EP 27
結婚式の日取りが決まってからというもの。
若き領主、中村勇太は、明らかに様子がおかしかった。
「どうしよう……ついに明日だ。本当に僕が、一国の領主として、二人の女の子の人生を背負うのか……?」
領主執務室で、意味もなくうろうろと歩き回り、ブツブツと呟き続けている。日本のしがない医学生だった彼にとって、『一夫多妻の結婚式』というプレッシャーは尋常ではなかった。
その様子を、部屋のソファで優雅に本を読んでいた竜のアカメが、心底不思議そうに眺めていた。
「落ち着け、勇太。何も難しいことはないだろう。同じ巣に住まうメスが増え、お前が子供たちのために、毎日せっせと狩りをして肉を運ぶようになる。ただそれだけの、生物として極めて正常な営みだ」
「も、もうちょっと情緒のある言い方は無いのかな!? 竜の常識を押し付けないでくれ!」
アカメのあまりに生物学的でロマンの欠片もない解説に、勇太は思わずツッコミを入れた。
部屋の隅では、執事のルンベルスがハンカチで目頭を拭いながら、式典の祝辞を練習している。
「あー、あー……。『本日はお日柄も良く……中村家、並びにルナ家、そして森の民を代表し……』ううむ、駄目ですな。勇太様の晴れ姿を想像しただけで、涙で前が見えませぬ……」
「あ~~~……僕、本当に結婚するんだ……」
自分の名前が祝辞で読み上げられているのを聞き、改めて現実を突きつけられた勇太が頭を抱えていると、バンッ! と扉が開いた。
「よう、ユウタ! そんなところでウジウジしてんのか!?」
満面の笑みで現れたのは、竜人族の親友・イグニスだった。
「イグニス~! 頼むから、僕を一人にしないでくれ! 逃げ出しそうだ!」
情けない声を出す勇太の肩を、イグニスはバン!と力強く叩いた。
「バカ野郎! お前が腹くくって選んだ女たちなんだろ! 明日は大陸一……いや、世界一の男になれ! 俺様がしっかり見届けてやるからよ!」
――そして、結婚式当日。
マルストアの街で一番大きな大教会は、領主の結婚を祝う何万人もの領民と、各国からの賓客、そして仲間たちで埋め尽くされていた。
最前列では、キャルルの母であるミルルがすでに号泣し、ルンベルスがハンカチを何枚も濡らしている。
祭壇の前で、極度の緊張と共に待つ勇太。
やがて、荘厳なパイプオルガンの音色と共に、教会の重厚な扉がゆっくりと開かれた。
そこに立っていたのは、文字通り『二柱の女神』だった。
一人は、月の光を編み込んだかのような、純白のウェディングドレスに身を包んだキャルル。
もう一人は、燃えるような恋心と情熱を表したかのような、深紅のカラードレスをまとったリーシャ。
(『地球ショッピング』で取り寄せた最高級のシルクと宝石に、ドワーフの技術を合わせた特注品……うん、最高の出来だ!)
だが、素材の良さなど霞むほどに、二人の笑顔は輝いていた。キャルルは天使のように清らかで愛らしく、リーシャは息をのむほどに美しく、気高い。
「……き、綺麗だ……」
勇太の口から、無意識のうちに心の底からの感嘆がこぼれ落ちた。
そして、歩みを進める彼らを祭壇で待っていたのは――なんと、純白の神父服(少しサイズがパツパツだが)に身を包んだ、イグニスだった。
「イグニス……お前が、神父なのか?」
「おうよ! お前らの門出だ、他の誰かに任せられるかよ!」
イグニスは少し照れくさそうに、しかし親友を祝福する最高の誇りに満ちた顔で、高らかに宣言した。
「これより! 勇太、キャルル、リーシャ、三人の門出を祝う! 病める時も健やかなる時も、互いを信じ、支え合い、共に生きるか! お前ら、永遠の愛を誓うか!?」
それは神の言葉ではなく、共に死線を潜り抜けた親友からの、熱いエールだった。
その問いに、三人は互いに顔を見合わせ、そして、最高に幸せな満面の笑みで答えた。
「「「――誓います!」」」
勇太の、すべてを守り抜く覚悟に満ちた声。
キャルルの、太陽のような喜びにあふれた声。
リーシャの、深い愛情と幸せを噛みしめる声。
三つの声が、教会に美しく響き渡る。
「よぉし! ならば、誓いの証を見せやがれ!」
イグニスの言葉に促され、勇太はまず、キャルルの純白のベールをそっと上げる。
「んっ……」
背伸びをした愛らしい唇に、優しく、甘い口づけを。
続いて、隣に立つリーシャのしなやかな手を取り、引き寄せるようにして、その艶やかな唇に、深い愛を込めて口づけを交わした。
その瞬間。
「「「うおおおおおおおッ!! 万歳! 勇太様、万歳!!」」」
ワァッ!という割れんばかりの大歓声と、祝福の拍手が教会を包み込み、街中に高らかにウェディングベルの鐘の音が鳴り響いた。
ゼロから始まった異世界サバイバル。
たくさんの困難を乗り越え、最高の仲間と出会い、そして今、二人の最愛の人と結ばれた若き領主、中村勇太。
彼の、そしてマルストアの新たな伝説(物語)が、今、最高の祝福と共に幕を開けたのだった。




