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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを:下
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Amber, lost humanity その1

「...ああ、試練が終わったのですね」


 腹に大穴を開けられたベルモットは地べたに仰向けに倒れながらこれまで通りの抑揚のない声で、それでも感慨深そうに呟く。胸に空いた大穴の端から植物を撚り合わせて作った体が朽ちていくのがわかってしまう。


「負けてしまいました。それも全力で戦ったというのに。嬉しいです」


「...おめーマゾかよ」


 倒れたベルモットにカイザ達が近づいてくる。彼らは未だこちらを警戒しているようだったが、ベルモットにはもう戦う意志がなかった。両手を上げて戦意がない事を示す。


「違いますよ?私は試練。その役割は今ここに果たされました。それが嬉しいのです。...もう一つの願いは叶えられませんでしたが」


「願い?試練?ベルモットよ、説明してもらおうか」


 ベルモットに説明を拒む理由はなかった。自分を倒し試練を超えた二人には、むしろ伝えたいことがあった。


「試練とはAldebaran(アルデバラン)...あとぼしさまと言った方がわかりやすいですかね?奴を殺せる人物を戦いの中で見出す事。願いは...使徒を殺すこと。使徒であるこはくさまを殺せれば、Aldebaran(アルデバラン)を弱体化させられますし、復活の可能性を断ちやすくなります。まぁまさか『人でなし』が使徒になるとは思いもよりませんでしたがね。これでいいですか?こちらからも言いたいことがあるのですが」


「待て待て待て待て!Aldebaran(アルデバラン)とやらがあとぼしさまだって?だったらなんで殺す必要があんだよ?人を食う神様だったのってずっと昔の話だろ?今は陛下が鎮めてるんじゃなかったのか?」


 困惑するカイザにベルモットは一つずつ説明していく。体が崩れ始め時間がない今全てを丁寧に説明はできないが、それでも伝えられる限りのことを二人には話した。彼らは信じ難いと言った顔をしていたが、それでもAldebaran(アルデバラン)が怪物であることと、こはくがその化け物に取り憑かれているということで一応理解はしてくれたようだった。


「...なるほど。荒くはあるが理解はできた...はずだ。してベルモットよ。貴公にも話したい事があるのだろう?」


「覚えていてくれて感謝します。二つほどあります。急を要する話ですので手短になりますが」


「ああいいぜ」


「構わんさ」


「では。まず一つ目ですが、現在女王陛下にアザトース様、コウタ様がAldebaran(アルデバラン)と交戦中です」


「陛下と師匠が!?」


「あの黒曜の騎士もか」


 驚く二人に、ベルモットは話を続ける。まだ話は終わっていない。体が朽ち果て始めているせいで声がうまく出ないが、なんとか声を振り絞る。


「最初に会ったときの木の壁を覚えていますか?あれはAldebaran(アルデバラン)を逃さないためのものです。ですがあれは私が死ねば腐り消えます」


「...なるほど。Aldebaran(アルデバラン)のところに向かって戦ってくれというわけか」


「ご理解いただけて助かります。では二つ目ですが...上を見ていただきく思います」


「上?空しかねぇけど」


「いや...遠くに何か見えないか?緑色の...何かだ」


 言われた通りに上を向く二人だったが、しばらく見上げていると何もない空に緑色の点があるのが見える。それは段々と大きさを増していた。


「あれは星です。名を「ニガヨモギ」。私が死ぬことで作動しAldebaran(アルデバラン)を殺すべく落ちてきます」


「ホーンなるほどな。そりゃ結構なことだ...ん?ちょっと待て。確かAldebaran(アルデバラン)と師匠達って戦ってるよな?」


「先ほど申し上げた通りです」


「もしあれが落ちてきたらどーなんだ?」


「Aldebaran(アルデバラン)の周辺は草の根一本残さず消え去るでしょうね。というわけで。お願いします」


 カイザとサモンは顔を見合わせ、そしてすぐにそのまま走り出していった。きっとアルキオネたちを助けにいってくれたのだろう。そうに違いない。走り去る二人を見送って、ベルモットは一人考える。


「私の使命はAldebaran(アルデバラン)を殺し、その魂を玉座に迎え入れること、その手助け。...その結果としてアルキオネ様が死のうが生きようがまぁ私の知ったことではないんですが...ないはずだったんですがね」


 朽ちていく手をを見てベルモットはただ思う。彼女には最初何も感じていなかった。ただ浅ましい先祖のツケを払わされている小娘としか思っていなかった。瞳をAldebaran(アルデバラン)に食われた時に涙さえ流せなくなったのも、Aldebaran(アルデバラン)を殺せば奴との契約が切れ体を維持できなくなって死んでしまうこともわかっているのに誰かのためだと言ってAldebaran(アルデバラン)を殺そうとするのも、ベルモットの知ったことではなかった。関係なかった。ベルモットはあくまで世界(シナリオ)の歯車、どこまでいってもそれ以上にはなれないし、ならない。だとしても。


「...せめて幸せに死んでほしいと、そう願ってしまうのはおかしいことなのでしょうか」


 神に与えられた役割(ロール)は変えられない。ベルモットがどうしようとも、ベルモットの役割は言ってしまえば時期が来たら斃されて星を落とすこと。イケブクロに隕石が落ちることは変えられなかった。


「カイザ様にサモン様。頼みましたよ。そして陛下。自己都合により退職させてもらいます」


 動かすことのできる顔はなくても、気持ちだけでも笑顔を浮かべて届くはずのない言葉を残す。その言葉を最後にベルモットは朽ち果て死んだ。


『苦艾の試練がここになされ、第三の喇叭が吹き鳴らされた』


『苦艾の神父 ベルモットが倒されました』


「.........減ってるけどいけるかなぁ?まいっか。いただきます☆」









「...つーわけだ。ともかく師匠と陛下が死ななくてよかったぜ」


「...なるなる」


「あのー僕のことを忘れないでほしいと言いますかなんというか」


「......」


「...女王陛下。心中お察しする。して黒曜の騎士よ。Aldebaran(アルデバラン)は死んだのかね?」


「えっ?あっはい。ええと.......フッ...当然アザトースさんに女王アルキオネ、そしてこの俺†爆裂無双(アルティメット)窮極無限(デスティニー)最強戦士(ファイター)†コウタによってかの神は斃されたとも...」


 黒曜の騎士と呼ばれたのが嬉しかったのか、サモンの騎士っぽい振る舞いに当てられたのか、コウタは久々にロールプレイを始めた。サモンもそれに便乗して、さらに仰々しい話し方になっていた。


「なるほど。では問おう†爆裂無双(アルティメット)窮極無限(デスティニー)最強戦士(ファイター)†コウタよ。Aldebaran(アルデバラン)は使徒を器となし復活するという。使徒がこはくだというのも聞いたのだが、いいのかね?」


「フッ...全く問題はないさサモン・サーモン。我らが女王、『連星の盾(プレアデス)』アルキオネが完全にAldebaran(アルデバラン)が沈黙したことを確認したらしい」


「この『海神の探索者(トゥルー・シーカー)』サモン・サーモン、貴重な情報に感謝しよう。貴公ににはいつか礼をせねばな。†爆裂無双(アルティメット)窮極無(デスティ)...」


「...めんど」


「ええっ!?アザトースさぁん!?」


「俺もちょっと前から思ってたけどよ、お前話し方回りくどすぎんだろ。正直結構ウゼェぞ」


「カイザ!貴公もか!」


 驚きしょげる二人に自覚なかったのかと驚く二人。緊張感なくわちゃわちゃと弁明と言葉のカウンターを繰り広げる彼らを見ながら、アルキオネは少しだけ微笑む。


「ふふ。自分も参戦しよっかな〜」


「ダメダメ☆『教義喰らい(ドグマ・イーター)』☆」


 突如後ろから鈍い音と共に強い衝撃をくらい、アルキオネはよろめき倒れる。地面にうつ伏せに倒れ薄れる意識で見たのは、Aldebaran(アルデバラン)の黄衣の切れ端を纏ったこはくの姿だった。その目は黄色く爛々と光り、口元からは涎がたらりと垂れていた。


「おいこはく!なんのつもりだ!!」


 突然の人物の、突然の凶行を前にカイザが吠える。彼の恫喝じみた質問を聞くと、こはくはゲラゲラと笑い出した。心の底からおかしいと言わんばかりの笑い声はその場にいた全員を立ち止まらせるような狂気を孕んでいた。


「あはははははははははははははは!!ああおかしい。みんなはさ。どうしてアタシが使徒に選ばれたのかわかってる?」


「...『人でなし』だとつごーがいいから?」


「違うよアーちゃん。いやAldebaran(アルデバラン)的にはちょっと考えていたのかな?でもでも、それなら『人でなし』なら誰でもいいでしょ?ア(・)タ(・)シ(・)が選ばれた理由にはならなくない?」


『人でなし』が使徒になることで使徒が死ぬことを防ぐ。それこそがこはくが使徒に選ばれた理由だと思っていたが違うらしい。チッチッチと言いながら彼女は指を楽しげに振ると、アザトース達の前にあるものを見せつける。


「これなーんだ☆」


 彼女が見せたものは気体のような液体のような、奇妙な白い塊だった。こはくの手の上でふよふよと浮いていたそれは神々しく淡い光を放っていたが、ところどころ欠けているかのように見えた。


「...なんですかそれ」


「コウタよ。『人でなし』である貴公も見たことないのか」


「それ...魂だよね。それもAldebaran(アルデバラン)が食らおうとしてた」


「さっすが女王陛下!わかってるぅ〜!......というわけで!『連星の盾(プレアデス)』!」


 直後、アザトース達を閉じ込めるように半透明の盾がいくつも現れる。こはくはそれを見てニンマリと笑うと、手に持っていた神の魂を口に入れて、一息に飲み込んだ。同時に彼女の体が黄色い蛹のようなものに包まれて、その姿を覆い隠す。


「アタシが使徒に選ばれた理由...それはAldebaran(アルデバラン)と同類だったから。人も神もまとめて食いたかったからだよ」


 蛹の中からくぐもった声で聞こえた言葉と共に『連星の盾(プレアデス)』が割れると、それと同時に神の力を取り込んだこはくが蛹をベリベリと割って現れる。シルエットこそ変わっていなかったが、口元からは牙が覗き、黄色く濁った目の中には赤い瞳が六つ入っていた。歪にねじくれた角が7本円環を成すように頭から生え、持っていたナタはこはくの手と一体化している。


『error』

『error』

『システムを確認中...』

『データを更新中...』

『更新が完了しました』


『人でなしのAmber(コハク)が現れました』



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