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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 29

イグニスの協力。悪役チンピラを演じる竜人族

「……作戦の根本的な見直しが必要だ。このままでは、サブリナさんが本気で『魔法少女オタク』の道を究めてしまう」

マルストア城の執務室で、俺は深々とため息をついた。

奇抜な服を着ても、不健康な食事を見せつけても、痛々しい決めポーズを取っても、サブリナさんの強固な「戦闘狂フィルター」の前では全てが「常識に囚われない強者の哲学」へと変換されてしまう。

彼女は誇り高き戦士だ。ならば、戦士として最も軽蔑される振る舞いを見せればいいのではないか。

「つまり、『圧倒的な臆病者』であり、『実戦では全く役に立たない、口だけのヘタレ』であることを証明するんだ」

俺の生真面目な気質が、変態を演じてもどこか「高潔な戦士」のオーラを放ってしまうのが原因ならば。

実際に暴力を前にして、惨めに命乞いをし、腰を抜かして泣き叫ぶ姿を見せれば、さすがのサブリナさんも「ユウタ様はただの卑怯者だったのか」と完全に幻滅してくれるはずだ。

「というわけで、イグニス。お前に『悪役チンピラ』を演じてもらいたい」

俺は、執務室のソファでくつろいでいる竜人族の親友に頭を下げた。

「……はぁ? 俺様が、街のチンピラだぁ?」

イグニスは、呆れたように尖った牙を剥き出しにした。

「そうだ。僕とサブリナさんが領地内の街を視察している時、お前が柄の悪いチンピラに扮して絡んでくる。そこで僕が『ヒィィッ! 助けてでござるぅ!』と情けなく悲鳴を上げて逃げ出す。……どうだ、完璧な作戦だろ?」

「完璧なまでに情けねえ作戦だな。俺様みたいな巨体の竜人族がチンピラってのも無理があるが……まあいい。お前が泣きベソかく姿が見られるなら、協力してやるよ」

イグニスはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、作戦への協力を承諾してくれた。

これで勝つる。いくらサブリナさんでも、女を置いて逃げ出すようなクズ男を夫にしたいとは思わないはずだ。

数時間後。

俺はサブリナさんを伴い、マルストア領の賑やかな商店街を歩いていた。

俺は相変わらずピンク色の『ティンクルピーチ』のフルグラフィックTシャツ姿だが、サブリナさんは真剣な顔で俺の少し後ろを歩き、周囲を鋭く警戒している。

「ユウタ様。この街の民は、皆が笑顔で活気に満ちていますね。ユウタ様がどれほど素晴らしい統治をされているかが分かります」

「いや、ただ皆が自由に商売してるだけだよ……」

そんな和やかな会話をしていると、路地裏からドスドスと重い足音を立てて、巨大な影が立ち塞がった。

「ヘッヘッヘ……。そこの優男、ずいぶんといい女を連れてるじゃねえか。ちょっと俺様と一緒に遊ぼうぜぇ」

顔の下半分を布で隠したイグニスだった。

身長二メートルを超える竜人族の巨体が、わざとらしく肩を揺らしながらチンピラの口調で絡んでくる。大根役者にも程があるが、その威圧感だけは本物だ。

(よし、来た! ここで俺の『ヘタレオタク演技』の真骨頂を見せてやる!)

俺はワザとらしくビクッと肩を震わせ、ガチガチと歯の根を鳴らす演技を始めた。

「ひ、ひぃぃぃっ! りゅ、竜人族の不良でござるぅぅ! た、助けてピーチちゃーーんっ!」

俺は両手で頭を抱え、情けなく腰を抜かしたフリをして、その場にへたり込んだ。

どうだサブリナさん! この無様な姿を見よ! 伝説の魔法剣士を前にして、戦うことすら放棄して命乞いをする、俺の究極のヘタレっぷりを!

「ユウタ様! お下がりください、私が相手を……!」

サブリナさんが咄嗟に剣の柄に手をかけ、俺の前に出ようとした。

だが、それを制するように、イグニスが予定通りに大仰な動きで木棍(棍棒に見立てたただの木の棒)を振り上げた。

「オラァッ! 邪魔だ優男ォッ!!」

イグニスは、俺の頭上スレスレを狙って、わざと遅いスピードで木棍を振り下ろした。

打ち合わせ通りだ。ここで俺が「ギャアアッ!」と悲鳴を上げて地面を転げ回れば、ヘタレ・ミッションは完了する。

――だが、俺の誤算は「己自身の肉体」にあった。

死線をくぐり抜けてきた俺の超人的な反射神経と、徹底的に鍛え上げられた武人としての生存本能が、頭上から迫る「鈍器の軌道」に、俺の意識を置き去りにして全自動で反応してしまったのだ。

(あ、ヤバ……体が勝手に……!)

「ギャ、ギャアア……えいっ!」

俺は悲鳴を上げようとした口から、無意識に「えいっ」という魔法少女のような掛け声を発してしまった。

それと同時に、へたり込んでいたはずの俺の体は、バネのように弾け飛んだ。

イグニスの振り下ろした木棍の軌道を、ミリ単位の無駄もない動きで見切り、その懐の完全な死角へと滑り込む。

そして、振り下ろされたイグニスの太い腕の関節を下から柔らかく捉え、相手の巨体の体重移動と遠心力を、そのまま利用した。

「……へっ?」

チンピラ役のイグニスが、間の抜けた声を漏らした。

ゴシャァァァァァァァァンッ!!!!!

次の瞬間、イグニスの二メートルを超える巨体は、空中で鮮やかな半円を描き、商店街の石畳に背中から激しく叩きつけられていた。

俺は、倒れ込んだイグニスの腕を極めたまま、無意識のうちに完璧な「投げ技」を完了させてしまっていたのだ。

「いってぇぇぇっ!? おい優太、お前、手加減……!」

イグニスが白目を剥きかけながら呻く。

「ああっ! 違う! 今のは足が滑って、偶然イグニスの腕に引っかかっただけで……!」

俺は慌ててイグニスから離れ、両手を振って必死に弁解した。

偶然だ。ただの運が良かっただけのオタクのまぐれだ。決して俺が強いわけじゃない。

だが、俺の背後で一部始終を見ていたサブリナさんは、またしても、その美しい顔を驚愕に引き攣らせて、プルプルと震え始めていた。

「ゆ、ユウタ様……」

サブリナさんの紫色の瞳が、信じられないものを見るように見開かれている。

「完全に無防備な『恐怖に怯える姿勢』から……一切の予備動作なく、相手の力のベクトルを完全に掌握する『合気』の投げ技……! しかも、あの大質量の竜人族を、一切の腕力を使わず、ただ己の重心移動と相手の勢いだけで投げ飛ばすとは……!」

「違うんだ! 本当に今のはただのラッキーで……!」

「いいえ! 分かります!」

サブリナさんは、俺の言葉を強引に遮り、熱狂的な声で叫んだ。

「相手を油断させるために、あえて『醜く怯える弱者』の演技ブラフを打ち、敵が不用意に大振りの攻撃を仕掛けてきた瞬間、その力を利用して一撃で制圧する……! 魔法も武器も使わない、真の武人だからこそ到達できる、究極の『後の先の境地』!」

「だから、演技じゃなくて本当に怯えるフリをしただけで……!」

「しかも、敵の命を奪うことなく、的確にダメージだけを与えて制圧するその慈悲深さ……! ユウタ様、貴方様はどこまで強大で、そして優しいお方なのですか!」

サブリナさんは感極まって涙をこぼし、俺の手を両手でギュッと握りしめた。

「『オタク』とは、弱者を装い、敵を欺くための高度な心理偽装戦術……! 貴方様の深淵なる教え、また一つ理解いたしました! 私も、もっと弱々しく悲鳴を上げる練習から始めます!」

「お願いだからやめて! Sランクの剣士が道端で悲鳴上げる練習とか地獄絵図だから!」

俺の悲痛な叫びは、商店街のざわめきの中に虚しく吸い込まれていった。

石畳にめり込んだ親友のイグニスが、「……お前、マジで加減しろよな……」と恨めしそうに呟く声だけが、俺の耳に痛く響いた。

徹底的に弱者を演じようとした作戦は、俺の体に染み付いた武術の反射神経によって、「達人の究極奥義」としてまたしてもサブリナさんに誤認されてしまった。

オタク防衛線は、もはや防衛すればするほど相手の好感度を上げる「オタク好感度加速装置」へと変貌を遂げていたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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