EP 28
結婚式の翌朝。
マルストア城の食堂は、これまで以上の穏やかで、とろけるように甘い空気に満ちていた。
テーブルに並ぶのは、ルンベルスが気合と涙をこめて腕によりをかけた豪華な朝食。
その席で、勇太は自分の両隣に座る二人の美しい妻の顔を交互に見て、しみじみと呟いた。
「そっか……俺、本当に結婚したんだなぁ」
「はいっ! 勇太さんの、お嫁さんです!」
「ふふ。改めて言葉にすると、照れるわね」
キャルルとリーシャが、幸せそうに微笑みながら勇太に身を寄せる。
その温もりを感じながら、勇太はポンと手を打った。
「よし! 結婚したと言えば、やっぱり『ハネムーン』に行かなくちゃな!」
「はねむーん?」
二人の新妻が、小首を傾げる。
「俺の故郷(地球)の文化で『新婚旅行』のことさ。夫婦になった記念に、数日間ゆっくりとバカンスを楽しむんだ。領地の仕事はルンベルスさんたちが『三日くらいなら絶対に回すので行ってこい』って言ってくれたし」
その説明を聞いた瞬間、二人の新妻の顔が、太陽のようにパァァッと輝いた。
「きゃ~~っ! 勇太さんと、ずっと一緒に旅行ですか!?」
キャルルは兎耳をピンと立てて、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「まあ、素敵ね! どこに行きましょうか? 南の暖かい島もいいし、王都の高級ブランド街を巡るのも捨てがたいわ」
リーシャも指をあごに当て、頬を染めながら楽しそうに計画を練り始めた。
「おう、そりゃいいな! 領主様自ら、ド派手に楽しんで来いよ!」
向かいの席で、山盛りのオーク肉のベーコンを頬張っていたイグニスが、快活に笑って親指を立てる。
「え? 何言ってるんだ、イグニス。お前も一緒に行くに決まってるだろ?」
勇太が、息をするように当然の顔でそう尋ねた瞬間。
イグニスの咀嚼が、ピタリと止まった。
「…………は?」
イグニスは信じられないといった顔で、ゆっくりと勇太を指さす。
「馬鹿言え! この、天然の朴念仁がッ! ハネムーンって『夫婦』で行くもんだろ!? 俺様が一体、どんな気持ちで! 貴様らのあまあまなイチャイチャ旅行を、隣でずっと見せつけられなきゃならねえんだ!?」
竜人の魂の底からの叫びが、食堂に響き渡った。
「だ、大丈夫ですよぉ~。なるべく抑えますから~」
そう言いながら、キャルルは勇太の右腕に、ぎゅっと自分の豊かな胸元を押し当てるように絡める。(全然抑えていない)
「そうそう。美味しいレストランを探すのと、私たちの護衛が目的だと思って、気にしないで」
リーシャもにこやかに言いながら、勇太の左腕に、そっと自分の腕を組んだ。(こちらも全く気にする素振りはない)
「……いいか、イグニス。これは神父までやってくれた最高の親友への『慰安旅行』でもあるんだ。旅費は全額俺が持つし、旅先での最高級の肉と酒は『無限に食べ飲み放題』を約束する!」
「――――ッ!!」
両手に花(というか猛烈なイチャイチャの光)を見せつけられ、歯ぎしりしていたイグニスだったが、『無限の肉と酒』というキラーワードに、ピクッと牙を反応させた。
「わ、分かったよ! 行けばいいんだろ、行けば! くっそ……俺は肉を食いに行くんだからな!」
(俺様……泣いていいよな……)
親友の厚意と食欲に負け、イグニスはがっくりと肩を落として完全に敗北を認めた。
数日後。
マルストアの活気ある港には、旅支度を整えた勇太たちの姿があった。
彼らを見送るゴルド商会のニャングルが、揉み手をしながら極上の笑顔で「領主様ご成婚記念・超特等プラン」の豪華なチケットを差し出す。
「勇太様! 今回はワテの商会の全ネットワークを駆使して、最高の客船と最高級のスイートをご用意いたしました! 『紺碧の海と白亜の楽園・シレーナ島3泊4日の旅』でっせ!」
「ニャングルさん、ありがとう。すごいな、完全なVIP待遇じゃないか」
「わぁ~! 楽しみですね、勇太さん! ほら、海風が気持ちいいですよ!」
「ええ、きっと甘くて素敵な旅になるわね。……ふふっ、離さないわよ?」
右腕には純白のワンピース姿ではしゃぐキャルル。左腕にはリゾート用の大胆なドレスで微笑むリーシャ。
幸せのオーラで光り輝く三人。
そして、その少し後ろを――。
「ちくしょう、前が見えねえ……」
勇太が『地球ショッピング』で買って渡した「真っ黒なサングラス」をかけ、二人の放つ強烈なイチャイチャの光から物理的に目を守りながら、トボトボと歩く一人の竜人。
彼らの、とびきり甘くて騒がしい新婚旅行(+1)が、今まさに始まろうとしていた。




