脱出
「アザトース」がアトラを飲み込み殺した後、アザトースは手を振って帰るように促す。「アザトース」はプルプルと震えたのちに、地面に染み込むようにして蜘蛛の体に引っ付いていた強化棍を残して消えていった。石像のように固まったアンドレを見て、アザトースはまたかと思いながら頬をペチペチ叩く。流石に三度目ともなれば正気を取り戻すのも早く、数回叩いただけで動き出した。
「何なんだ!アトラのやつが呼び出したアレはよ...」
「......さぁ」
開口一番「アザトース」に対する恐怖を叫ぶアンドレに対してアザトースはただお茶を濁すことしかできなかった。もし「アザトース」を見て感動していたなら自分こそが「アザトース」だと伝えようかとも思ったが、アンドレの様子を見るにやめた方が良さそうなのはアザトースでも理解できた。むしろ「アザトース」を使役したところを気づかれていないかが心配だった。
「結局アトラはどーなったんだ?悪いが俺、あの化け物を見てからの記憶がいまいち無ぇんだ」
「......じめつ」
「俺らが死んでないつーことはあの化け物は退散したのか?」
「...まぁ」
「そうか!じゃあさっさと帰ろうぜ!こんな辛気臭いところにいつまでもいてたまるかよ!」
特にアザトースに対しては不信感を抱くような様子は見せず、エレベイタの方へ向かうアンドレを見てアザトースは安心する。記憶がないというのも本当らしい。これでもし記憶が残ってたせいで発狂などされてしまえばどうしようもなくなるところだった。とりあえずアトラに奪われていた強化棍と脱ぎ捨てたマントを拾い上げてアンドレのいるところまで走っていった。強化棍が「アザトース」の中に少しの時間取り込まれていたからか木の部分が黒く変色していたが、薄暗い空間なのもあってアザトースは気づかなかった。
「...あついね」
「確かになんか蒸し暑いな。まるで鍛冶場みてぇな感じだなって......忘れてた」
チンという音と共にエレベイタが開くとアザトース達を凄まじい熱気が襲う。周りは先ほどまでの暗闇とは違い赤とオレンジの光に包まれていた。黒い煙と肉が焼ける匂いが辺りに広がっていて地獄という言葉を否が応でも想像させた。つまり、アンドレが放った火炎瓶の炎は未だ消えておらず、消火にあたっていた蜘蛛を皆殺しにして次はアザトース達を殺そうとその手を伸ばしてきたわけだ。
「逃げるぞぉぉ!!」
「...おー」
アンドレが突入する時にも使った炎耐性を与える呪術を手早く二人にかけて、アザトースを背負って走り出す。炎の壁を強引に突っ切って、火の海と化したシンジュクからアザトース達は地下のアジトへと向かった。




