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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを:下
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試練決着、貪食胎動

 威勢よくリターンマッチの火蓋を切ったはいいものの、ベルモットはやはり強かった。出し惜しみをやめた彼の戦いはこれまでよりも苛烈だった。使役していたツタはもはや大木と呼ぶべき太さになっていて、斬り払うどころか受けることすらままならない。その上近接戦も積極的に行ってくる。動いた気配すら見せずに近づく謎の歩法で間合いを即座に詰めては強烈な一撃を叩き込み、反撃しようとすればすぐに後ろに下がる。一方的に攻撃されている状態だった。しかし幾度も見れば少しは動きを理解できるというもの。


「疾い...重い...だが随分大振りだ」


「サモン様、そういう言葉は避け切ってから言っていただきたいです。まだかすっていますよ?」


「それもそうだな!『炸裂甲殻(シェルショック)』!」


 サモンの体を覆っていた甲殻が散弾のように弾け飛び、ベルモットへと襲いかかる。ベルモットはツタを盾にして防いだが全てを防ぎ切ることはできず、衣服の端々を傷つけた。


「礼装をよくも...!」


「...なるほど。『墨吐き(インクプッシュ)』!カイザ!話がある!一旦引くぞ!」


「わかった!おらベルモット!プレゼントだ!」


 墨を吐き出して逃げるサモンに応じて、カイザもついでに煙幕を張ってから急いで下がる。すぐにツタをブンブンと振り回して煙を晴らすと、二人は逃げた後だった。


「...逃げても無駄です。私はあなた方の魔力を覚えていますので」


 苛立ちを抑えるかのように頭を手で押さえながら、ベルモットは歩き出した。一方二人はベルモットがいた場所からそう遠くはないビルの一室にいた。内部は人がいたような形跡があったが、特に人はいなかった。ベルモットがこれだけ暴れているのだから逃げたのだろうと深く考えずにカイザはサモンに問いかける。


「サモン、作戦あんのか?」


「ない。だが勝算はある」


「うっしわかった。俺は何すればいい?」


「私が必ず奴の隙を作る。そこに貴公の最大の一撃を頼む」


「いいね」


 カイザが了承をした途端、ビルの倒壊音が鳴り響く。それと同時にベルモットの抑揚のない声が聞こえてくる。窓の隙間から道路を見てみると、地面から幾つも生えた巨大な木の根を振り回し周りのビルを一つづつ破壊していくベルモットの姿が見えた。彼の顔からは変化が読み取れなかったが、声は少し前に会った時より少しばかり早口になっていた。


「そのあたりにいることはわかっています。観念して出てきなさい」


「では頼むぞ...『海洋生物特徴付与(オーシャンズ):触手因子(テンタクルゲノム)』」


「任せな」


 短い会話を交わしたのち、サモンは両手に包丁を携えてベルモットの前に堂々と現れる。


「カイザ様は出てこられないようですね。残念です」


「そのうち出てくるとも。そのうちな」


「そうですか...では死んでください」


 その言葉と共にベルモットの周りのツタがサモンめがけて襲いかかる。ひらりとそれを避けサモンは近づこうとするも、やはりツタに阻まれる。


「フッ...ここからさ!『墨吐き(インクプッシュ)』!『自切(セルフカット)』!」


 再びサモンの口から勢いよく墨が吐き出され、あたり一体を覆い隠す。それは先ほどまでよりもはるかに大規模だった。ベルモットはしかしサモンの行動に落胆した。


「芸のない...」


 ベルモットにとって煙幕はさほど意味をなさない。なぜならベルモットは魔力と音で感知しているからだ。とはいえサモンの吐いた墨には魔力が込められていた。そのため目が無いベルモット相手にも煙幕として機能していたが、サモン自身に比べれば含まれる魔力の量はずっと少ない。故にベルモットには煙幕を使われてもサモンの姿を判別することが可能だった。今もしっかりとベルモットの「眼」にはサモンの魔力の最も濃い部分が見えている。


「『緑の魔手(アブシンス)』」


 ベルモットの声と共に竜の尾のような太さのツタがふるわれ、サモンをめったうちにする。何度も何度も叩きつけ、ヒトの形がなくなるまでぐちゃぐちゃにする。かつてサモンだったものが完全に動きを止めた後、ベルモットはカイザを探すために進み出す。少し離れたところで彼の魔力が高まっているのが見えている。サモンが時間を稼ぐつもりだったのだろうが、そんな策とも言えぬものが通じると本当に思っていたのだろうか?


「本当に...愚かですね」


「全くだな。ベルモットよ」


 後ろから突然サモンの声が聞こえハッと振り向いたが、ベルモットには何も見えない。墨の煙幕に含まれた魔力、サモンの死体に残った魔力、そしてカイザの魔力以外、何も見えない。


「秘剣・平造(ヒラヅクリ)」


 駆け巡る疑問に脳が一瞬フリーズした隙に、ベルモットに2本の包丁が迫る。両肩に刃を押し当てられて、真っ直ぐに引いて体を切り裂かれる。


「何故っ...何故...」


「これほどまでにうまくいくとは思わなかったが...予想通りで安心したぞ」


「予想...ですと...どこにいるのか見えませんが...どういう手品で...」


 サモンはベルモットの行動と発言から仮説を二つ立てていた。一つはベルモットの顔に目や鼻がない以上、何か別のもの...おそらく魔力感知で感覚を補っているということ。もう一つはベルモットの瞬間移動じみた動きは彼の着ている神父服に依存しており、それを破壊されれば使えないということ。


「教える義理はない」


 故にサモンは神父服を破壊するために、サモンは作戦を立てていた。まずは『墨吐き(インクプッシュ)』によって煙幕を作成、これにより次の行動の効果を上げ同時にベルモットの慢心を誘う。次に『自切(セルフカット)』で先に付与しておいた触手を切り離してデコイを作る。この時に自身の残り魔力を限界まで注ぎ込んでおくことで、自切した触手をサモン本人だと誤認させる。 これによりサモンはベルモットから「見えない」状態になったのだ。


「カイザ!あとは任せたぞ!」


 サモンの掛け声と共に、ベルモットの前にカイザが現れる。彼の周りには魔導書のページが彼を囲むようにしていくつも浮いている。


「サモン!ありがとな!そんでもって下がってろ!巻き込まれても知らねぇぞ!」


「言われなくとも...!」


 魔力を限界まで消費した上、平造(ヒラヅクリ)で残った魔力もベルモットにぶつけた以上サモンは正直もうほぼ戦えない。それにカイザが今使おうとしている魔法は相当に危険そうだ。サモンは急いでカイザの後ろへ下がることにした。ベルモットもカイザの一撃を避けようと動こうとしたが、サモンの一撃で体を切られたせいでうまく体が動かない。


「『緑の魔手(アブシンス)』!」


 ベルモットはAldebaran(アルデバラン)を逃がさないために張っておいた壁と同じようにツタを地面から生み出して自らの盾にする。カイザの使ってきた魔法はここまでどれも爆発系だ。ならばツタを使っていくえにも壁を張れば耐えられるはずだ。一度耐えて仕舞えば、あ(・)れ(・)で決着がつけられる。


「アザトースの師匠...見ててください!『空間の貫通(リュウズルキア)』!」


 カイザの声に反応してページから文字が空中に浮き出し、天高く掲げられたカイザの右手に寄り集まって槍の形をとる。それは深淵の盟主たるアザトースの魔術が一つ。あらゆる存在を貫き討ち滅ぼす暗黒の槍。神たるアザトースでなければその真の威力を発揮できず、さらにそれを使うのが魔術書による魔力の補助と魔法陣による魔術の簡略化がなければ使えない矮小なる下等生物(ヒト)の身であるとはいえ、その魔術が秘める力は凄まじい。


「死にさらせゴラァァ!!!」


そしてカイザが手の上に生み出した『空間の貫通(リュウズルキア)』を怒号と共に槍投げの要領で投げつけると、カイザたちを阻むように幾重にも生えた大木のような太さのツタを悉く貫き、ベルモットの腹に大穴を開けた。

『空間の貫通(リュウズルキア)』

本来は人間が使うには何人もの人数で制御する必要があるが、カイザは威力と範囲を犠牲にしつつ魔導書にアザトースから聞いた方法で細工したことで一人で発動できた。ただし唱えるだけで使えるアザトースと違って発動には大きな隙ができる。

ちなみにアザトースが使うと某最強呪術師のあれみたいになる。

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