見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その9
「酒は見つかったものの...本棚がひっくり返っちまったか...ダリィな」
一方その頃、カイザはベルモットの相手をサモンに任せ、こはくを背負って自分の店まで戻ってきていた。とりあえずこはくを無事だった椅子を並べてその上に横たえさせ、ひっくり返った本棚から己の武器である魔導書を探していた。別になくても魔法は使えるのだが、ベルモットのような強敵を相手するのに悠長に魔力を練って呪文を唱えている暇はない。
「お、あったあった。ページが破れてないかヒヤヒヤしたぜ」
もし仮にページが破れていたら爆発するのだから無用な心配ではあったが、魔導書が無事であることにカイザはホッと一息つく。
「サモンのヤローがベルモットとドンパチやってるうちに飲ませるか」
気つけのために用意した酒をこはくに飲ませ、ついでに気合いを入れるべく自分も飲む。こはくの肌にほんのり赤みが差したことを確認して、カイザはサモンの援護に向かうべく、店を後にした。一瞬空の上からどこかで感じたことがあるような怖気と凄まじい揺れを感じたが、びびっているだけだと気にせず走り出した。
『...ふかい。わたし、すごいふかい』
糸で縛り上げられ地面に向かって落ちるAldebaranを見下しながら、アザトースはボソッとつぶやく。その言葉には強い力が込められていた。アザトースに力をもたらした強化棍はふよふよと彼女の周りを衛星のように周っている。そして魔術すら発動せずに中に浮く彼女の体からは黒く輝く魔力が溢れ出し、地上から見たその姿はまるで暗黒の太陽のようだった。
「あれは...なんだ?少なくともAldebaranではないはず...?」
弱った体を動かして落ちてきたAldebaranと空から突然現れた黒い太陽を見上げるコウタだったが、同時に謎の震えを感じる。正気度喪失によるものというよりも、大地そのものが震えているといった感じだった。あたりを見回すと、Aldebaranの最初の落下で生まれた乙女によって汚されたビルがウォンウォンと音を立てて揺れていた。
「EEEEEViiiillllll!!!!」
『......だから......ここから......やつあたり』
「『Kyoveltal』!!」
アザトースの言葉の意味を察したのか、Aldebaranが頭上のアザトースに向かって吠える。そしてブチブチと自身を縛っていた糸を引きちぎり、自由になった手を血に濡れたビルに向ける。それと同時に血で汚されていたビル群が音を立てて粉々に破壊され、生まれた大量の瓦礫と粉塵がAldebaranの血溜まりに向けて飛んでくる。
「嘘でしょ!?」
血溜まりで燃え残っていた血と瓦礫が混じり合い、空中のAldebaran目掛けて飛んでいく。それらはAldebaranを中心として混じり合い、一つの体をなす。生まれたのは考えるのも馬鹿馬鹿しくなるようなサイズになった瓦礫の巨人だった。想像もつかないような質量に大地が揺れる。
「『Budroud』!!!!」
『薙ぎ払われた大地』
Aldebaranの掌に黄色い光が集まり、そして頭上のアザトースに向けて振り上げる。アザトースもそれに応じて手を振ると、巨大な力がぶつかり合った。




