最高のチーム
滝沢に続いて小園までもが定時に帰宅するとなれば、他のメンバーに対しても、言い訳が立たないだろうし、折角上がった気運も下がってしまう事だろう。
そこで滝沢は、定時三十分前にメンバー全員を会議室に集めた。
「皆んな!日々の業務、お疲れ。実はな、今日から小園も定時で上がって貰う事になった」滝沢の言葉を聞いて、予想通り一同はざわ付いた。
「何で小園さんまで定時上がりする必要があるんです?滝沢さんは奥さんの事で早く上がるのは分かるし、深夜、早朝に出て来て業務を熟してくれてるんだから分かりますけど」一番若いクセに発言が多い、口の減らない井上の言葉だった。
「まぁ、皆んなの気持ちは良く分かる。仕事に私情を挟んでしまい、迷惑を掛けている事も承知している。今回の小園の件もオレの私情から来た事なんだ」
「どう言う事ですか?言ってる意味が分かりませんよ」年長の寺尾が、やや不服そうな表情で話した。
「言って直ぐに理解して貰うのは難しいんだが、オレの妻は今、ゲームの世界…それもタイガーストリームの中にいるんだ」
小園を除く全員が目を点にして、まるで豆鉄砲でも喰らった鳩のように固まってしまった。
「これは意識の話しで実際の身体がゲーム内に行ってしまったとか、そう言う事じゃないんだ。妻は自分の意志でゲーム内に入り込み、ソフィア姫となって存在しているらしいんだ。それを説得して連れ戻す必要がある。その為にゲーム内に入って全てをクリアする必要があるんだが、皆んなもご存知の通り、仲間となるキャラクターになって他の誰かの協力を必要としなきゃいけない事が分かったんだ。その最初の仲間であるヘイグの役目を小園にお願いする事にしたんだ」
滝沢の説明を聞き、皆んなお互いに顔を見合わせながら、何とか納得をしたようだった。
「でも、小園に滝沢さんと同じように、深夜や早朝に出社して、業務が熟せるんですか?」いつも冷静な藤木 弥生が落ち着いた雰囲気で発言した。
「そこは大丈夫だ。実はゲームの世界に入るには、意識だけをゲーム内に飛ばす必要があるんだが、睡眠薬なんかで眠ってからゲーム内に入る。詰まり、寝ながらその任務を進めて行くんだ。皆んなには後ろめたく言い出し難くて、今まで黙っていてスマン」滝沢は皆んなに向けて、深々と頭を下げた。
「分かりました。頭を上げて下さい。そもそもは、お二人の業務は我々と違って、皆んなが作成したデータを集約、管理する事にあるんだし、夜は我々だけでも何とかなるでしょう」
寺尾のこの言葉に滝沢は救われた気がした。
「でも残りのフィリップスとスターシャはどうするんですか?」尾上 涼子もやはり小園の突っ込んで来た事と同じ事を聞いて来た。
「そこなんだなぁ!正直、これ以上はこのメンバーから人員を割く訳に行かないし。それは追々考えるよ。とにかく皆んなは今の業務に集中してくれ。これはオレの私的な問題だしな」
そう言いながらも理解を示してくれるチームの皆んなを見て、滝沢は本当にこのチームを率いていられる事を誇りに思った。
やがて、時刻は定時を指し、滝沢は小園を連れ立って一路、N大へと向かった。




