EP 16
鉱脈調査と白銀の守護者
マルストアの領主となってから一月。
勇太たちは、賢者ダボルグ率いる資源調査団の護衛として、領地北部に広がる未踏の丘陵地帯を訪れていた。
燦々と輝く太陽の下、勇太は教わった通りに金属探知機のセンサーを地面にかざして歩き、キャルルたちはL字型の銅の棒――ダウジングロッドを手に、半信半疑の様子で辺りをウロウロと徘徊している。
「おいユウタ。こんな棒切れで本当に鉱脈なんて見つかるのか? さっきから俺の意思に関係なく、くるくる回ってばっかりだぜ。目が回りそうだ」
イグニスは、まるで生き物のように動くダウジングロッドを太い指で握りしめ、不満げに鼻を鳴らした。
「うーん、正直に言うと、ダウジングに明確な科学的根拠はないんだよな……。でも僕の世界では、不思議とこれで水脈や温泉を掘り当てたっていう実績があるんだ。まあ、一種の『感覚の増幅器』みたいなものだと思って」
勇太も、自分自身の経験則ではない知識に苦笑いするしかない。
「もう! 真面目にやってくださいよイグニスさん! ……でも、確かに歩き通しでお腹空きましたね。そろそろお昼にしませんか? キャルル特製の、新鮮な野菜をたっぷり挟んだ『キャロット・サンドイッチ』、用意してきましたから!」
キャルルがバスケットを掲げて可愛らしく提案すると、リーシャが即座に食いついた。
「賛成。この日差しの中でウロウロしてたら、足がパンパンだわ。少し休憩して、魔力の回復も兼ねたいところね」
「ハハッ、そうだな。じゃあ少し休も――」
勇太が金属探知機のスイッチを切ろうとした、その時だった。
ピーッ!! ピーッ!! ビーーーーーッ!!!
これまでに聞いたことのない、鼓膜を突くような激しい警告音が辺りに響き渡った。探知機のメーターは振り切れ、真っ赤なランプが狂ったように点滅している。
「なっ……!?」
「勇太様!? その反応……まさか! おい、お前たち! すぐにそこを掘りなさい! 岩盤の下だ!!」
後方で贅沢な椅子に座ってふんぞり返っていたダボルグが、転がるように駆け寄ってきて調査隊員たちに怒号を飛ばした。
「ハッ! 直ちに!」
隊員たちが色めき立ち、ツルハシを振り下ろそうとした、その瞬間だった。
グォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!
大地そのものが恐怖で震え上がるような、重く、そして圧倒的な圧力を伴った咆哮が、背後の岩山から炸裂した。
「くっ、何だこのプレッシャーは……!」
勇太たちが反射的に武器を構えると、先ほどまでただの岩壁だと思っていた巨大な影が、のっそりと立ち上がった。
ズシン……! ズシン……!
それは、全長十メートルを優に超える、巨大なトカゲ型の魔獣だった。
驚くべきはその質感だ。全身を覆う鱗は、有機的な生き物のものではなく、まるで磨き上げられた純銀、あるいはミスリルの如き『白銀の輝き』を放ち、太陽の光を暴力的に反射していた。
「デカいな……。ミスリルリザード? 冒険者ギルドの資料でも見たことがない名前だ」
「間違いない、あれは伝説に聞く『ミスリルリザード』じゃ!!」
ダボルグが、恐怖を好奇心が上回ったような興奮した声で叫ぶ。
「奴らは高純度の魔法金属を食料として育ち、その巣には必ずと言っていいほど、大陸全土を買い占められるほどの『ミスリル鉱脈』が眠っていると言い伝えられる、まさに地脈の守護者じゃ!!」
「ミスリルを食べる……。ってことは、やっぱりこの足の下には大当たりが埋まってるってわけね」
リーシャが頬に流れる汗を拭い、杖を構える。
その隣で、イグニスが待ってましたと言わんばかりに、獰猛な牙を見せて笑った。
「へっ、面倒な調査の手間が省けたってわけだ! あのデカブツをぶちのめせば、そこがお宝の入り口なんだろ? 面白え、次は俺様の番だぜ!」
彼は巨大な戦斧を肩に担ぎ、一歩前に出る。
「イグニスさんだけには任せられませんよ! 私だって……地獄の特訓で、新しいステップを覚えたんですから!」
キャルルも黄金のトンファーを構え、その瞳には月影流の真髄を体現する鋭い光が宿った。
それだけではない。勇太たちの背後では、マンミヤ率いる騎士団が、既に一点の乱れもない円陣を組んでいた。
「全軍、抜剣!! 領主様と調査団を、あの銀色の鱗一枚たりとも近づけるなッ!!」
白銀の鱗を持つ巨大な守護者。
その威容は、マルストアに眠る莫大な富と、それを手にするための過酷な試練を象徴していた。
勇太たち「ホープ・クローバーズ」と、新生マルストア騎士団。彼らの真の実力が試される、未知の決戦の幕が上がった。




