先輩はゲームの剣士
「森野先輩がデータを盗んだ!?」滝沢の意外な告白に、ゲーム誌記者、和倉 瞳は、驚きを隠さなかった。
和倉は学生時代から森野よりかは滝沢の方に傾倒しており、森野はどちらかと言えば、取っ付き難い唯我独尊系の男であると評価していた。そんな森野を別の記者が先月号で特集したものだから和倉としては、胸中、複雑だ。
それに対して滝沢は、皆んなとも直ぐに打ち解けて、独自のアイデアは出すものの、皆んなの意見も、良いものは取り入れ、回りを巻き込むリーダー気質を持った男と評価していた。
その分、目指すところは滝沢のような、多勢の人間で、物作りが出来る環境を整えられる、プロデューサー的存在だった。
しかし、自分には滝沢のような、独自のアイデアを引き出す能力に欠ける事を思い知らされた。
そこで、兼ねてから文章力に自信があった自分の特性を活かすべく、記者と言う目線での、製作者を裏から盛り上げると言う存在を目指したのだった。
「まぁ、確証はないから言い切る事は出来ないんだが、見て来た限りは間違いないと断言出来る」和倉は滝沢の"見て来た限り"と言う言葉に反応した。
「見て来たってどう言う事ですか?先輩は学生時代から、他人が作った作品は、変に影響を受けるのは嫌だし、癪だからって、絶対に見なかったじゃないですか?」その通りだった。滝沢は自分のイメージした世界観を大事にする為に、出来る限り資料などに限定した書籍にしか目を通さず、小説や映画なども見ないようにしていたくらいだった。
「それがお前に頼みたい事とも通ずるんだ。実はな、今、オレの嫁さんが原因不明の病に冒されていてな、それを救う為に、ゲームの世界で戦っているんだ」真面目な顔で話す滝沢を見て、和倉は吹き出してしまった。
「何すか?それ!滝沢さんらしくないって。冗談も種類を選んで下さいよ」和倉は滝沢の話しを全く信じなかった。しかし、それからも真面目顔で真剣、且つ懇切丁寧に話す滝沢の話しに、物語でもブラフでもなく、リアルに和倉の脳内を占領し始めた。
「わ…分かりました。どうやら信じるしかなさそうですね。それで、私に頼みたい事って何ですか?」先ほどまでの明るくおチャラけた雰囲気を一転させて、和倉は神妙に問うた。
「ウン、お前にはオレと一緒にゲームの世界に行って、スターシャと言うキャラクターになり切って共闘して欲しいんだ。すでにオレの部下とその友人に一緒に戦ってもらってる。詳しくは、後に話すとして、お願い出来ないか?」ここまで聞くと、もはや逃げは許されないと和倉は覚悟した。
「分かりました。私で良ければお引き受けします」こうして滝沢が捜すのに一番苦労させられるだろうと踏んでいた、スターシャ役が意外な形で見つかる事となった。
その日の夕方、川上の研究室を一緒に訪れた滝沢と和倉は、川上の意外過ぎる行動と発言に面食らった。
「光子…光子!生きとったんかぁ!ボクが誰か分かるやんなぁ。兄ちゃんやで」川上は和倉に泣きながら抱きついた。
「何すか?このチンチクリンの煩いオッサンは?」和倉の辛辣な言葉に一旦、身を剥がし、川上は号泣してしまった。
「光子ーっ!やっぱり忘れてしもたんやー!」泣いている川上に滝沢が肩に手を当てて慰めた。
「先生、少しお疲れになってるんですね。さぁ、差し入れのメロンパンでも食べて元気を出して下さい。妹さんの事は気の毒に思いますが、私の後輩を妹さんと見間違えるなんて、どうかしていますよ」しかし、この慰めも逆効果だった。
「何が見間違いや!ボクは別に疲れてもないし、どうかもしてへん!メロンパンはいただくけど!それよりこれを見てみぃ」そう怒鳴ると川上はデスクの引出しから一枚の写真を見せた。
「こ…これって私?」
「…と思えるくらいにソックリだよな…」
二人は川上が提示した光子の写真が、余りにも和倉と似ている事に驚いた。
「へーっ、先生の妹さんってこんなに美人だったんですね」結局、昨夜、研究室に泊まったまま、一日中大学内にいた小園は、三人のやり取りを見て口を挟んだ。この小園の言葉に、自分が美人だと言われているようで、和倉は少し嬉しくなった。
「さぁ、ボヤボヤしてる暇はないでぇ!四人は大変やけど、皆んな無事に帰って来いよ」川上は脳波計に繋がれた四人に対して、左手に差し入れのメロンパンを持ち、右手でキーボードのリターンキーを続けて四回押した。




