EP 17
白銀の守護者と四つの決意
「まずは俺様からだ! 食らいやがれェ! 『大火炎』!!」
戦いの口火を切ったのは、パーティーの不動の主盾、イグニスだった。
竜人の誇りを込めて肺腑から解き放たれた灼熱の火柱が、轟音と共にミスリルリザードへと殺到する。しかし、白銀に輝く鱗は、その獄炎を真正面から受け止めてもなお、溶けるどころか眩い光を反射して周囲を照らすのみ。
「なっ……硬ェなんてレベルじゃねえぞ!」
一瞬の驚愕。それが戦場では命取りになる。ミスリルリザードは炎の中から平然と這い出し、その丸太のような尻尾を凶悪な速度で薙ぎ払った。
ドゴォォンッ!!
「ぐはぁっ!?」
イグニスは大盾ごと弾き飛ばされ、土煙を上げて岩壁へと叩きつけられた。
「イグニス!」「イグニスさん!」
仲間たちの悲鳴が響く中、白銀の巨獣は冷徹な瞳を、次なる獲物――リーシャへと向けた。
「させるかよ! ターゲットはこっちだ!」
その視線を遮るように、勇太が前に出る。手には異世界の常識を置き去りにする黒鉄の凶器――グロック20。
乾いた炸裂音が三度。放たれた10mmオート弾がリザードの顔面を正確に捉える。キィィンッ! と火花を散らして弾かれたが、その衝撃と音は、確実に巨獣の注意を勇太へと繋ぎ止めた。
「勇太さん、今ですっ!」
その隙を逃さず、キャルルが地を蹴った。小柄な体に全闘気を凝縮させ、愛用のトンファーが淡い月の光を帯びて唸りを上げる。
「月影流――『粉砕撃』!」
目にも留まらぬ踏み込みで懐に潜り込み、リザードの分厚い関節の隙間に、一点集中の打撃を叩き込んだ。
ゴッ……! という重い衝撃音。魔法を弾く鱗も、物理的な「浸透する打撃」までは防ぎきれない。巨獣は苦悶に身をよじり、短く咆哮した。
その頃、リーシャは倒れたイグニスの元へ駆け寄っていた。
「しっかりしなさい、イグニス! まだあんたの盾が必要なのよ!」
彼女の掌から放たれるエメラルド色の治癒光がイグニスの全身を包み、強打された内臓と骨を急速に再構築していく。
「ちっ……助かるぜ、リーシャ。だが、こいつは本気でヤベェぞ。魔法も物理も通らねえ……」
「ええ、あの鱗は天然の対魔法装甲よ。仕留めるには、私の最大火力である大魔法を『一点』に叩き込むしかないわ。……でも、それには三〇秒の詠唱が必要よ」
リーシャは杖を強く握りしめ、覚悟を決めた瞳を勇太に向けた。
「――勇太! 頼むわよ、その三〇秒、奴の足を止めて!」
「了解だ! キャルル、時間を稼ぐぞ! 死ぬ気で食いつけ!」
「はいっ! 囮なら得意です!」
勇太とキャルルの決死の撹乱が始まった。
キャルルはリザードの攻撃を紙一重でかわし、その巨体そのものを踏み台にして背中へと駆け上がる。一方のイグニスも立ち上がり、戦斧を叩きつけて敵の咆哮を引き受ける。
後方で、リーシャが杖を天に掲げ、禁断の詠唱を開始した。
「――天よ地よ、万象の理を超えて我が魔力となり、紅蓮の道を穿て――」
彼女の周囲の空気が高熱で歪み、丘陵地帯の魔力が一点に収束していく。
その尋常ならざる「死」の予感に、ミスリルリザードが気づいた。
背中のキャルルを振り払い、全ての敵意をリーシャへと向けて、大地を鳴動させる突進を開始する!
「しまっ……! 速いッ!」
「行かせるかよォッ!!」
イグニスが体当たりで阻止しようとするが、突進の質量に弾き飛ばされる。
リーシャへの直撃を誰もが覚悟した、その瞬間――。
勇太が、城壁の陰から『マギス・マグナム』を構えた。
「……計算通りだ。足首の関節、そこだけは鱗が薄い!」
ドゥンッ!!
重低音が鼓膜を震わせ、放たれた高密度の魔力弾が、突進するリザードの前脚に食い込んだ。
白銀の鱗が砕け、巨体がバランスを崩して大きくつんのめる。
ほんの一瞬。だが、極大魔法を放つには永遠に等しい一瞬だった。
「――我が前に道を開けよ。『インフェルノ』!!!」
リーシャが、収束した全ての魔力を解き放ち、杖を大地に突き立てた。
次の瞬間、彼女とミスリルリザードの間に、空間そのものが紅蓮に裂けたかのような獄炎の奔流が噴き出した。
「グオォォォォォォォッ!!!」
白銀の鱗が赤く焼けただれ、内部から蒸し上げられるような断末魔の咆哮。
丘陵地帯を焼き尽くすほどの熱風が吹き荒れ、巨獣の姿を完全に飲み込んだ。
やがて炎が収まり、静寂が戻ったとき。
そこには、全身を真っ赤に加熱され、沈黙したミスリルリザードの巨体があった。
「……やった、のか……?」
勇太の言葉に応えるように、リザードが崩れ落ちた足元の地層から、夕日に照らされた「本物の白銀の輝き」が露出した。
それは、マルストアの未来を約束する、大陸最大級の『純ミスリル鉱脈』の誕生した瞬間だった。




