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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 20

資金難の打開策と黄金の滴

城の執務室で秘密裏にミスリルについての密議を交わした数日後。

勇太は一人、机にうず高く積まれた羊皮紙の束を前にして、深々と頭を抱えていた。

目の前の羊皮紙には、ダボルグとドルグが熱狂して描いた『近代工場の初期設計図』と、巨大鉱脈の開発・採掘に必要な人員や機材の『予算案』がずらりと並んでいる。

どれもマルストアの未来を飛躍させる素晴らしい計画だが、同時に、今の領地の財政では到底まかないきれない「莫大な初期投資イニシャルコスト」が必要なことを残酷に見せつけていた。

「工場建設に、大規模な鉱脈開発……。どちらも街を豊かにするためには絶対に必要だ。でも、そのためには圧倒的に『現金(原資)』が足りない」

勇太はペンを置き、天井を仰いだ。

「ポーションや缶詰の販売が軌道に乗るまでには、どうしてもタイムラグがある。その間のキャッシュフローを考えると、もっと早く、それこそ帝都の貴族たちが金に糸目をつけずに買いたがるような、爆発的に利益を出せる『次の一手』が必要だ……」

勇太は目を閉じ、脳内にある現代日本のビジネス知識をフル回転させる。

今、このマルストアで最も順調に育ち、大量に余り始めている資源(資産)は何か。

答えは、すぐに出た。

干鰯ほしかの恩恵を受け、潮風の吹く痩せた土地でも異常なまでの生命力で力強く育っている、あの万能作物だ。

「サツマイモ……。そして、嗜好品。……よし、これしかない!」

ひらめきを得た彼は勢いよく椅子から立ち上がると、一直線にドルグの工房へと向かった。

工房は相変わらず肌を焼くような炉の熱気と、リズミカルな重い槌音に満ちている。

「よう、勇太様。どうしたんでぃ? その顔、また何かとんでもねえモンでも思いついたか?」

汗だくで槌を振るっていたドルグが、勇太の顔を見るなりニヤリと笑って迎えた。

「ええ、その通りです。ドルグさん、ちょっと『凄いもの』を持ってきたんですけど」

勇太はそう言うと、おもむろに『地球ショッピング』を起動した。

ポォンという音と共に、彼の目の前にすりガラスの美しいボトルと、一冊の専門書が出現する。瓶の中では、無色透明な液体が静かに揺れていた。

「な、何だそりゃ!?」

ドルグは目を丸くする。勇太の不可思議なスキルにはもう慣れたつもりだったが、その度に度肝を抜かれる。

「その硝子ガラスの作り……信じられんほど滑らかで、寸分の歪みも不純物もねえ。国宝級の大層な業物わざものだぞ。中身は水か?」

「中身はもっと凄いですよ」

勇太はにこやかに言うと、工房の片隅にあったドワーフ用の無骨な金属の杯に、瓶からトクトクと透明な液体を注いだ。

その瞬間――ツンとした強いアルコールの揮発香と共に、芳醇でどこか甘い独特の香りが、鉄と煤の匂いが満ちた工房の中にふわりと広がった。

「ま、お一つどうぞ」

「ふん。小僧が美味いって言う酒が、この酒豪のドルグ様を満足させられるほどのモンか……」

ドルグは疑り深そうに鼻を鳴らし、杯を受け取ると、ドワーフらしくぐいっと一気に煽った。

その瞬間。ドワーフの匠の時間が、ピタリと止まった。

「――っ…………かぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

数秒の静寂の後、彼は天を仰いで目を見開き、顔を真っ赤にして絶叫した。

喉の奥を叩きつけるような、これまで味わったことのない強烈なアルコールの刺激。しかし、ただ辛いだけではない。すぐ後から鼻腔を抜ける豊潤な芋の香りと、舌の上に残るクリアでどこまでも深い甘み。

胃の腑に落ちた液体が燃え上がり、全身の血が一瞬にしてカッと沸き立つ。

「う、旨めぇ……!! なんだ、この酒はァッ!?」

ドルグは杯を握りしめ、ワナワナと全身を震わせた。

「俺たちが今まで飲んできた濁ったエールや葡萄酒なんざ、ただの泥水じゃねえか! 水のように透き通っているのに、腹の中で火が点くようなこの強烈な強さ……! こんな旨い酒が、この世にあったとは……!」

ドルグは、生まれて初めて極上の美酒に出会った子供のように、興奮して目を輝かせている。

「これは『芋焼酎』っていうんです。醸造した酒に熱を加え、アルコール分だけを気化させて抽出する『蒸留スピリッツ』という技術を使っています。……そして、これはこの前お渡しした『サツマイモ』から作れるんです」

勇太は、もう一つの切り札である『図解・本格焼酎の造り方と蒸留プラント』という本を、ドルグの前に静かに置いた。

「この酒を、マルストアの新しい特産品にして、帝都の貴族どもに売りつけたい。……ドルグさん。サツマイモを蒸し、発酵させ、この黄金の酒を抽出するための巨大な『金属製蒸留器』。マルストアの工場に、作ってくれますね?」

ドルグは、勇太の言葉と、図解された精緻な金属プラントの構造図を交互に見つめ――そして、雷に打たれたような歓喜の表情で、工房の屋根が吹き飛ぶほどの大声で叫んだ。

「当たり前だァッ!! やってやろうじゃねえか!!」

彼は図面を奪い取るように抱え込んだ。

「サツマイモから、この黄金の酒を抽出する金属のプラントだと!? 面白え……ドワーフの板金技術の腕の見せ所として、これ以上面白え仕事はねえぜ! 任せとけ! このドルグ様が、大陸中の酒飲みがひれ伏す、歴史上最強の蒸留器を組み上げてやらあ!!」

新たな傑作の誕生を確信したドワーフの魂が、炉の炎よりも熱く燃え上がった。

マルストアの産業革命と、未来の軍事力を支える莫大な資金源キャッシュカウが、今、確かな産声を上げようとしていた。

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