見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その11
「...よし」
アザトースがAldebaranにひとしきり力をぶつけて満足すると、それと同時に肉体に入り込んでいた邪神の力が抜けていった。体を見ると力の影響で色の濃くなっていた肌は白くなり、黒くなった髪の毛も灰っぽい色合いにだんだんと戻っている。
「ムゥ...つかれた」
完全に戻り切ると同時にドッと疲れが襲ってくる。急に全身が鉛になったかのように重くなる。魔術を連打した後のような痛みはないから良いものの、生気を抜き取られていくようなこの感じはなかなか堪えるものだった。
「...むーりぃ.....」
アザトースは地面に座り込もうと思い腰を下ろし、ふうと一息ついたところで、ある一つの事実を思い出す。
「...いまそらだった」
今まで無自覚だったからか落ちていなかったのか、今空中にいることを自覚した直後まるでカートゥーンのワンシーンのようにアザトースは重力に従い落下する。
「...わわわ」
「ああもう!!『連星の盾』!」
アザトースが地面に直撃する寸前、アルキオネによって盾がアザトースの真下に現れ、アザトースを受け止める。Aldebaranの攻撃を完全に受け切った時と異なり盾はゴムのように落下の衝撃を完全に吸収しアザトースへの衝撃を防いだ。
「本当に、本当に色々と訳がわからないけど...倒せたってことでいいのかな?」
「...アルデバランは...そう」
地面に降りたアザトースに向かって降りてきたアルキオネが話しかけてくる。彼女の声色は今起きたことが信じられないのか、普段よりも少しだけ早口だった。
「む...コウタどこ?」
「彼動けなくなっていたし今頃は瓦礫の下だろうね...」
「なむ...」
「勝手に殺さないでください。泣きますよ」
「草葉の陰で?」
「殺さないでくださいよぉ...」
瓦礫...もといAldebaranの死骸を押しのけるようにしてコウタが現れる。鎧はあちこちが破損し、疲労とツッコミのせいで肩で息をしていたが、随分と元気そうだった。
「にしてもこれで終わりなんですかね?変な黒い球が突然空に現れて、Aldebaranがはちゃめちゃにデカくなったと思ったらすぐにやられたんですけど...」
「......へん...そっか...そうなの...」
「どうしましたかアザトースさん?」
「...かるちゃーしょっく」
「?」
「お二人さん。水をさすようで申し訳ないんだけどさ、使徒のことって覚えてる?」
アルキオネが頭をかきながら二人の間に割って入る。その顔には不安と焦りが浮かんでいた。
「...もち」
「ええ。使徒を媒介としてAldebaranが復活するかもしれないこともよく分かってます」
「ああ、その感じだと使徒を倒してるんだね。ならよかったよかった。いやーてっきり前もって始末していなかったとばかり思っていたよ」
「...たおしてないよ」
「は?自分笑えない冗談は嫌いだよ」
「あのアザトースさん。それじゃ説明不足です。あーアルキオネさん。確かに僕らは使徒を倒していません。ですがそれには訳がちゃんとあります」
「うん。うん。聞かせてもらおうかな」
兜越しでもわかるほどに険しい顔をするアルキオネに、コウタは淀みなく説明していく。隣ではアザトースが頷いていた。
「結構単純な理由でして使徒が『人でなし』だからです。倒しても復活されるし最悪逃げられます」
「君たち蘇るもんね。でもそれじゃあ根本的なところは変わらないよ?どーすんのさ」
「えっとね...もしくわれる...しょうき...しぬ...やだだけどたたかう...くわれないならそれでいい...そのままでいい...ね?コウタ」
「その通りです」
「待って待ってつまりどういうこと?自分さっぱりなんだけど」
頭を抱えるアルキオネにアザトースが再び説明しようとするも、どうも彼女の説明は言葉足らずでアルキオネをますます混乱させるだけだった。アザトースも身振り手振りを交えてなんとか説明しようとしていたが、なかなかうまくいかない様子だった。コウタは彼女の代わりに説明しようかとも思ったが、アザトースが考えた作戦である以上自分で言いたいのだろうと思い黙って見てることにした。
「...『脳の接続』」
「...あ、説明諦めたんですね」
ついに説明を諦めた様子のアザトースは魔術を発動する。アザトースの頭から糸が伸びアルキオネに突き刺さる。そしてニャルラトホテプに考えさせた使徒対策を伝えた。伝え終わり『脳の接続』の使用を止めると、アルキオネは理解したからなのか大きくため息をついた。
「はぁ...うん。理解したよ。使徒であるこはくちゃんをAldebaranが乗っ取れたら『人でなし』の正気度がゼロになるからそのまま殺せると。乗っ取りに失敗したらそのままAldebaranが消滅するから問題なしってわけね」
「...そ」
「ええ、乗っ取りに失敗したAldebaranがアルキオネさんに向かわないかどうかだけ懸念事項だったんですが...」
「それは大丈夫だね。自分乗っ取られそうになったらすぐ自殺するし。というかさっきまであったAldebaranとのつながりを感じないんだよね。だからさっきの話で行くとAldebaranは乗っ取りに失敗して死んだんじゃないかな?というかこはくちゃんが使徒だったのかぁ...あの時気づけていたらなぁ...モトベのやつは気づいていたのかなぁ...?」
「モトベ...なにもの?あいつ...しと...かばった」
「あ、それじゃあモトベ気づいてたんだ。さっきアザトースちゃんが教えてくれた通り使徒が殺されると最悪逃げられるからじゃない?『人でなし』しか立ち寄れない場所がこの世にはあるというし。変なところでAldebaranが復活するくらいならこの街の中にとどめたかったんじゃないかなーと」
「ますますモトベって何者なんですか...?」
不思議がる『人でなし』二人にアルキオネが説明しようとすると、遠くから声が聞こえる。どちらも一度聞いたことがある声だった。声がする方を見れば、男が二人こちらに向けて大声で叫んでいる。離れていたからか片方の男は誰だかよくわからなかったが、もう一方はとてもわかりやすい造形をしていた。
「あの珍妙な頭はサモン君かな?ということは隣にいるのはカイザ君?」
とりあえず生きていることを示すために手を振って応える。彼らはなにやら手を高く上げて何かを言っていたが、アザトース達のところまでは届かなかった。
「これだけ暴れれば人は流石にきますよね...アルキオネさん。そういえばあなたの兵士はどこへ?」
「それなら街の郊外に住民を逃がすよう指示してるよ。ほらAldebaranってなんでも食べて取り込んでたじゃん?死体になったら即消える『人でなし』と違って養分にされそうでさ。だから逃しておいたしモトベにバリケードを張らせて誰も入れないようにしてたんだよねー」
「そういえば展望台からビルみたいにでかい木が道を塞いでましたけどあれですか?」
「そうそれそれ」
「...じゃああのふたりはなんではいれたんだろ」
アザトースが何気なく思ったことを呟くと、アルキオネの顔色がハッと変わる。
「『緑の魔手』が消えた...?じゃあモトベが死んだのか?嘘だろ?誰のせいで?」
「アルキオネさん!あのふたりに聞いてみたらどうでしょうか」
「そ、そうだねうん」
動転したアルキオネに呼びかけて、アザトース達は未だに何か叫んでいる二人の方へ向かう。近づくにつれて、彼らの声が鮮明に聞き取れるようになる。
「...だ!...えだ!!貴公ら!!今すぐ逃げるぞ!!」
「分かったからちょっとモトベについて知らないか?」
「んなもん後だ!いいから上を見ろ!!!そんでもってさっさと逃げんぞ!」
「上?上に何か...」
「...わお。いんせき」
カイザ達の勢いに押され三人が空を見上げれば、雲を突き破り緑色に輝く巨大な隕石が落ちてきていた。
アルデバランは確かに死にました。ええ、確かに死にましたとも




