見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その10
現在、アザトースの体は邪神の断片、それも特に力を持つものと融合している。これまでアザトースはニャルに作らせた人間の肉体を用いていた。そのため邪神たる特別な魔力をほとんど持たず、持っているものは力の使い方...つまり魔術の呪文というべきものだけだった。しかしアザトースの魔術は当然ながら人間用に作られたものではない。故に使用後には頭が痛み、大規模なものは連発できなかった。ではわずかでも邪神としての力を取り込んだ今ならばどうだろうか?
『......よわいね......それとも......わたし......すごすぎる?』
「VAAAAAAAAA!!!!!」
アザトースとAldebaranの力の衝突によって、敗者は膝をつき痛みに悶え苦しんでいた。アザトースの『薙ぎ払われた大地』を一度食らって覚えた技を、上から踏み潰されて胸元から腕を大きく抉られる。アルデバランの近くの建物は根本から削り取られていた。
「viilolololololo...」
『......さいせいしたいの?』
Aldebaranは削られた腕の再生を試みる。繋ぎとなる血液が消し飛ばされた分少しサイズが小さくなるが、それはAldebaranにとって大した問題ではなかった。
「vi?」
『.....ざんねんかもだけど......それはのー』
しかし失った腕を再生しようとしても、繋ぎとなる血液が左腕の方に動かない。それどころか、失ったままであろうとするかのように血液が動いている。それもそのはず、今のアザトースの術は完璧に発動している。これまでの軌道上の物体を粉々に砕く効果を超える、存在そのものを否定する術。それは一時的なものではなく永続的なものだ。すなわち、アザトースの魔術によって失った腕は決して戻らない。
『......むだむだ』
残った方の腕で攻撃を仕掛けるAldebaranをアザトースは再び払い退け、そしてその腕も消しとばす。大変わかりにくいが彼女の口元は弧を描いていた。両腕を失ったAldebaranはバランスを失い地上に倒れ、這いつくばるようにして頭上に佇むアザトースを見上げる。地面に勢いよくぶつかった衝撃と、肉体を構築する血を一気に失ったことによって瓦礫の体は崩れ始めていた。粉塵が舞い上がり、Aldebaranの視界からアザトースが消えるも、粉塵はすぐに何かに吸い込まれるように消え去って空の上の彼女が現れる。アザトースは手を上に掲げ、自分の力を一点に集めていた。その力は絶対的な「引力」を感じさせた。その力が舞い上がった粉塵を一瞬で吸い込んだと言われても納得するほどに。
「EEEEVVIILLLLL...」
欲に飲み込まれ思考というべきものを持たないAldebaranの脳裏に浮かんだものはまだ見ぬ力への羨望だろうか、嫉妬だろうか。それとも恐怖だろうか。しかしそれはもはや関係がなかった。既にAldebaranの運命は決していた。
『もうあんまりおこってないけど......おみやげに......みせてあげる......まいふるぱわー......』
アザトースが宙に浮いたまま手を上に向ける。その掌の上に彼女の纏っていたオーラが集まっていく。それは球状に圧縮され、脈動しているかのように蠢いている。轟々と音を立てて周りのビルの破片が吸い込まれ、粉々に砕かれて内部に消えていく。ソフトボール大にまで圧縮されたそれは純粋な力の結晶であることを否が応でも感じさせた。
『......これなんてなまえだっけ......そうだ.....あなたたちのことばで......星の成れ果て?...ちがうような...まいいや』
「vovovovovovovo...!!!」
『......さよなら』
アザトースは掌の上に生み出したそれを、逃げ出そうと這って動くAldebaranに投げつける。それはAldebaranの近くまで一直線に飛んでいき、Aldebaranの目の前についた途端圧縮されていた力を解き放つようにして巨大化し、瓦礫の体を喰らい尽くす。Aldebaranの巨体を丸ごと飲み込むほどにまで広がった後、はじめから何もなかったかのように消え去った。そして残ったのは爆心地のように削り取られた道路と、コウタの放った炎の焼け跡だけだった。
ケッチャコ...?




