮と共に巨大な戦斧を真横に薙ぎ払った。
ブンッ! と空気を切り裂く轟音。強靭な筋肉から放たれる一撃は、先頭に躍り出た巨大なオーク三体を、分厚い鎧ごと軽々と両断した。
「ガハハハッ! どうした、この程度か! マルストアの盾は、お前らみたいな雑魚の牙じゃ貫けねえぞ!」
吹き出す魔物の血を浴びながら、イグニスは戦士としての高揚感に包まれていた。
重装歩兵たちの完璧な防御陣形。それを支える自分の圧倒的な武力。これぞ戦場。これぞ、血湧き肉躍る命のやり取りだ。
だが、その戦士としての純粋な喜びは、次の瞬間に上空から降ってきた「ピンク色の凶星」によって、跡形もなく粉砕されることになる。
「たぁーっ!」
上空の崖から、フリフリのミニスカートをなびかせた月兎族のキャルルが、一直線に戦場の中央へと落下してきた。
ドゴォォォォンッ!!
彼女が両足で大地を踏み抜いた瞬間、クレーターがすり鉢状に広がり、周囲にいた十数体のリザードマンが衝撃波だけで宙を舞った。
「皆さん、お待たせしました! 星の戦士、ティンクルピーチのお掃除(浄化)タイムですっ!」
キャルルは満面の笑顔でウサギの耳を揺らすと、ピンクのリボンと星型の飾りが付いた「魔法のステッキ(三十キログラムの特殊重金属製ダブルトンファー)」を構えた。
「いきますよー! えいっ♪」
キャルルが、アニメのヒロインのように可愛らしく「えいっ」と呟きながら、ステッキ(物理)を横薙ぎにフルスイングする。
バキバキバキバキバキバキッ!!!
全く可愛くない、鼓膜を破るような破壊音が連鎖した。
ステッキが直撃したオークや巨大ウルフたちは、悲鳴を上げる間もなく、その巨体をトマトのように破裂させ、文字通り「ミンチ」となって後方の魔物の群れごと吹き飛んでいく。
「は? ……おい、嘘だろ……?」
イグニスは、己の大斧で両断したオークの死体がひどくちっぽけに見え、ポカンと口を開けた。
「ふんすっ! どんどん浄化しちゃいますよー! そぉれっ、てりゃっ♪」
キャルルは軽やかなステップを踏みながら、戦場をピンク色の旋風となって駆け抜ける。
彼女が「てりゃっ♪」と可愛くステッキを振るたびに、魔物たちが爆発四散し、血の雨が降る。その姿は「愛と正義の魔法少女」というより、死神が楽しげに草刈りをしているようにしか見えなかった。
「ふふっ、キャルルばかりにいい所は見せられないわね」
続いて、上空の崖に留まっていたエルフのリーシャが、優雅にブルーのステッキを天に掲げた。
「勇太が教えてくれた『特撮えふぇくと』の真髄……見せてあげる。全属性複合・広域制圧魔法――『ティンクル・イリュージョン』!」
リーシャが可憐なウインクと共に呪文を唱えた瞬間。
渓谷の奥、魔物たちが最も密集している地帯の足元に、数十もの巨大な魔法陣が同時展開された。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
世界が、極彩色の光に包まれた。
紅蓮の炎、絶対零度の氷柱、そして全てを切り刻む風の刃が、複雑に絡み合いながら大爆発を起こす。
だが、その爆発の煙は、なぜか「鮮やかなピンク色と水色」に染め上げられ、まるで巨大な花火が打ち上がったかのように美しく戦場を彩っていた。
「……やりすぎだ! あんな高密度の魔法を連発したら、味方まで爆風で……!」
イグニスが慌てて盾を構えたが、熱風も衝撃波も、最前線の兵士たちには一切届かなかった。
爆風のエネルギーは完全に上空へと逃がされ、ただ「ド派手な音と光」と「極彩色の煙」だけが、安全なショーのように展開されていたのだ。
しかし、その煙の向こう側――爆発の中心地にいた数百体の魔物たちは、チリ一つ残さずこの世から消し飛んでいた。
「素晴らしい……! やはり、あれがマルストアの魔法少女が誇る『広域制圧魔法』!」
その後方で、サブリナが感動に打ち震えながら白馬から降り立ち、自らの剣を抜いた。
「キャルル様による、極限の物理打撃による前線突破。そして、リーシャ様による後方からの無詠唱での殲滅爆撃……。しかも、その恐るべき殺戮行為を『えいっ♪』という愛らしい声で包み隠し、敵に『自分が何で死んだのか』すら理解させないまま命を刈り取る……!」
サブリナの「戦闘狂フィルター」は、今日も絶好調に濁り切っていた。
「なんという恐るべき心理戦術! ユウタ様が提唱する『魔法少女理論』、それは一瞬の油断を誘い、最高速度で敵を確殺するための、暗殺部隊の極致!」
サブリナは、柄に黄色い巨大なリボンを巻き付けたSランク魔剣を構え、深く腰を落とした。
その紫色の瞳には、もう一片の迷いもない。彼女は完全に「こちら側(異常者側)」の住人として覚醒してしまったのだ。
「私も、魔法少女の末席に連なる者として、遅れは取りません! 愛と勇気の魔法剣士! サブリナ・シャリゼ、推参ッ!!」
サブリナは、リーシャの魔法で生み出されたピンク色の煙幕の中へと、弾丸のような速度で突入していった。
「必殺! ティンクル・スラァァァァッシュッ!!」
サブリナの凛とした美声が響くたび、煙の向こうで閃光が走り、魔物たちの首が次々と宙を舞う。
リボンの付いたふざけた剣だが、振るっているのは帝国最強クラスの剣士である。その威力は折り紙付きだった。
「……えいっ♪」 ドバァァァンッ!!
「ティンクル・イリュージョン!」 ズドォォォォンッ!!
「ティンクル・スラッシュッ!」 ザシュゥゥゥッ!!
戦場は、完全に三人の美女による「お遊戯会(という名のワンサイドゲーム)」と化していた。
数千いた魔物の群れは、彼女たちが通り過ぎるたびに、まるで除雪車に押し退けられる雪のように消滅していく。もはや、魔物たちの方が可哀想に思えてくるほどの惨状だ。
「……おい」
イグニスは、血に濡れた己の大斧を静かに地面に下ろした。
「俺様の……竜人族の戦士としてのプライドが、音を立てて崩れていくんだが……」
彼が渾身の力を込めてオークを一刀両断していたのが、急に虚しく思えてきた。
あんなフリフリのスカートを穿いた小娘たちが、ふざけた掛け声と共に、自分の何十倍もの速度で魔物をミンチにしているのだ。これでは、自分がただの木こりのおっさんにしか見えないではないか。
「ユウタ様ーっ! 万歳ーっ! 魔法少女、万歳ーっ!!」
「俺たちも続くぞォォォ!」
だが、イグニスの絶望をよそに、後方の重装歩兵たちは完全に狂乱状態に陥っていた。
美しい奥方たちが圧倒的な力で前線をこじ開けていく姿に、兵士たちの士気は限界を突破し、誰もが「ティンクル!」と叫びながら魔物の残党狩りを始めている。
(……優太、お前、なんて恐ろしい軍団を作り上げちまったんだ……!)
イグニスは、遥か後方の指揮所にいるであろう親友の顔を思い浮かべ、顔を引き攣らせた。
痛いオタクを演じてサブリナを追い返すはずの作戦は、結果として、帝都の天才剣士をも完全に洗脳し、マルストア最強の「狂気の殲滅部隊」を爆誕させてしまったのだ。
だが、この圧倒的な蹂躙劇の裏で、戦場には一つの「特異点」が忍び寄っていた。
数千の群れが単なる「餌」に過ぎないと思わせるほどの、異様なプレッシャー。
魔法少女たちの派手な立ち回りの影で、このスタンピードを引き起こした「真の元凶」が、静かに、そして確実に、獲物の首元へと牙を剥こうとしていたのである。
読んでいただきありがとうございます。
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