EP 18
ミスリルの輝きと戦乱の予兆
極大魔法『インフェルノ』の灼熱の奔流が過ぎ去った後には、ガラス状に溶解した黒焦げの大地と、完全に炭化して沈黙したミスリルリザードの巨体が横たわっていた。
周囲の空気が陽炎のように歪み、凄まじい熱気がまだ戦場の空気をビリビリと揺らしている。
「……やったな! 流石はリーシャだ、最高のタイミングだった!」
勇太は熱を帯びたマギス・マグナムの銃口を下げ、大きく安堵の息をつきながら仲間たちへと駆け寄った。
「嬉しい~っ! やりましたね、勇太さん!」
キャルルは満面の笑みでウサギのように跳ね、勇太の腕に勢いよく飛びついて喜びを爆発させた。
「はっ! 俺様たちホープ・クローバーズにかかりゃあ、幻の魔獣なんざこんなもんよ!」
イグニスは煤けた顔で胸を張り、刃こぼれした戦斧を誇らしげに肩に担ぐ。その顔には、死闘を制した武人としての満足感が満ち溢れていた。
「ふふっ。皆が命懸けで時間を稼いでくれたおかげよ。私一人では、到底詠唱なんて間に合わなかったわ」
リーシャは少し頬を赤らめながら、額の汗を拭って謙虚に微笑んだ。
互いの無事を確かめ合い、健闘を称え、自然と肩を叩き合って笑い合う四人。その姿は、ただの雇い雇われる冒険者の関係を超えた、固い絆で結ばれた一つの『家族』のようだった。
その一部始終を、後方の安全圏から呆然と見つめていた賢者ダボルグは、わなわなと震える声でうわ言のように呟いた。
「な、なんてお方達だ……。規格外の魔道具を操る領主、恐れを知らぬ盾、神速の打撃、そして極大魔法を放つエルフ……。圧倒的な個の武力と、それを完璧に繋ぎ合わせる見事な連携……」
数百年を生きるハイエルフの常識すら凌駕する、理外の強さ。
ダボルグは、若き領主とその仲間たちへの認識を完全に改め、深い畏敬の念を抱いていた。
ハッと我に返ると、彼は世捨て人のような気怠さを捨て去り、本来の学者としての顔に戻って声を張り上げた。
「よし! 魔物は完全に排除された! お前たち、直ちに調査を再開しなさい!」
「ハッ!」
ダボルグの檄に応え、護衛の騎士団に守られながら、調査員たちがツルハシとスコップを手に、金属探知機が示した巨大な反応の震源地を掘り進めていく。
ザクッ、ザクッと土を掘り返す音がしばらく丘陵に響いていたが――やがて、一人の調査員が、緊張と興奮が入り混じった裏返った声を上げた。
「み、見つかりましたァッ!! 間違いありません、鉱脈の母岩です!!」
その報告に、一同が色めき立つ。
ダボルグが風のように駆け寄り、掘り出されたばかりの土にまみれた鉱石を手に取って、慎重に鑑定の魔力を込めた。
「何……ッ!?」
ダボルグの目が、限界まで見開かれる。彼は信じられないといった様子で、月の光を固めたようなその美しい鉱石を何度も、何度も見つめ直した。
「こ、これは……ミ、ミスリル……! それも、不純物が一切混じっていない最高純度……! ま、間違いない、『超特大のミスリル鉱脈』だッ!!」
その決定的な言葉に、勇太たちも息を呑んだ。
「凄い! 金属探知機の反応は本物だったんだ!」
「やったな、勇太! これでマギス・マグナムも、騎士団の武具も、好き放題に量産できるぜ!」
イグニスが豪快に笑い声を上げる中、キャルルは不思議そうに首を傾げて尋ねた。
「あの、ミスリルって、そんなに凄い石なんでしょうか? 綺麗ですけど……」
「凄いなんて物じゃないわよ、キャルル。ミスリルは魔法との親和性が極めて高く、羽のように軽くて、鋼鉄よりも遥かに頑丈な『奇跡の金属』よ。これだけの規模の純ミスリル鉱脈が独占できるとなれば、その経済的価値は……帝国全土の国家予算すらひっくり返しかねないわ」
リーシャがその計り知れない価値を説明しようとした、その時だった。
「――ええ。間違いなく、戦乱を呼びますな。これは」
ダボルグが、手元の美しい鉱石からゆっくりと目を離し、静かに、しかし酷く重い口調で言った。
その深い知性を宿した瞳には、先ほどの歴史的発見への興奮とは違う、確かな『血みどろの未来への懸念』が宿っていた。
「周辺の強欲な貴族どもや他国が、この富を指をくわえて見ているはずがない。……領主様、我々は途方もないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれませんぞ」
一つの輝かしい勝利と、一つの歴史的大発見。
しかし、その眩いばかりの成果は、マルストアを、そして大陸全土を巻き込む巨大な『争いの火種』となりかねないことを、若き領主たちはこの時まだ、完全に理解してはいなかった。




