再びの邂逅
「では陛下。こちらにお乗りください」
「...なにこれ」
「下半身を損傷した下等生物が移動するときに使う物なのですが、今回陛下が乗っていただく御輿として使うことにしました。...下等生物は下半身を損傷しても浮いたりできないあたり下等生物という種族自体の啓蒙の低さがよくわかりますよね」
「...はやくはやく」
「陛下。『約束』は覚えていらっしゃいますね?」
「...うん。ねぇニャル、かゆい」
「それは私には如何ともし難いですね。何しろ陛下の断片とも言えるウボ=サスラから作った最高級の義手ですから本物の腕のよう自由に動かせる分、不要な感覚も共有しているのですよね...。できれば腕を新しく生やしたいところですが儀式、それも陛下自身の召喚に使ったとあれば難しいですね。どうしても義手につけた包帯が気持ち悪いのであればその包帯を外しても構いませんが、ご友人は間違いなく発狂されますよ。見た目的に」
「...じゃいい。がまん」
「左様ですか。では行きましょうか」
「...ん」
午前9時50分、池袋駅東口でコウタはソワソワしながらアザトースを待っていた。落ち合う場所と時間は決めてはいたが、何しろアザトースの見た目をコウタは知らない。本人は「わかる」から大丈夫と言ってはいたが、「わかる」とは一体どういう意味なのだろうか。
「まさかあのアバターと顔が同じとか...?なんかありそうだな」
アザトースのゲーム内での顔ははっきり言って凄まじく良い。ゲーム内のアバターなのだから顔なんていくらでも作りようがあるとはいえ、それでもあれだけの代物を作るには相当時間をかけねばなるまい。だが、あの何処か抜けているというか、そもそもゲームについて無知なアザトースがそのようなことができるだろうか?ネットリテラシーとかが皆無そうな辺りもなんとなく辻褄が合いそうである。
「.....ちょっと憂鬱だなぁ」
コウタがアザトースを判別する方法は置いておいて、アザトースがコウタを判別する方法が問題だ。確かに判断するのには便利かもしれないが、コウタ自身がとても恥ずかしい。誰もいないところならともかく、公衆の面前でアレをやるのはただの公開処刑だ。
「...まぁでもなんか人の数が少ないのが幸いかな。さすがにロールプレイをジロジロ見られるのはやだし」
あたりを見渡すと、駅の周りには休日の池袋だというのに妙に人が少ない。しかも他にいる人にしても、黄色いパーカーを着てフードを深く被った集団だったり、カエルの柄がプリントされた服を着ていたりと何か妙だ。あと物陰に隠れるようにして黒いスーツにサングラスの人がいる。
「一体どうしたんだ...?池袋にしては人が少なすぎる」
サンシャイン通りの方へ向かえば人も多いのだろうかと思いながらスマホの画面を開く。画面には9:59と表示されていた。そのままSNSでも開こうかと思ったとき、ちょうど10時になる。
「アザトースさん遅刻するタイプなのかな...まぁ結構ルーズそうだよな。抜けてるし」
「...コウタ、それはしんがい」
突然の声に思わず振り向くと、後ろには女性が二人いた。一人は先端だけが赤く染まった黒髪を後ろで縛り高級そうな黒いスーツでビシッと決めた、目つきのキツい女性。その女性の前にいた...というより押されていたと言うべきなのは、灰色のくすんだ長い髪をたなびかせた、儚げなのに強い存在感を感じさせる車椅子の少女だった。ノースリーブの白いワンピースを着ていて、左腕全体にだけ包帯がぐるぐる撒きにされていた。すごく見覚えのある綺麗な顔立ちの少女にコウタは反射的に話しかける。
「ええと、多分アザトースさんであってますよね?僕、コウタです」
「うん、あってる。...そうだ、うしろのはニャルだよ......あれ?コウタ、ちぢんだね」
「縮んだんじゃなくてコレはゲーム内で盛ってただけです」
「...でもめせん、いつもとおんなじ。ふふ」
アザトースさん車椅子ですしね、という言葉はなぜか喉の奥で詰まってしまった。
この空間、アイデアロールに一回でも成功したらそのまま死にそうですね。




