ゴートゥーサンシャイン
遅くなりました...
大いなるアザトースに触れようとする者はニャルラトホテプなどの一部の例外を除き皆死ぬ。かの神の身に流るる絶対的な力の奔流は近づくことすら許さない。現に旧支配者の中でも上位の存在であるツァトゥグアですらその姿を垣間見ただけで死にかけるほどだ。仮にその魂の入れ物がか弱きヒトの体でも、その体に流れる魔力が微々たるものに制限されていたとしても、本来ならばアザトースに触れることは死の片道切符だといえる。しかしここは電脳の世界。肉も骨も計算機の上に構築された世界。その上でアザトースがその力を極限まで抑えられた今ならば、ヒトが触れても安全なのかもしれない。がしかし、それにしても限度というものはある。
「ちっちゃくてかわいいねぇ〜食べちゃいたいくらいかわいいよ〜」
「...ねぇ」
「肌モッチモチだね〜」
「...ねぇコウタ」
「...」
「...へるぷみー」
アザトースは今、こはくと名乗る少女によってその肉体の自由を完全に奪われていた。有り体に言えば抱きしめられて動けなくなっていた。密着したこはくの体で身動きが取れず、されるがままになっていた。息苦しいこの状況から脱出しようとコウタに助けを求めても、顔を逸らされてしまった。結局アザトースはこはくが満足するまで延々と彼女になすがままにされていた。こはくの両腕から解放された後、アザトースはこはくから飛び退くようにして離れる。彼女は名残惜しそうな顔をしていたがアザトースには知ったことではなかった。くるりとコウタの方を向いてアザトースが不満を込めた瞳でじっと見つめると、彼は居心地が悪くなったのか最初に言っていた料理大会についての話で場を変えようとした。
「えーっと...それで話を戻しますけれど、ここイケブクロを治めている女王アルキオネは健啖家で有名なんです。」
「...けんたんか?」
「めっちゃ食べるって意味だよ☆」
「そうですそうです。だからアルキオネは新たな食を求めて定期的に料理大会を開いているんです」
「...そう」
一応食べることができるとはいえ、そもそも食事を必要としないアザトースにとってヒトの食べ物のことなど大して興味もなかったのでコウタとこはくの話に適当に相槌を返していると、二人の間でいつのまにか料理大会に向けての話がまとまりつつあるようだった。
「...というわけで!僕とアザトースさんが食材集めで、こはくさんが大会の参加申し込みをやるということでよろしいですね?」
「アタシはオッケー☆」
「...ひとりでいいの?」
「ん?アタシ?アタシはほら、元々部外者だしね?それにさ、最初はアーちゃんとコウタくんの二人で遊ぶつもりだったんでしょ?」
「アーちゃ......うん、そう」
「だったらアタシが間に入って邪魔したら悪いでしょ?アタシはアタシでやりたいことがあるしね☆」
「...そ」
「フレンドの申請はアーちゃんにもしといたから、終わったらそこから連絡してね☆」
そう言ってこはくは笑いながら人混みの中へと消えていった。忘れないうちにフレンドの登録を済ませ、コウタを見上げる。
「それではアザトースさん、輝ける太陽の道、通称サンシャイン通りに行きましょうか」
「...りょ」
二人、厳密には一人と一柱は地上へと向かって歩みを進めた。
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