ろぐあうと:しかたなくおひらき
「...『唾棄すべき』ってそーゆーこと」
ハスターから聞いた情報とコウタが今語った情報を照らし合わせて、アザトースはアルデバランが何故かアルキオネやグリム神父に嫌われていたこと、そして自分の心が少しざわついたことに納得する。きっとアルデバランは神を喰らうことによってその神が築いてきた信仰と力を簒奪しようとしたのだろう。確かにこれは唾棄すべきことだ。眠っていたせいで色々と疎いアザトースでも他者のものを取ったらいけないことくらいわかるし、ましてや神様から奪い去るなどもってのほかだろう。
「...だからくるった?」
「その通りです。狂ったというより呪われたという方が的確かもしれませんね。神様の力を得たけれどその力を制御できず、精神と肉体が壊れているらしいです。」
「...ふむふむ......ねぇコウタ、それでどうするの?」
「どうする...とは?」
「...アルデバランたおすのどうやるの?」
アルデバランのルーツはこれまでの話でよくわかったが、今のところアルデバランと会う方法、そしてアルデバランと戦う方法がわかっていない。そもそもアザトースはアルデバランの背景情報にはあんまり興味はない。今知りたいのはどうやって奴と戦うかだ。
「それなんですが、『黄魔時』...つまり夕暮れ頃にアルデバランは顕現するみたいです。場所はサンシャインビル最上階、アルキオネと僕らが謁見した場所のさらに上です」
「...ふむ」
「倒す方法ですが、正直なところわからないです。何せ誰も戦ったことも倒したこともないので」
「...ふむむ」
アルデバランについての話が行き詰まって空気が少し重くなる。ニャルが歌っている曲がやたらアップテンポなのが閉塞感を際立たせていた。会話を繋ぐために話題を振ろうとするが、生憎アザトースもコウタも空気を変えられるような話題は薄い方だった。口先まで出かかって、喉の辺りで止まってしまう。そんな時だった。
「お嬢様にコウタ様、気分転換に一曲歌ってみては?」
そう言って歌い終わったニャルが満足げな顔で二人の目の前のテーブルにマイクを置く。モニターに表示された彼女の歌の点数は5000兆点だった。
「5000兆......?採点は百点満点だったはずでは...?」
コウタが訝しんでいる間に、アザトースが置いてあったマイクをつかむ。
「...てすてーす......ニャル、これであってる?」
「当然合っていますともお嬢様!ささ、選曲の方をどうぞ」
コウタが少し考え事している間に歌う順番が決まっていたことは少し残念だったが、彼女がどんな歌をどんな歌声で歌うのかが気になった。ニャルと顔を近づけて歌う曲を探しているアザトースを横目に、今のうちにトイレに行こうと思いコウタは部屋の外に出て行った。
「おやコウタ様、どちらへいかれるのですかな?」
コウタが部屋を出て歩き出すと、ちょうど角になっている所でさっきニャルと話していた支配人らしき壮年の男性と出会う。彼はギョッとしたコウタに非常に丁寧な態度で接してきた。
「お手洗いを探しているんですけど...」
「ああ失礼、ご案内しましょう。何せ最近できたばかりでして各階ごとの見取り図などが用意できていないのですよ。」
ついてくるように促して男は歩き出した。コウタは彼に最近というか今日なのではないかと質問したくて仕方がなかったが、グッと飲み込んだ。どうせはぐらかされるだろうし、答えてくれたらそれはそれで何か面倒ごとに巻き込まれる気がしたからだ。
「ここをまっすぐ進んで左の奥の部屋がお手洗いになります。...コウタ様、あの方とこれからも仲良くしてくださいね?」
「え?ああはいわかりました」
やはりアザトースは何か持っているのだろう。なんでこんなことになったのだろうかと思いながら、コウタはお手洗いへと向かった。
「...ふふ。まってた」
「コウタ様。お嬢様が是非とも聞いてほしいとおっしゃっています」
部屋に戻ってくると、アザトースがマイクを持ったまま待機していた。ニャルによると自分の歌を聞いてほしくて待っていたらしい。
「...みゅーじっく、すたーと」
その言葉とともに伴奏が始まる。重々しくも疾走感のあるピアノの出だしだった。なんとなく聞き覚えがある気がしてモニターを見ると、『魔王』と書かれている。
「...そういえばこれ音楽の授業で受けたな」
「一般教養ですからね。へい...んん゛っ!お嬢様にふさわしくかつ下民様でも知っているようなカラオケの曲はやはりこれでしょう」
そんなことを話している間に馬が雨の中を駆けているようなイントロが終わり、アザトースが歌うべく息を吸い込む。そして彼女が声を発した瞬間、耳元でバチンと音がしたかと思うとコウタは強烈な眩暈と吐き気に襲われる。意識を失い倒れる寸前、コウタはアザトースの握っていたマイクから黒い煙が出ているのを見た。
「...やべ」
「陛下ァ!あれほど魔力を漏らさないようにと言ったでしょう!!」
「...ごめん」
「『約束』通り、帰りますよ!全く...」
「...ムゥ...わたし、『約束』はまもる......ニャル、コウタどうするの」
「どうするも何も、適当に直してお家に返してあげますよ。何しろ下等生物とはいえ陛下の大切なお友達ですからね」
「...そ。じゃコウタかえそ。そのあとかえろ」
「そうですね。では旧神の足止めをお願いしていたハスターとツァトゥグアに伝えたら帰りましょうか......ってうわー、『財団』のやつだから忘れてましたけどそうだ彼人間なんでした」
「...ごめんオーナー」
火曜あたりまで最高に忙しい日々になりそうなので更新が途絶えるかもしれません。博士、お許しください!




