Amber, lost humanity その2
神へと進化したAmberは舌なめずりしながら恍惚とした表情でアザトース達を睥睨する。六つの瞳孔がくるくると回転して非常に気色悪かった。
「これが神の味。いいね☆最っ高」
呆気にとられるアザトース達に背を向けて、Amberは気分よさそうに鼻歌を歌っていた。その背中から漏れ出すドス黒い気配は何か本能的な恐怖を呼び起こすようだった。
「...こはくさん。あなたが使徒であることは気がついていました」
コウタがAmberに一歩踏み寄り、呟くように話しかける。Amberは鼻歌をやめたが後ろを向いたままだった。
「へぇバレてたんだ。まぁどうでもいいけど」
「ですが腑に落ちないところがあります。使徒について初めてアルキオネさんに説明された時、どうしてあんなに焦っていたんですか?僕はこれまでこはくさんが無理やり契約させられたのだと思っていました。でも今のこはくさんはAldebaranと共謀していたような...そんな感じがします」
「んーとね。アタシが使徒の意味を知らなかったというか...契約内容が元々ログインしてない間体を貸す代わりに力をくれる的なアレだと思ってたんだけど、Aldebaranのやつアタシを復活の器にするつもりだったみたいなんだよね。初めてそんなこと聞かされたらフツービビるでしょ?まぁ逆に食べてやったからもう関係ないけどね☆もう質問ないよね?これでいい?」
「じゃあ自分からも聞かせてもらおうかな...!」
Amberがくるりと振り向いて声の主を確かめると、それはアルキオネだった。いまだに先ほどの衝撃が抜けていないのか、カイザとサモンに肩を支えられて立っていた。
「ああ、まだ動くんだ。めんど。で、何かあるの?聞いてあげるけど」
「お言葉に甘えて聞かせてもらうね。こはくちゃん。あなたの意図がわからないんだ。『人でなし』の使命を放り投げてまでどうして神喰らいをしようとしたの?どうして人を食うことに罪悪感を覚えないの?」
「神様って美味しそうじゃん。あとヒトを食うことの罪悪感だっけ?アタシも理由があるからね。悪いねーとはときどき思ってるよ」
「あぁ......そうか。Aldebaranがあなたを選んだ理由がわかったよ。一番聞きたくなかった答えだね。うん」
当たり前と言いたげな顔をするAmberを見て、アルキオネは大きなため息と共に顔に手を当てて天を仰ぐ。アルキオネの反応にAmberは少しムッとしたようだった。
「聞いといてそれひどくない?あそうだ。シャケ君達もなんか質問ある?」
「なぁこはく。どういう気持ちで俺らと関わってきたんだ?家畜でも見るような気分だったのか?」
「え?アタシたち友達じゃん。友達だと思ってたけど違うの?」
「ああそうかよ!人でなしだなっ...!人でなしだてめーはよ」
感情がグチャグチャになったような声で吐き捨てるカイザにAmberは首を傾げる。それは本心でそうしているのか、それともポーズでしているのかわからなかった。
「まぁ確かに『人でなし』だし...リアルもそうだけどさ。NPCとプレイヤーの認識の差ってやつ?でもカイザ君にそういう風に言われるほどのことはした覚えないんだけどなー。もしかしてシャケ君も同じ感じ?」
「こはく。貴女と話すことはない。聞く気もない」
「あっそ。じゃあもういいよね。それじゃ、始めよっか☆」
話を切り上げるような言葉と共にAmberは両手を大きく広げ、迎え入れるようにこちらに笑いかけてくる。周囲に撒き散らしてドス黒い気配は一層濃度を増し、弧を描く口の端からは涎が一滴こぼれていた。戦いが始まることを予感して全員が身構える。...たった一柱を除いて。
「...なにをするの?」
「何ってアーちゃん戦うんだよ?フツーに考えて。状況見ればわかるでしょ」
「...なんで?なんでたたかうの?」
「え?ちょっと何言ってるのかわからない」
心底不思議そうな顔をして首を傾げるアザトースにAmberは間抜けな声をあげてしまう。不思議ちゃんだとは思っていたが、もしやそういうレベルではないのか?眉間にシワがよる。もしかして自分が何か大きな勘違いをしているのではないかと不安になったが、アザトースの後ろにいるコウタ達も訝しげな顔つきをしている。
「...わたしたちAldebaranたおした。つまりやくそく、はたされた。たましーをぎょくざにおく...それでみっしょん、こんぷりーと。だからこはく...ぺっして。そしたらわたし、はっぴー。こはくもはっぴー。...たたかうひつよう、ぜろ」
「は?なんでアタシ?アーちゃんちょっと何言ってんの?」
「...くちからたべたのだすの。ぺってして...はやくはやく」
悪意の一切なさそうな顔つきで急かしてくるアザトースにAmberはいいしれぬ違和感を感じる。同じ言語で話しているはずなのに、何か物事の捉え方に齟齬がある。それも笑って流せないほどの。アザトースの後ろにいたコウタ達も、いいしれぬ違和感に固まっていた。
「だからなんで?全然意味わかんないんだけど」
「......?あなたのねがい...かみをたべること......あとヒト。ちがう?」
「いやうんそうだけど!そうだけどさ!!」
「...いまねがいかなった。ちがう?」
「違わないけど何?ねぇアーちゃん何が言いたいの?」
「...たべおわったでしょ?たましーもういらない......でもわたしそれいる。それに...だれかのおねがいをかなえる...とてもしあわせ。つまりやるべき。でしょ?」
近くまで近寄ってきたアザトースを見てAmberはようやく、彼女が言っていることの意味を理解する。アザトースは別にAmberがアルキオネを不意打ちしたことと魂を横取りしたことに全く何も感じていないのだ。それどころかむしろ彼女はAmberが目的を達成できてよかったと喜んでさえいるのだ。だから今度は自分の番だと、そう考えているのだ。
「アーちゃん」
「...ぺっする?」
「無理☆そんなのしてあげるわけないよ」
「...なんで?」
「せっかくめっちゃ強くなったのにそれを手放すわけないじゃん」
虎のように鋭い歯を見せて好戦的に笑うAmberの言葉に、アザトースは顔を下に向け手を顎に当ててしばし考え込むようなそぶりを示す。しばらくの間ぐるぐると歩き回ると、何か思いついたように顔を上げコウタ達の方へ向かうと何かゴニョゴニョと話し始める。そしてすぐにアザトースはAmberの方を向く。その表情には起伏が薄いながらも確かな自信が滲んでいた。後ろではコウタが苦悩を振り払うように頭を振った後剣を抜き、カイザとサモンがアルキオネを逃していた。
「...ふふ。われながらぐっとあいであ。こはく...ぺっしないでしょ?」
「もちろん」
「それなら......こはく、つれてく...ぎょくざにすわってもらう。わたし、もくてきたっせー。こはく、てばなさなくていい。...うぃんうぃん」
「玉座?座る?ちゃんとわっかりやすく説明してほしーな☆」
「......だから...そのために...ぼこす」
「説明ありがと☆」
アザトースが釘バットを取り出すのと同時にAmberが手に持つナタを振り上げる。今、開戦の火蓋が切って落とされた。
アザトース「こはくが手放そうとしない以上魂をこはくから引っぺがした方が手っ取り早いけどこはくの意向を尊重してボコボコにして動けなくした後玉座に永劫に座らせることにしよう。よし」
コウタ「(ドン引き)」
純然たる善意です




