Amber, lost humanity その4
「アーちゃんみかけによらず結構グロいよね。でも負けないよ☆」
「...そお?なら...『空間の掘削』」
本当は自分の体を強化したいのだが、生憎とその手の魔術は消耗が激しい。それならばとアザトースは『空間の掘削』をAmber目掛けて使用した。幸い邪神としてのアザトースを少しの間取り込んだからか魔力(MP)は満タンだ。それにAmberはアザトースの魔術の規模と威力を知らない。確実に当たる。そして倒せる。手を振り下ろして範囲内の空間を抉り取る。
「ちょわっ!!あっぶないなぁ...もう。というかMPそんなあるわけじゃないのになんでそんなことできんのさ」
「...あれ...?よけた?」
しかしAmberはアザトースが手を振り下ろそうとした瞬間、反射的に後ろに下がった。直後Amberとアザトースの間にあった地面がガオンと音を立てて消失した。全身をブルリと振るわせ心底驚いたといった顔をするAmberだったが、驚きたいのはアザトースの方だった。アザトースの魔術をなぜ見切れるのか。アザトースとしてはAmberは『空間の掘削』を耐えるとは思っていた。彼女は神を取り込んだのだ、Aldebaranと同じくあの謎の文字列が体に浮かび上がり防ぐだろう。しかし消耗はさせられる。削っていけばいつかは戦闘不能になるはずだ。そう考えていたのだが、少し考えを改めなければいけないのかもしれない。
「うん?この匂い、この色...アーちゃんもしかして困ってる?」
「...べつにぜんぜん」
「嘘が下手だね。目泳いでるよ。まぁアタシも下手なんだけどさ。アタシがつける嘘と言ったら...不意打ちに気付いてないふりするくらい?」
そう言ってAmberが真横に目を向けると、黒い影がAmber目掛けて大剣を突き立てようとするところだった。しかしAmber目掛けて突き出された大剣は彼女の手で先端をつまむようにして受け止められてしまった。コウタの今の全力での突きだったが彼女は大剣の重量によろめく様子すら見せず、むしろコウタの方に衝撃が返ってきた。硬いものを殴った時のように全身に痺れが走る。
「あのさぁコウタ君。アタシ今神だよ?全力出さないと」
「もう出してますよっ...!」
「え?へなちょこすぎない?......あーなるほど☆通りで焦げ臭いわけだ」
勝手に納得したAmberは摘んでいた大剣を持ち上げコウタごと無造作に投げ捨てる。アスファルトに叩きつけられて、コウタはうめき声を上げた。
「Aldebaranってそれなりに強かったんだね。コウタくんなんかボロボロのヘトヘトだもん。それに比べてアタシは絶好調。そんな状態でアタシのことぼこすとかなんとか言ったわけだけどさ、ねぇアーちゃん。普通に無理じゃない?」
「...ぜんぜんわたし、そーおもわない」
「そお?アタシは無理だと思うけどな。そうだ!もしね?もしアーちゃんたちが望むなら、アタシ的には見逃してもぜんぜんいいんだよ?」
「...みのがす?」
「だってよくよく考えたらアタシ今アーちゃん達とバトる理由ゼロだもん。最初戦いたかったのは腕試し的なノリだったし。大体さ、魂を玉座に収めるだっけ?そんなことしなくてもいいじゃん別に」
「...わたしたちのしめい、それ」
「これ遊びだよ?使命なんかに従う必要なく無い?アタシたちがたのしーのが一番だよ☆」
「...むむ...なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。アザトースがこの世界に来たのは楽しむため。楽しく無いならばここに居る意味は全くない。
「...こはく、でもね」
「何?」
少し不思議そうな顔をするAmberにアザトースはゆっくりと告げる。確かに今は少し楽しくない。わからないことだらけだ。だけど、ここだけは変わらない。
「...わたしのなまえ、アザトース。だから......ねがいをかなえることがだいじ」
「ぜんぜん意味わかんない。それがアタシと戦う理由になるの?名前が?」
眉を寄せる彼女を見て、アザトースは迷いなく「なる」と答える。わかってもらえるはずがないけれど、それだけがアザトースが自分を神と認めるためのルール。
「やっぱり意味わかんない。アーちゃんのいうことわかんない」
「...わたしはわかってる。それでいいの。........でもわたし、かてない。このままだと」
「そうだね。アタシが食って全部おしまい」
「だから...アトラ!」
珍しくアザトースが声を張り上げ、そしてポーチからかつてコウタから貰った黒曜石のナイフを取り出す。そして一房自分の髪の毛を切り落とす。
「...チカラをあげる。だから...がんばって?」
呆気にとられるAmberのよそに、はらはらと地面に落ちた灰色の髪がまるで何者かに手繰られたかのように円環を成す。囁くようなアザトースの言葉と共に円環の内側がどろりとした闇に染まり、外壁を成していた毛髪が光出す。それはまるで何かを呼び寄せる門のようで。円の中心に佇むアザトースを見れば、彼女のつけていたマントに縫われた蜘蛛の巣の刺繍が消えていた。
「...本当に、どっちがボスかわっかんないな」
縁をなぞるように、白い鎌のような足が一本、また一本と現れる。8本現れた後、ぬうっと闇の中から巨大なナニカが飛び出してくる。
『滅びに紡がれし神 アトラが顕れました』




