EP 12
騎士団強化と地獄の超回復
マルストア城塞の広大な訓練場は、その日、鉄と汗の匂い、そして物理的な「重圧」で満たされていた。
整列した騎士団員たちの前には、勇太が『地球ショッピング』で召喚した、色鮮やかでどこか不気味なほど洗練された造形を誇る現代のトレーニング器具が並んでいる。
「いいか、皆。今から君たちが手にしているのは、僕の世界で数千万人を苦しみ……いや、理想の肉体へ導いてきた『鋼の教師』たちだ」
勇太はコーチ用のホイッスルを首から下げ、ストップウォッチを手に、冷徹な指導者の顔で宣言した。
足元には、ラバーで縁取られたずっしりと重い円盤――20キロプレートが積み重なっている。
「まず、その箱に全力で飛び乗る! これは下半身の爆発力を鍛える『ボックスジャンプ』だ。ランスでの突撃時、馬を蹴る脚力と体幹を同時に作る!」
「次ッ! その重いゴム球を頭上から地面に叩きつけろ! 『メディシンボールスラム』だ! 盾を構える腕の力ではなく、全身の連動性で相手を圧し潰す力を養う!」
「そして――これが『バーピー』だ。地を這い、空へ跳ぶ。騎士が戦場で落馬し、そこから這い上がって敵の首を獲るための、生存本能そのものの鍛錬だ!」
マンミヤの「全軍、領主殿の指示に従えッ!」という裂帛の気合いを合図に、騎士たちは地獄へと足を踏み入れた。
訓練場はすぐに、重金属がぶつかり合う音と、騎士たちの野太い悲鳴で埋め尽くされた。
「ぐっ……お、重い……! なんだこの、逃げ場のない負荷は!」
「ぜぇ……はぁ……、ただのソリを押すだけなのに、なぜ脚が火を噴くように熱いんだ……!」
鎧を脱ぎ、トレーニングウェア(地球製ドライTシャツ)に着替えた騎士たちが、次々と地面に這いつくばる。そこへ、勇太が手をかざして栄養補給の品を出現させた。
「補給だ。地球特産の『ホエイプロテイン・ダブルリッチチョコレート味』だ。一滴も残さず飲め。筋肉の修復にはアミノ酸が必要だ」
「な……甘い!? なんだこの天国のような飲み物は……!」
「う、美味い……生き返る……。領主様、これならいくらでも――」
騎士たちが甘美な味わいに一瞬だけ表情を緩めた、その時。
背後に、柔らかな光を纏ったキャルルとリーシャが、女神のような、あるいは死神のような微笑みを浮かべて立っていた。
「皆さ〜ん、お疲れ様ですっ♪ 最高の治癒をお届けしますねっ!」
「は〜い、リセットしますよ。……『ハイ・ヒール』」
慈愛に満ちた蒼い光が騎士たちを包み込む。
酷使され、乳酸が溜まり、千切れかけていた筋線維が、神速の細胞分裂によってみるみるうちに修復されていく。重かった脚は軽くなり、肺の痛みも消え去り――彼らは「万全の状態」に強制的に引き戻された。
だが、その直後に響いたのは、勇太の無慈悲なホイッスルの音だった。
「よし、完全回復だな。休憩は終わりだ――第二セット、開始ィッ!!」
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」」
騎士たちの顔から、血の気が引いていく。
回復魔法。それは、本来であれば死の淵から救うための奇跡。
しかしこの場所では、**「もう一度死ぬまで追い込むための処刑宣告」**に他ならなかった。
「もうやめてくれ! 筋肉は元気なのに、心が拒絶してるんだぁぁっ!」
「助けてくれ! 回復しないでくれぇぇ!」
訓練場に響き渡る絶望の絶叫。
だが、その凄惨な光景を、誰よりも重いバーベルを肩に担ぎ、スクワットを繰り返すマンミヤは、頬を紅潮させ、恍惚とした表情で見つめていた。
「おお……素晴らしい! 筋肉が壊れ、光に焼かれ、さらに強固に新生していくのが手に取るように解るぞ……! これこそ、我が求めた究極の軍事理論! 素晴らしいぞ、勇太殿ッ!」
彼女の瞳は、過酷な訓練の先に待つ「大陸最強」という名の絶対的な勝利を、狂信的なまでの確信を持って捉えていた。
マルストア騎士団の地獄の合宿は、まだ序の口。
翌日、彼らは筋肉痛すら許されない。なぜなら、その痛みさえもリーシャの魔法で消し飛ばされ、再び「最大負荷」の重力が彼らの肩にのしかかるのだから。




