EP 24
竜人流・恋愛指南
キャルルとリーシャが、ぷんすかと頬を膨らませて嵐のように部屋から去っていった後。
執務室にはひどく気まずい沈黙と、二人の美しいヒロインが残していった甘い香水の香りだけが、虚しく漂っていた。
「い、いってて……」
勇太は、まだジンジンと痛む両脇腹をさすりながら、自分の身に何が起きたのか全く理解できないまま立ち尽くしていた。
そんな彼の背中に向けて、ソファからドッコイショと立ち上がったイグニスが、深いため息と共に重い言葉を投げかけた。
「……勇太よォ。俺様は、悲しいぜ」
その声は、いつもの快活で好戦的な響きとは程遠い。まるで世界の終わりでも見たかのような、底知れぬ失望に満ちたものだった。
「イグニス……? 悲しいって、一体何の話だ?」
「とぼけんじゃねえ。勇太……お前、キャルルのこと、そしてリーシャのこと、一体どう思ってんだ?」
イグニスのあまりに真剣な問い詰めに、勇太は心底不思議そうな顔で答えた。
「え? どうって……。二人とも、かけがえのない大切な仲間だ。強くて、優しくて、本当に頼りになる――」
「違うだろォッ!!」
そのあまりにも模範的で、あまりにも鈍感な(100点満点中0点の)答えに、イグニスの額にビキビキッと青筋が浮かんだ。
「そういうことじゃねえ! 仲間なのは当たり前だ! 俺が聞いてんのは、あいつらを一人の『女』として見てんのかってことだよ!」
竜人の、腹の底からの絶叫。
そのあまりの剣幕と、かつてないほど直接的な言葉をぶつけられ、勇太の思考はここに来て初めて「そちらの方向」へと強制的に向けられた。
途端に、彼の顔がみるみるうちに沸騰したように赤く染まっていく。
「い、いや、その……! もちろん仲間として大事だし……でも、その、二人とも、凄く可愛いし、綺麗だとは……思う、が……」
「女として『好き』か! 『嫌い』か! はっきりさせろって聞いてんだよ!」
巨体のイグニスに壁際まで詰め寄られ、完全に逃げ場を失った勇太は、ついに観念したかのように、もじもじと視線を彷徨わせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「……す、好きだ……。好きだよ、二人とも……」
その、か細くも正直な告白を聞いた瞬間。
イグニスの表情が、呆れから「驚愕」へと一変した。
「てめえぇぇーーッ!! この朴念仁のクセに、いっちょ前に二股かけんのかよ!?」
「なっ、何を言い出すんだ!?」
予想の斜め上を行く真っ直ぐな罵倒に、勇太は素っ頓狂な声を上げる。イグニスは、真っ赤になって慌てふためく親友の肩を、バンッ! と力強く叩いた。
「ぐふっ!」
脇腹のダメージに響き、勇太が小さく悶絶する。
「おらぁっ! みみっちく悩んでんじゃねえ! お前はもう、ただの冒険者じゃねえんだ! 何万人もの領民を抱える、一国の領主様なんだろうが! 貴族なら、嫁が二人や三人いたって誰も文句は言わねえ! だったら腹くくって、両方幸せにする『男』を見せろよ!」
それは、あまりにも乱暴で、単純で、そして現代日本の倫理観を持つ勇太にとっては恐らく何の解決にもならない――強引すぎる『竜人流の恋愛指南』だった。
一人で悩んでいた領地の財政問題や軍事問題に加え、今度は「複雑すぎる恋の問題」まで真っ向から突きつけられてしまった若き領主。
彼は、痛む脇腹と、完全にショートしてしまった頭を抱え、ただただ執務室の真ん中で呆然と立ち尽くすしかなかった。




