三者三様〜ニャルラトホテプの場合〜
「ニャルラトホテプ。今日は誘ってくれてどうもダヨ」
「同。酌み交わすとしよう」
日本のどこかにある居酒屋。そこの座室を借り切って酒を飲んでいたニャルラトホテプに二人飲み仲間が現れる。一人はカエル顔のくたびれた社会人風の男。もう一人は黄色いフードで顔が見えない男。二人...ツァトゥグアとハスターは席で既に酒を飲んでいたニャルを見てため息をつく。ニャルは今下等生物の世界でよく使っているスーツ姿の色黒の青年になっているが、だいぶ悪い飲み方をしたせいで割と見るに耐えない。さっきからジョッキを片手に持ったまま机に突っ伏している。頭にはネクタイが巻かれていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「何があったのサ...そんなビーバーみたいな声を出してサァ」
「陛下がぁ......陛下がぁ.....もおおおおおおおおおおお!!!!!」
「愚。聞くに耐えぬ」
「同感ダネ。でも陛下絡みらしいし聞いとかないと碌でもない目に遭いそうダヨ。酔いを覚ましてあげるとしよウカ」
「了」
そう言ってハスターが腕を横に一振りすると、ニャルラトホテプの首が切り落とされる。首はポトリと地面に落ちて、残された体から血が噴水のように噴き出す。それはニャルの死体の足元に大きな血溜まりを生み出し、その血溜まりの中に残されていた死体が底なし沼のように沈んでいく。完全に沈み切った後、血溜まりの中から這いよるようにしてニャルラトホテプの新しい化身が現れた。ツァトゥグアとハスターもよく知る、頭部が触手に置き換わったいつもの姿だ。
「ふぅすっきりした。やはり酔い覚ましには殺してもらうのが一番ですよね」
「同感だけどサ、片付けどうすんノ?血の海だケド」
「そりゃもちろん店のものにやらせますよ?店員が一人か二人発狂するかもしれませんけど」
そう言って三柱はケラケラと笑い合う。いわゆる邪神ジョークという物らしい。しばらく笑ったのちにツァトゥグアとハスターは神妙な面持ちでニャルラトホテプに話しかける。
「それで...ボク達を呼びつけて一体何のようカネ?暇ではあるがキミの愚痴に付き合うつもりはないヨ?」
「是。ツァトだけならばまだしも、我を呼ぶとは何事か」
二人の質問に待ってましたと言わんばかりにニャルがピンと触手を立てる。
「いやなに、そう難しくない頼み事をしようと思いましてね」
「なんだいそれハ。聞かせてもらいたイネ。もちろん、やるかどうかは報酬によって決まるガネ」
「同」
「いやいや本当に難しいことではないんですよ?ホントホント...............陛下が来週日曜池袋に降臨なされる」
「帰ろうかハスター」
「了」
「逃すかぁぁ!!『空間の封鎖』!!」
淀みない動きで席を立ちドアまで全速力で走る二柱だったが、ニャルラトホテプの魔術によって部屋全体に結界が張られドアが開かなくなったので渋々席に戻る。普段飄々としていてあらゆる物をおちょくっているニャルがここまで必死になるということは相当にやばい案件なのだろう。
「手伝わないヨ?まだ死にたくないシネ」
「是」
「安心してください。降臨なされるのは本体じゃなくて下等生物の化身ですから。それにちゃんとあなた達への報酬も用意していますので」
そう言ってニャルは虚空から一本の酒瓶を取り出す。緻密な加工のなされた透明な瓶の中に詰められた液体は光を反射して琥珀色に輝いていた。
「おお...黄金の蜂蜜酒カイ!」
「やってくれますよね?」
「もちろんだとも!我が友ニャルラトホテプよ!...というかやらなかったらウボ=サスラの石板に有る事無い事書くのデショ?」
「もちろんですとも頼もしきツァトゥグア。では内容について細かく説明していきましょうか」
ニャルが陛下の降臨についての内容を細かく説明し始めて横でハスターが「怒。それ我の」と呟いていたが、突っつくと面倒臭そうなのでツァトゥグアは聞こえないふりをした。
「アーつまりダネ?陛下は下等生物の姿で、下等生物のご友人とお遊びになられると?で、多分陛下に対してなにかしらしようとする輩が現れるかもしれないからキミはそれを防ぐというワケ?」
「その通りです。ええ」
「で、ボクらへの頼みって何サ?護衛は君だけで十分事足りそうだけどネ」
「疑。そもそも陛下を傷つけられる存在がいるとも思えぬ」
「もちろん陛下の護衛は私が行いますし、ハスターの疑問も全くもってその通りです。ですがちょこっと相手が多いのです。それに陛下のお友達はただの下等生物です。万が一発狂なんてさせたら陛下は大変お悲しみになるでしょううから、陛下の周りでは魔術を使えないのです。」
「どれくらいの数いるのサ?」
「えーと、陛下の化身を確保してその力を得ようとしているカルト信者に陛下に取り憑きたがる洗脳寄生虫、人類側の『分かってる』奴ら...団体として一番でかいのは『財団』ですね。あと旧神どもが隕石で地球ごと陛下を始末しようとしてますしなんならクトゥグアが陛下に喧嘩挑もうとしてますね」
「役満ジャン」
「難」
ため息をついて席を離れようとする二柱をニャルはまぁ待てというかのようなジャスチャーで引き止める。
「まぁ待ってください。カルト信者は全員処刑済みですし洗脳寄生虫も地球にいる分は駆除しました。『財団』等々に関しては私が適当に相手しますのでご心配なく。クトゥグアは100万年後に一騎打ちをしてくれると誤魔化しといたのでなんとかなるでしょう。旧神が問題なんですよね」
「旧神デショ?あいつら潰すのなら手伝うよ?」
「同。我がカルコサ風化せど、我が怒り未だ塵とならず」
「多分ノーデンスとクタニドあたりが飛来してくるのでそっちの対処お願いします。自分は結界張っておくので」
「お任せあれダヨ。ハスター、ボクがクタニドの方をヤルよ」
「了。我はノーデンスと相見えん」
「では契約成立ということで!飯と酒でも取り寄せましょうか。ここタッチパネルで頼む方式なので適当に入れちゃってくださいな。もちろん私の奢りですので遠慮なくどうぞ」
「言ったネ?じゃあ遠慮なく。じゃあ中ジョッキ3にボクがもつ煮、ハスターがたこ焼きでニャルはポテトでいいヨネ?」
「いいですよ〜」
「是」
ツァトゥグアが注文のボタンを押してしばらくすると、店員がやってくる。
「お待たせしましたー。お飲み物の中ジョッキ3つ...イヤァァァァァァ!!!!」
「頭の触手戻すの忘れてましたね...しかもこれ永久発狂ルートですね...処理どーしましょ」
「食べればいいジャン。ボクちょうど臓物が食べたい気分だったんだヨネ」
「是。血飛沫でそもそも汚れているのだ。これ以上汚しても変わらぬだろう」
そう言ってハスターはフードの中から伸ばした触手に握られたジョッキをニャルとツァトゥグアに渡す。哀れな店員が発狂して落とした時に溢れないよう拾っていたらしい。
「そうですね。料理の方が届くまでまだまだかかりそうですし、肴なしで酒を飲むのもつまらないですしね。...実は私陛下に料理を献上するためにイゴローナクに教えてもらっているのですよ。私の料理、是非とも味見して貰いたいですね」
二柱の神はニンマリと笑い、口々に了承する。その後乾杯の掛け声と共に、ジョッキがぶつかる音とザシュッという肉が断たれる音が響いた。
ちなみに食事を運びにきた店員と戻ってこないことを訝しんだ店員とニャル達の部屋から血の匂いがするから苦情を言いにきた他の客も当然もれなくお腹に入りました。後店は『財団』によって存在を完全に抹消されました。




