白縫
「わけわからねぇがともかく!アトラの魂が嬢ちゃんのために戦うと決めたわけだ。じゃあ次に必要なのは器だな」
アンドレによると王魔武器は武器に宿るため、宿となる武器の素体が必要になるらしい。ただの武器でいい訳ではなく、それなりの「格」もしくは宿る魂との親和性の高い素材、例えば魂の持ち主が元々使っていた武器などでなくてはいけない。そのような武器は本来手に入れることが難しいのだが、アザトース達には一つ心当たりがあった。
「ふっふっふっ...嬢ちゃん、あの棍棒を出しな」
「...おまかせ」
アザトースがポーチから強化棍を取り出してアンドレに渡すと、それまで浮かれていた彼の顔が急に青ざめる。その顔はアトラが呼び出した「アザトース」をみた時の反応のようだった。
「嬢ちゃん、こいつはダメだ。何かが入り込んでる」
「...なにか?」
「ああ、神様でもない化け物でもないもっと恐ろしい何かだ。そいつがこれに取り憑いていやがる」
確かに、返してもらった強化棍をよく見ると見た目が少し変わっている。木の部分が黒く染まり、アザトースの手によく馴染む。それに少しづつ力が流れ込んでくる気がしていた。強化棍の説明文をひらいてみたが名称が変わることや新たな文章が追加されるなどの変化もない。ただ見た目だけが変わっていた。アザトースは強化棍に住み着いたのが本体の断片であることがなんとなく察していたが、アンドレの態度を見るに少なくとも彼の前では使わない方が良いのか?と考えた。しかし、使おうと思っていた器に他の存在が入っていてはどうしようもない。強化棍をポートに仕舞った後アザトースとアンドレは二人で悩んでいたが答えは出なかった。代わりに答えを出したのはアトラだった。アトラの魂がフヨフヨと浮き上がると、クルクルと浮き上がりアザトース達の周りを飛び回った後、アザトースの胸元あたりにぶつかり消えていった。アザトースがいきなりアトラの魂が消えたことに驚いているのと対照的にアンドレは納得したような顔をしていた。
「なるほどなぁ...それが一番居心地がいいのは納得だわな」
「...どゆこと」
「アトラの魂はな、嬢ちゃんのつけてるマントに入り込んだのよ」
アザトースにはマントそのものが変化したようには見えなかったが、説明文を読むと『神なるアトラが宿っている』の一文が追加されている。王魔武器がこれで完成したのか聞いてみると、まだ完成はしていないらしい。アンドレはここから色々やることがあるらしく、王魔武器へと打ち直すために日曜まで待って欲しいと言われた。アザトースには特に断る理由もないので快くマントをアンドレに託すと、とりあえずコウタがやっていたように自分もログアウトすることにした。
意識がプツリと途切れ、アザトースは自宅の宮殿に戻ってくる。せっかくなのでヒトの化身のままで過ごすことにした。左腕がないままなのが少しおどろきだった。いつも通りに流れているやかましい音楽を停止させるべくニャルを呼びつけたが、ヒトの耳で聞くトルネンプラ楽団の音楽は思ったより聴き心地がよく、彼らの音楽は本体で聴かなければ良いのだと新たな発見になった。そう考えていた直後空間が歪み、虚空の内からスーツを着た化け物であるニャルラトホテプが現れる。
「全くどこにいっていたんですか陛下ァ!!ご無事だから良いものをって腕ェーーーーー!!」
アザトースの失われた左腕をみてアザトースが聞いたことのないような声で絶叫するニャルラトホテプを見て、お説教を回避すべくアザトースはニャルを黙らせることにする。
「...きにしないきにしない」
「おいたわしや陛下...下等生物の化身とはいえ陛下の御身に傷をつけるなどという神も恐れぬ所業をおこなった愚か者はどこのどいつでしょうか!このニャルラトホテプの全能力を用いてその存在の全てを抹消してきます!」
「...わたし」
かつてないほどに怒り狂うニャルラトホテプを抑えるべく真実を伝えるアザトースだったが、伝えた時にニャルが見せたあんまりにもあんまりな間抜けヅラを見て思わずクスリと笑ってしまう。少しの間笑った後、ニャルラトホテプが小言を言う前にアザトースはいくつかの頼み事を話した。
「なるほど。日曜まで時間を進めることはすぐに行います。ですがもうひとつの『ゲーム内で魔術が使えるか』と言うのは少し調べてみないとわからないですね...」
「...たのむね」
「ハハァ!!このニャルラトホテプ例えこの身が砕け魂が灰になろうとも必ずや陛下の願いを叶えて見せましょうぞぉ!!」
話していて疲れると思ったアザトースはニャルから離れるべく自室へ戻っていった。ニャルラトホテプ以外誰もいなくなった空間にてかの邪神は独り言を言う。
「まさか陛下がアレに辿り着くとは...あのアホが知ったらどう思うのでしょうかね」
最初は堪えるようだった邪悪極まりない笑い声は段々と大きくなり、ついに高笑いになるまで大きくなるとそれと同時にニャルラトホテプは虚空に消え去った。
日曜日の午前8時、アンドレのアジトにてアザトースは彼から王魔武器として新生したマントを受け取る。そのマントは元々黒かったがさらに艶のある黒に変化をとげ、白い糸で蜘蛛の巣を模した刺繍がされていた。早速羽織ってみるとこれまでのものよりもずっと着心地が良い。気に入ったとアンドレに告げると彼は嬉しそうに笑っていた。マントも心なしか喜びに打ち震えているような気がした。
「そりゃあよかった。スーパー鍛冶屋の俺が作ったんだから出来がいいのは間違いないな。まぁこれどっちかといえば裁縫だったけどよ。名前を白縫だ。大事にしてやれよ」
「...うん」
「いやーいいもんを作れたぜ全くよぉ!でもこんなものを思いついて、しかも神の魂を集めるのも自分でやっちまう師匠はホント化け物だな!」
「......ヒトじゃないの?」
「ん?ああ今のは例えってやつだよ例え。師匠はちゃんと人だよ」
師匠とやらがどんな人物だったのか少し気になったアザトースはアンドレに軽く聞いてしまったが、それが間違いだった。アンドレの師匠の武勇伝を延々と聞く羽目になってしまった。コウタとの約束の日が今日である以上、いつまでも話を聞いているわけにはいかない。アザトースはなんとかして話を打ち切ることにした。
「......じゃそういうことで」
「...おう!どこかで師匠にあったらよろしく言っておいてくれよな!」
アザトースは曲がりなりにも神なので、願い事をされると叶えたくなる節がある。それもあって軽い気持ちで引き受けることにした。
「......いいよ。でもししょうのおなまえおしえて」
「言ってなかったっけか?師匠の名前はアルデバランだ」




