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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを:上
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複雑化する人間関係、言うなればターニングポイント

 顕現したアザトースのカケラは、食欲に飲まれた使徒にすら逃げの一手を打たせるほどの危険性を孕んでいた。獲物(アザトース)から手を離し、空いた手でそのまま棍棒を引き抜く。釘が刺さって口の端を引き裂いてできた傷が急速に腐り始めるが、使徒に気にしている余裕はなかった。


「Burrrrrrr(バリリリリリ)!!」


「...のがさない......けんぞく!」


 アザトースのマントの奥に隠れていた蜘蛛たちが散らばって一斉に糸を吐き、使徒の体をがんじがらめにして動けなくする。手足を縛り付けられて使徒がもがいている間に、アザトースは立ち上がってパンパンと服についた埃を払った。


「...さてと」


 今のアザトースには選択肢が二つある。殺すか、殺さないかだ。殺すのは流石にダメだとしても、殺さないからといってその後どうするかアザトースは考えつかなかった。少なくともこのまま逃すのがダメなのはわかる。使徒の魂だけを粉砕できればそれで良いが、アザトースの魔術は生憎強すぎる。難しいだろう。


「...むむむむ......まいいや」


 とりあえず動けなくなるまで殴ろう。魂の入れ物にすぎない肉体など、どれだけ傷つけようが後でどうにでもなる。ゆっくり縛られた使徒の元まで近づいて、強化棍を頭上まで持ち上げる。強化棍は「アザトース」の顕現によって、黒い肉塊に飲まれたバット部分から釘の代わりにに大量の白い骨が生えたような見た目になっていた。万が一当たりどころが悪くて死ぬことがないよう使徒の足に狙いを定め、アザトースは強化棍を振り下ろす。


「『緑の魔手(アブシンス)』」


「...だれ?」


 どこからか声が響くと、 アザトースの一撃は使徒とアザトースを隔てるように地面から突然生えてきた何本もの太い木によって防がれる。木たちは路地裏を塞ぐほどの壁となり、アザトースの視界を完全に遮る。


「ハァ...いけませんねアザトース様。そんなものを振り下ろしては使徒が死んでしまいます。私、使徒にはまだ生きていてくれないと困るのです」


「...モトベ」


 防いだ木の根が「アザトース」の撒き散らす瘴気によって腐り落ち破壊されると、そこには使徒を抱き抱えるモトベの姿があった。足元には明るく光るカンテラが置いてあった。


「...しとをころす。あなたたちがもとめたこと。...どういうこと?」


「求めたのは我が女王陛下であって私ではありませんよ。それにアザトース様の理解など私には知ったことではありませんので」


「...はいしん」


「背信?いえいえ。私は女王陛下に最も忠実ですよ?」


 アザトースが強化棍を振り上げても、モトベはその鉄面皮を一切崩さない。それどころか使徒を小脇に抱え、カンテラを拾い上げてアザトースに背を向けて歩き出した。


「...まてっ...!」


「待ちません。...私が使徒を助けたことは他のヒトに言わないように。あなたがこの世界にいる限り、どこで何をしようとも分かりますからね?ではまたどこかで」


 そう言うや否や、カンテラにフッと息を吹きかけてさっきアザトースと会った時のように夜の闇に紛れる。急いで追いかけようとしたが急に体が動かなくなる。


「...なんで」


 腕を見ると、自分の肌に黒い斑点がいくつもできている。モトベか使徒が何か自分にしたのだろうか?それとも、自分(アザトース)の力は流石にヒトの化身で耐えられる代物ではなかったということなのだろうか?まずはとにかく『脳の接続(ブレインジャッカー)』で強化棍の中の「アザトース」に意志を送り込み元に戻るよう命じたのち、『肉体の補填(パテ)』によって損傷を治す。


「...うごく」


 ひとしきり体に問題がないことを確認した後、考える。モトベがなぜ使徒を守るのか、アルキオネとの意見の相違、そして使徒の正体とその理由、何より全ての元凶たるアルデバランが一体なんなのか。考えることが多すぎて頭から湯気が出そうになる。


「...かえろ」


 一緒に考えてもらうためにコウタに伝えたいが、今ログインしているかわからないし、モトベに気づかれてしまうかもしれない。こはくは今アザトースとは遊べないだろう。アルキオネはまだ寝ているかもしれない上、モトベと会ったところで意味はなさそうだ。今やれることがなくなって気抜けしたアザトースは自分の居城に戻ることにした。






「陛下!遊びに行かれるのは大変よろしいのですが、もう少し節度を持って頂きたいと貴方様に最も忠実なしもべであるこのニャルラトホテプ、切に願うばかりにあります」


「...ねぇ......えっと...なんでもない」


「はぐらかされるとマジで気になるので教えてほしいです陛下」


「...でもほかのヒトにいっちゃダメっていわれた」


「私、下等生物(ヒト)ではなく神ですが」


「...たしかに」



 数時間後。



「いまいちよくわかりませんでしたが、要はモトベとやらが絶対に観測できない別次元、例えば本物の池袋で会話すればよろしいのでは?」


「...なるほど......いってくる」


「...またですか。はぁ...いってらしゃいませ」


「...ん。いってくる」


「......いってしまわれましたか。全く陛下は奔放でいらっしゃる。これまでの陛下を鑑みれば素晴らしいことなのですが、今度は一体何を思いついたのか............待て待て待て待てまさかまさかまさかぁ!!!......いやそれはない。ないはず」






その後行われたフレンドチャットの履歴


アザトース:あそぼ


コウタ:いいですよ!でもリアルの方で結構忙しいので週末にはなりますけど...イケブクロでいいですよね?


アザトース:そっちじゃない


コウタ:えっと、そっちじゃないってどういうことですか?シブヤですか?


アザトース:ちがう。池袋


コウタ:まさかとは思いますけれどリアルの池袋ですか?ゲームの方じゃなくて???


アザトース:リアル


コウタ:マジで!?

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