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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを:下
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三者三様〜コウタの場合〜

書いててだいぶメンタル持っていかれました。

「なんでオッケーしちゃったんだろう...日曜特に予定なかったけどさぁ」


 チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえてくる中、少し震える手でVRデバイスを外してコウタ──恋歌コウタは自室でつぶやく。現実であったことのない相手と会って遊ぶなんてこれまでにない。普段の自分だったらきっと断っていただろうに、彼女アザトースの有無を言わせぬ態度というか、コウタが一緒に遊んでくれることを微塵も疑っていないその態度というべきだろうか、ともかく押し切られてしまった。まさか妙に早く起きてしまったからなんとなくでログインしたらこんな事態になるとは微塵も思っていなかった。


「服とかどうすればいいんだ...?というか一体何をするんだ...?」


 頭の中でこれはもしかするとゲーム内の見た目と違いすぎて幻滅されるんじゃないかとか、そもそも気づかれるのかなとか、さまざまな思いが錯綜する。とにかく感情が追いつかない。


「とにかく...とにかくぅ......学校行かないと!!」


 時計を見れば間に合うかどうかギリギリだ。慌てて制服に着替えて、家の鍵が全てかかっていることを確認してからコウタは家を飛び出した。いってらっしゃいと彼を見送る声はなかった。






 全速力で走ったからか、教室には意外と早く着くことができた。とはいえ教室の中には結構クラスメイトが既に着いていて、それぞれのグループで談笑していた。自分のグループのメンバーが遅刻上等の輩たちなので、とりあえず席に座って彼らを待つことにする。一応教室に話の合う幼馴染が一人いるのだが、生憎別の奴らと話している。少し暇にしていると、アザトースさんと遊びにいくことがぐるぐると頭の中で回ってきた。コツコツと歩いてくるコウタの座る席に向かってくる音が聞こえたが、頭の中がいっぱいになって気づかなかった。


「グッモーニ〜ン!恋歌コウタクゥン!随分と顔色が悪いようだが元気かね?」


「何を着ればいいんだ...というか遊ぶんなら何するかくらい先に決めたほうがいいのかなぁ...」


「オイオイオイオイ!目の前にワタシというカワイイカワイイ幼馴染がいるというのにガン無視かい!?まぁでもワタシはとても優しいからね!当然許してあげるとも!!」


「そもそもアザトースさんから誘ってきたってことはあちら側で何か用意されているのか...?池袋に行くだけでいいのか?」


「......当ゥ然...許して............ねぇ恋歌コウタ聴いてる?」


「お金いくらくらい持っていけばいいのかな...銀行行っといた方がいいかもな...」


「......」


「ひょわっ!なんだ滝音たきねか...急に首掴まないでよ...びっくりするじゃん」


 後ろを振り向くと、ムスッとした顔をした、コウタよりも少し背の高い少女、滝音たきねがコウタの首を掴んでいた。力は大してこめられていなかったが、彼女の瞳に込められた力は強かった。


「...私に気づかないキミが悪いんだよ?......ゴホン。グッモーニ〜ン!恋歌コウタクゥン!随分と顔色が悪いようだが元気かね?」


 滝音たきねは気を取り直してコウタのよく知る口調で、おそらく既に言ったのであろうどこか芝居がかったセリフを繰り返す。


「悪くないけど...滝音たきねは?」


「実にいいベネだよ!そんなキミにニュースが2つあってね!いいニュースと悪いニュースどちらから聞きたい?」


「フッ...聞こうか。まずはバッドニュースを」


 彼女のキテレツな雰囲気に飲み込まれて、コウタも思わずロールプレイを始めてしまう。小さい頃から変わらない、滝音たきね劇場とでもいうべき彼女の言動はコウタにとってとても好ましいものだった。ただコウタ自身としては彼女が高校に入ってからは滝音たきね劇場は自分の前でしか開演されないことは少し残念だった。中学の時の生徒会選挙の演説や小学校の時の劇での大活躍は伝説として語り継がれるほど凄まじかったというのに。教師来賓含めた観客にスタンディングオベーションをさせる人物を、コウタは滝音たきね以外に知らない。


「そうだね...完璧で幸福なことに定評のあるワタシだが、真に残念なことに映画のチケットの申し込みをミスってしまったのさ!つまり、ワタシの手元には二つチケットがあるというわけさ」


「フッ...つまりグッドニュースは?」


「このワタシとキミ、二人で映画を見に行こうというお誘いさ」


「フッ...集合時刻と場所は?」


 滝音たきねは実に嬉しそうな顔で答える。コウタには見えなかったが、小さくガッツポーズをしていた。


「来週日曜午前10時!場所は池袋さ」


「フッ...ごめんその日その場所その時間で人と遊びに行く予定入ってる」


「...冗談はよしてくれよ恋歌コウタ。休日はぼっちもしくは男友達と一日ゲームするしかないキミがまさか誰かと遊ぶなんて......おいまさか女じゃないだろうね」


 彼女の声が荒くなった気がしたが、それほどまでに自分と見に行きたかったのだろうか。高校に入ってから友人も増えたのだし、そちらを誘えば良いのにとコウタは思う。確かに自分は滝音たきねにちょくちょく遊びに誘われるが、彼女が自分以外誘えないような奥でな性格をしているはずがないし、彼女と一緒に遊びたい人は結構いるはずだ。


「ネット上の友達だから確定してないけどそうだよ?それがどうしたの?」


「いやどうもしないけど...モテないキミが女の子と遊ぶなんて...ねぇ恋歌コウタ、できればその女の子がいったい誰なのか教えて...」


 滝音たきね恋歌コウタに詰め寄ったその時チャイムが鳴って教師が入ってくる。


「ホームルームだから後でね」


「......絶対だよ!」


 教師の退屈な朝礼の中、遅刻常習犯の友達たちが滑り込む。結局その後彼らと学校にいる間ずっと遊んでいたので滝音たきねにアザトースと遊ぶことについて話すことはなかった。






モブ男「なぁもしかして滝音たきねさんって恋歌コウタのこと...」

モブ女「まだ気づいてなかったの?あんたやっぱ察し悪いのね」

モブ男「うるせーよ。ん?ってことはもしかしてコウタがでモテないのって...」

モブ女「バリバリブロックされてるからね。うん」

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