↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
178/254

EP 30

サブリナの葛藤。マルストアの異常な日常

「……私の剣にも、ピンク色のリボンを巻くべきなのでしょうか」

マルストア城に用意された、豪奢な客室。

その窓辺に腰掛け、私は自らの愛剣――ミスリル鋼で打たれた業物――を布で磨きながら、深く、深くため息をついた。

帝都アウストラにおいて、私は「天才」と呼ばれていた。

シャリゼ侯爵家の長女として生まれ、幼い頃から剣と魔法の厳しい修練に明け暮れ、十代にしてSランクの魔法剣士へと上り詰めた。私の剣技と魔法の冴えは、帝国騎士団の古参兵すら凌駕すると自負していた。

しかし。このマルストア領に来てからというもの、私の培ってきた常識とプライドは、音を立てて粉々に砕け散り続けている。

「オタク……『魔法少女』という名の、深淵なる戦闘教義……」

私は、机の上に広げたノートを見つめた。

そこには、ユウタ様から直々に賜った「オタクの掟」が、びっしりと書き込まれている。

最初、ユウタ様が極彩色の異国の装束(ふるぐらふぃっくTしゃつ)を纏い、奇妙な呪文でゅふふを唱え始めた時、私は己の目を疑った。

だが、その真意を知れば知るほど、己の浅はかさを恥じるばかりだ。

一切の予備動作なく、相手の力を利用して巨漢の竜人族を投げ飛ばした、あの究極の体術。

しかもそれを、あえて「怯えて腰を抜かす卑怯者」の演技で包み隠し、敵の油断を誘うという恐るべき心理戦術。

さらに、己の肉体を限界まで追い込むための、超高カロリー圧縮糧食ぴざと、内臓を焼き焦がす黒き闘薬こーらの日常的な摂取。

ユウタ様は、呼吸をするように命がけの修練を積んでおられるのだ。

常に強者の余裕を隠し持ち、決して己の武力をひけらかさない。真に高潔で、底知れぬ強さを持った御方。

「それに、奥方様たちも……規格外すぎます」

エルフの大魔術師、リーシャ様。

彼女は「名乗り」という一瞬の隙に、多重属性の広域制圧魔法すもーくすくりーんを無詠唱で起爆させてみせた。あれほどの魔力制御、帝都の宮廷魔術師長ですら不可能だ。

月兎族の戦士、キャルル様。

彼女に至っては、三十キログラムを超える特殊重金属の打撃兵器とんふぁーを「星の魔法のすてっき」と称し、純粋な物理的破壊力のみで重装甲を木端微塵に粉砕じょうかした。リボンをスタビライザーとして活用する発想など、誰が思いつくだろうか。

この城にいる誰もが、強すぎる。

そして、その強さを「魔法少女」という愛らしい名のもとに隠匿し、平和な日常を謳歌しているのだ。

「私など、このマルストアにおいては、ただの未熟な小娘に過ぎない……」

私は剣を鞘に納め、ギュッと胸に抱きしめた。

政略結婚の命を受けた時は、誇り高きシャリゼ家の娘として、辺境の伯爵家を武力で平定してやるくらいの自負があった。

だが今は違う。私は、ユウタ様という底知れぬ器を持った殿方に、そしてこのマルストアの温かくも異常な日常に、完全に惹き込まれていた。

コンコン、と。

客室の扉が控えめにノックされた。

「サブリナさん、入ってもいいかな?」

「っ! は、はい! ユウタ様、どうぞ!」

私が慌てて姿勢を正すと、扉が開き、ユウタ様が姿を現した。

今日も彼は、極彩色の乙女が描かれた装束(Tしゃつ)を身に纏っている。しかし今の私には、それが死線を潜り抜けた英雄の纏う、神聖な軍服にしか見えなかった。

「サブリナさん。……君に、これを渡しておこうと思って」

ユウタ様は、どこか気まずそうに視線を泳がせながら、数冊の薄い本のようなものを机の上に置いた。

表紙には、見慣れない画風で、星やハートを散りばめた魔法少女たちの絵が描かれている。

「これは……?」

「僕たちオタクが信仰する、聖典まんがだ。魔法少女ティンクルスターの原作コミックスさ」

ユウタ様は、わざとらしく口角を歪め、邪悪な笑み(デュフフ、というやつだ)を浮かべようとしている。

「どうだ、サブリナさん。こんな子供騙しの絵物語を、いい年した大人が夜な夜な読んでハァハァ興奮しているんだ。気持ち悪いだろ? 幻滅したなら、今すぐ帝都へ……」

「拝読いたしますッ!!」

私はユウタ様の言葉を遮り、両手で恭しくその「聖典」を受け取った。

「えっ」

「ユウタ様が長年研究されてきた、戦闘教義の根本が記された兵法書ですね! 魔法少女せんしたちの陣形、魔力運用の理論、そして敵対勢力あくのそしきとの熾烈な情報戦……この図解入りの聖典を読み解けば、私もさらなる高みへ至ることができるのですね!」

「いや、ただ中学生の女の子が、変身してステッキで戦うだけの夢と魔法のファンタジーなんだけど!?」

「ファンタジー……。なるほど、暗号化されているのですね! 表向きは少女たちの無邪気な物語を装いながら、その実、行間には血で血を洗う戦術理論が隠されている……! 恐るべき情報隠蔽能力!」

私は感動のあまり、聖典まんがを胸に抱きしめた。

ユウタ様は、外部の人間である私に、これほどまでに重要な軍事機密をあっさりと託してくださったのだ。

「……ユウタ様。私、必ずやこの聖典を読破し、貴方様の隣に立つにふさわしい『オタク』となってみせます!」

「……もう、どうにでもなれ……」

ユウタ様は、なぜか顔面を蒼白にさせ、ガックリと肩を落として部屋から出て行ってしまった。

その背中からは、強者が背負う孤独と、底知れぬ哀愁が漂っていた。

(ああ……なんて、広くて頼もしい背中なのだろう)

ユウタ様の背中を見送った後、私は自らの胸に手を当てた。

トクトクと、心臓が早鐘のように鳴っている。

彼にふさわしい妻になるためなら、私は剣を捨てる覚悟すらある。

いや、捨てはしない。私の剣にフリルとリボンを巻きつけ、究極の魔法物理ハイブリッド殲滅兵器として再鍛造するのだ。

「待っていてください、ユウタ様。私……絶対に、立派な魔法少女になってみせます!」

マルストア領の青空に向けて、私は固い、固すぎる決意を誓った。

私の常識はすでに完全に崩壊していたが、不思議と心は晴れやかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。