鍛造
炎に覆われたシンジュクを駆け抜けて地下へと潜り、ゼイゼイと荒い息を吐きながらアザトース達はアンドレのアジトへ帰ってきた。最も息が乱れていたのはアンドレだけで、ずっと背中にいたアザトースはケロッとしていたが。アンドレはアザトースを椅子の上に下ろし、水を注いだコップを二つ用意する。二人はほぼ同時にそれに口をつけ、ごくごくと音を立てて飲む。中身を全て飲み干した後アンドレは机にコップを叩きつけるように置くと、随分と興奮した様子でアザトースに話しかけてきた。
「やったぞ!ついに俺らは神殺しを成し遂げたんだ!」
「......じめつ」
「野暮なことは言うもんじゃねーぜ嬢ちゃんよ。それよりもだ、持ってんだろ?蜘蛛神アトラの魂を」
「.....?」
「俺が持ってねーということは嬢ちゃんのはずだ。おそらくな」
アンドレに促されるままにアザトースはポーチの中をゴソゴソと漁る。ポーチに手を突っ込んでカエルの足や腕などをポイポイ出しては捨ててを繰り返すうちに、アザトースの手に奇妙な触感が伝わってくる。霧を掴んでいるかのように掴みどころがないのに、なぜか掴んでいると感じてしまうような感覚が手に残る。思い切って引っ張り出してみると、アザトースの手の上には白い人魂のようなものが浮いていた。それは絶えず形を変え、ゆらめく炎のようだった。何となくわかってはいるがアザトースは説明文を読むこととした。
Atlaの魂
滅びを紡ぐ神アトラの魂。名を呼ぶことさえ禁じられていた神を崇拝し、そして呼び出そうとしていた。
神の魂は強靭かつ無二である。そのため武器の錬成に使用すれば特別なものが出来上がるであろう。下等生物如きに扱えるかは別として。
「...これ?」
一応アンドレに確認したが、彼はアザトースの声が聞こえていなかった。初めて見るのであろう神の魂を顔が触れるほどに近づけて凝視していた。瞳は爛々と輝き、口元は喜びで吊り上がっていた。また動かなくなっているアンドレを正気に戻すべく、アトラの魂を一度机の上に置いた後アンドレの頬を再びアザトースはペチペチ叩いた。このAtlaの魂とやらにそこまでヒトを惹きつける何かがあるのだろうか。アザトースにはよくわからなかった。
「む?...ああすまねぇ。見惚れちまった」
「......そう」
ゴホンと一つ咳払いをしたあと、アンドレはアザトースに何故アトラの魂を持っているか聞いてきた理由を話し始めた。
「嬢ちゃんよ、覚えてるかい?機織りと狩人に襲い掛かられる前に俺が話していた内容をよ」
「...のー」
アンドレは少しショックを受けた様な顔をしていたが、気を取り直して話を続けた。話をしている間、彼はもしかするとアトラと戦っている時よりも緊張しているように見えた。
「俺の師匠が残した最後の業、それは神の魂から武器を錬成することよ。だから俺はこんな化け物しかいない場所で一人住んでいたんだ......つまりなんだ、嬢ちゃんの持つその魂をスーパー鍛冶屋の俺に預けてみないか?」
「いいよ」
「返答早いなオイ」




