ろぐあうと:彼女を唾棄すべき理由
ベット型のVRギアを終了して最初に目に映るのは、見慣れてしまったいつもの白い天井。自分はここに戻ってくるのが嫌だった。どうしたって現実の体を思い出してしまう。眠る必要がないのなら、いつまでもあの世界にいるのに。
「嫌だなぁ...」
体に繋がれたチューブと拘束具を見て、いつも通りの大きなため息が出る。これが親の精一杯の愛情なのは理解している。自分の性質のことを考えてしまえば、殺処分されててもおかしくはないのだ。一応の命と、最低限の娯楽を与えてくれたことには感謝しかない。それでも、それ以上を望んでしまうのはきっと仕方ないことなのだろう。
「...だって楽しいし、美味しいし」
「こはくさんが使徒...!?」
いきなりの爆弾情報にコウタは開いた口が塞がらなかった。その前の使徒殺しを依頼した側のモトベがその妨害をしてきたことを思わず忘れてしまうほどだった。
「何か証拠とかありますか?」
「...ある。かおとたましいみた。おなじ」
さらに詳しく聞くと、アザトースがよるログインしていた時に襲われて、思い切り噛みつかれたらしい。その時にフードに隠れた顔が見えたそうだ。魂云々の下りはよくわからなかったが、いつものことだと聞き流した。
「マジすか...でも信じたくはないですけど納得がいきます」
「...なんで」
首を傾げて聞いてくるアザトースにコウタはアルキオネと謁見した日、アザトースがログアウトした後の続きを話した。
「あの後、僕とこはくさんはアルキオネの話を聞いていました。内容はアルデバランとその使徒のことについてだったんですけれど、こはくさんも話の途中でログアウトしたんです」
「...ふんふん」
「それで、ログアウトした理由が体調が悪くなってきたからだったんですけれど、それにしては変だったんですよね」
「...へん?」
「確かにすごく体調が優れなさそうな顔だったんですけれど、そうなったのはアルキオネが使徒の意義について言及してからです」
「...いぎとは」
確かアルデバランの欲望を満たすために夜な夜な人を喰らう存在のはずだ。しかしコウタによればそれはあくまで副産物で、真の理由は他にあるらしい。
「使徒が人を喰らう......いえ、アルデバランが使徒に人を食わせる理由、それは神の器を作るためみたいです。唾棄すべきアルデバランが使徒の意志と体を乗っ取って、神の力に耐えうる新たな体と心を得るためらしいです。」
「......ふむむ」
「つまり今の体が使い物にならなくなった時の保険ですね。だから自分が乗っ取られると思ったこはくさんが調子を崩した、というのは辻褄が合う気がします」
「......なるほど。でもわからないとこある」
こはくが使徒だと思った理由はわかったが、アザトースはコウタの解答に一つ納得いかないところがあった。神の器...つまり他の何かを依代として顕現する、というのはわかる。そして器を作るのもよくわかる。神の力を永遠に収めることができるような物体など存在しないからだ。だが、「神の力に耐えうる新たな体と心」とはどういうことだろうか?器となる体を得るだけならわかるが、わざわざ心まで得る必要があるだろうか?それをコウタに伝えると、彼は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「うーんとですね...『アルデバランは未だ神ではない』とオグハが言っていたじゃないですか」
「...うん」
「その通りだったんですよ。アルデバランは神じゃないんです。彼女が神である理由は外付けなんです」
「...そとづけ」
なぜかアザトースの心がざわつく。「冒涜」、その言葉が脳裏に浮かぶ。
「アルデバランは最初はただの人でした。ですがアルキオネ曰く、彼女は神を喰らいました。そして神っぽいナニカ...「神喰らい」に成ったんです」




