三者三様〜アザトースの場合〜
要件を伝え、日時と集合場所、お互いを判別する方法を決めた後、アザトースは自らの居城へと再び舞い戻ってきた。
「...ただいま」
「陛下、何をしてらっしゃったのですか?まさかご友人と遊ぶ約束をしたのではないですよね?ね?」
迎えてくるなり不安げそうに頭の触手を揺らしてアザトースに質問を投げてくるニャルラトホテプに、手早く返す。
「...したけど?」
「ジーザス」
天を仰ぐニャルラトホテプにアザトースは神様自身が「おお神よ」と言うのはなかなか滑稽じゃないかと思ったが、それを言うつもりはなかった。もし言えばものすごく長々しい弁明がニャルの口から飛び出すに決まっている。そんなことよりも早く池袋に行くことを忘れないようメモをしなければ。
「...ちょっといってくる」
「...また、ですか...?」
「...ううん。めも」
メモしてから説明すればいいと思い、アザトースは魔術を使った。目の前の景色が歪み、意識と肉体が今の次元を離れ別の世界に飛ばされる。歪みが戻るとアザトースは当然ながらさっきまでいた居城とは全く別の場所にいた。そこは光が差し込んでいないのに奇妙に明るい鍾乳洞で、ピンク色の鍾乳石や石筍が水に濡れてキラキラと輝いていた。道は綺麗に舗装されていたが、生き物が通った後は全くといっていいほどなかった。アザトースは鍾乳洞をテクテクと歩き、あるところでピタリと止まる。そこには一つの大きな装飾のない石板があった。不可解な言語で作られた文章が彫り込まれており、さらにその石板は脈動しているかのようだった。
「...かもん。ウボ=サスラ」
アザトースの言葉に反応して石板の文字が光り始め、鍾乳洞がグラグラと揺れる。さらにあたりをよく見ると生えていた鍾乳石や石筍が生物的にくねくねと揺れ動いている。まるで今まで石に化けていたかのようだ。触手のようにうねる鍾乳石はアザトースに向けて伸びていき、絡みつく。側から見れば触手に襲われている光景だが、アザトースは抵抗しなかった。しばらくの間体を好きに触らせていると、正しき存在が現れたことに満足したのか鍾乳石は離れていく。揺れが収まり石板が光り輝くと、いつの間にかアザトースの手にペンが握られていた。さらに背の低いアザトースが石板に書き込みやすいよう地面が盛り上がって階段を形成していた。
「...ええと、アザトース、コウタと池袋であそぶ。らいしゅー10じ」
階段を登り石板の余白部分に書き込んだ後、アザトースは満足げに頷いて帰っていった。これで忘れることはないだろうし、忘れても絶対安全だ。
「お帰りなさいませ陛下。ところで何をされてきたのでしょうか?」
「...めも」
「こちらの言葉が足りずわかりきった答えを返させてしまったこと謹んでお詫びします。もしこの愚かしさを許していただけるのであれば重ねて質問しますが、一体メモとは何をしたのですか?」
「...よてい。わすれないよう。ウボ=サスラのあれにかいた」
「Oh...............」
頭を抱えてへたり込むニャルラトホテプを見て、アザトースはコテンと首を傾げた。
ウボ=サスラの石板(世界定義の石板)
あらゆる事実が羅列された一枚の石板。これを解読すればあらゆる知識と力を手にすることができるだろう。もし君が見ることを許された存在でないのなら、襲い掛かる鍾乳洞を避けながらになるだろうが。
これは人間が知ったところでどうしようもないことではあるが、この石板に正しい方法で書き込みを行えばそれは事実となる。仮に「来週10時にアザトースとコウタが池袋で出会う」と描いた場合、当日地球に隕石が落ちて地球が爆発しても出会うことになる。
書き込まれた内容はただ一つの神格を除いて何があっても消し去ることはできず、従うしかない。......なおその神格はこの石板をちょっと便利なメモ帳程度にしか考えていない。




