おつかい
「つきました。ここがサンシャイン通りです」
「...ここが」
サンシャイン通りは地下よりも一層活気のある場所だった。『人でなし』の姿は見えなかったが、その代わりに地下と同じ革製の被り物をした人たちが歩き回っていた。大通りを挟むようにして出店が立ち並び賑わいを見せている。売っている物や店の種類も地下より種類が多く、特に料理店が多いのがアザトースの興味を引いた。空腹を刺激する匂いが町中に漂っていた。
「...」
「この町ではアルキオネが健啖家なこともあって料理が発達しているんですよね。特に城下町であるサンシャイン通りでは数多の料理人達が切磋琢磨しているそうですよ」
「...そう」
アザトースの顔から察したのかコウタが解説を挟んでくる。その後もちょくちょく挟まれるコウタの解説を聞きながら並んで歩いていると、ある店の前で彼が立ち止まった。店主の付けた豚の被り物以外は現実と変わらない店だった。アザトースの知らない野菜や穀物を売っていて、コウタは料理の材料をここで買い集めるつもりだとわかった。照れ隠しかなんなのかわからなかったがゴホンと咳払いして店の方に一歩進んだ後、店主相手にコウタはロールプレイを始めた。
「フッ...大将、良いのを仕入れているな」
「帰んな、余所者」
「フッ.........えっ?」
店主の客商売とは思えない辛辣な一言に思わずロールプレイが剥がれるコウタだったが、なんとか売ってもらえないかと今度は下手に出る。しかし店主の態度は変わらず、帰れの一点張りだった。周りを見てみるとコウタとアザトースは周囲に集まった人たちに遠巻きに睨まれている。何か自分達が悪いことをしたのだろうか、訳もわからないままに二人は人通りの少ないところへ逃げていった。
「前いた時はこんなことなかったんだけどな...でもどうしましょうか。肝心の材料集めができなければ料理大会に参加もクソもありませんし」
「...うん」
人通りの少ない路地に逃げ込んだ後、アザトース達はサンシャイン通りの彼らの機嫌を直す方法を考えた。魔術で彼らに幻覚でも見せようかと考えたが、この肉体ではあそこにいたヒト全てにかけるような魔力は流石にない。どうしようかと悩んでいると、付けていた白縫の蜘蛛の巣の刺繍が淡い紫色に光だす。
「アザトースさん!なんか光ってます!」
「......わわ」
それと同時にアザトースの右手首の内側から何本もの白い糸が伸びる。糸は空中でふわふわと浮きながら誰かの手で編まれているかのように絡み合い、より太い糸となる。そして糸はさらに絡み合い布となり、やがて形を成していく。手首から伸びていた糸が止まる頃にはアザトースの手にはイケブクロにいる民がつけているようなウサギの被り物ができていた。
「それ、いつものやつではなくてマントの効果ですよね!?かっこいいなとは思っていましたけれど、どこで手に入れたんですか!?」
「...シンジュク」
「あそこですか...僕クモ苦手なんですよね〜見るたびに怖気が走るというか」
「...そ」
白縫が怒りで震えていたような気がしていたが、そのことは気にせずにアザトースはウサギの被り物をつける。手触りでなんとなくわかっていたが、さらさらとした被り心地がなかなかに良い。コウタの分も用意させようと思ったが、それは彼に止められた。単純に自分が悪目立ちしていたのだから被り物を変えたところでバレるだろうとのことだった。
「似合っていますよ、それ。じゃあこれ買い物リストです。どうぞ」
「...ん」
この場でメモ書きをさらさらとかくと、褒め言葉と共にアザトースに渡してくる。受け取った後、ウサギの被り物を深く被り直しアザトースは先ほどの店へと一歩踏み出した。




