抜擢!ヘイグ役の男
「お早うございます、今日も早いですね、滝沢さん」小園はいつものように明るい笑顔で挨拶をした。
「小園、スマンがちょっと来てくれるか?」滝沢は小園だけを会議室に来るように促した。
「何ですか?また、何か問題でも起こったんですか?」小園は先程までの明るい表情から、打って変わって怪訝そうな顔になった。
「イヤな、会社や仕事の事じゃないんだ。オレの私的な頼み事があってな」滝沢の意味深な物言いに、小園は余計に顔を歪めた。
「私的な頼み事って、滝沢さんが?ボクに?何なんですか?ボクに出来る事なら良いですけど」滝沢には小園の動揺が手に取るように分かった。滝沢は姿勢を正し直す様に座り直し、一呼吸置いて話を続けた。
「実はな、妻の事なんだが、毎日見舞いに行ってる訳じゃないんだ。上手くは言えないが、妻の意識は今、ゲームの世界の中にあってだな…その…お前の恩師でもある川上先生に手伝って貰って、妻を救う為の作戦を敢行しているんだ」
滝沢の話を聞きながらペットボトルのお茶を飲んでいた小園は、気管支に入ったらしく、大きな咳をしながら咽てしまった。
「ゲホッ、ゲホッ、な…何です?ゲームの世界?何、言ってんのか、全然分かりませんよ」小園が驚くのも無理はなかった。滝沢としても、川上から話を聞いた時は、頭のおかしい変人に出会ってしまったと思ったのだから。
「まぁ、聞いてくれ。実際にオレは、そのゲームの世界に入って、今まで戦って来たんだ。夢や幻じゃない。お前も経験すれば、信じるしかなくなるさ」滝沢は精一杯に諭すように言った。
「分かりましたよ!それはそれで、ボクに頼みって何ですか?ボクに何をしろって言うんです?」小園は致し方なく理解をしたと言った感じで聞いて来た。
「実はな、そのゲームの世界って言うのが、我々がプロジェクトを進めていた、あのドラゴンストリームの世界を横取りした、森田のタイガーストリームの世界になっているんだよ。そこでな、その世界はオンライン状態になっていて、仲間になるはずのヘイグが、意志を持たない状態になっているんだ」
滝沢の熱弁に、小園はようやく信じ始めたのか「詰まりはボクにそのヘイグをやれって事ですか?」と滝沢の言いたい事を先に言った。
「そうそう、流石は小園だ。呑み込みが早い」滝沢は小園を煽てるように言った。何と言ってもこの先、小園の協力なくして、可憐を救う事は出来ないだろうから。
「でも、ボクにだって会社の仕事があるし、ボクは滝沢さんみたいにタフじゃないから、仕事に支障をきたしますよ」小園は少し膨れっ面で言い返して来た。
「そこは大丈夫だ。実は皆んなには後ろめたくて言ってなかったんだが、ゲームの世界に行っている間は眠った状態で行くんだ。分かり易く言うと、夢の中で戦う様なものなんだ」
小園は鼻と口の間にボールペンを挟み、しばらく考え込んでいた。
「分かりました。面白そうじゃないですか!ボクは実はキャラクターの中で、ヘイグが一番のお気に入りなんですよ」と明るい顔を取り戻して言った。
それはそうだろう。ヘイグは小園がキャラ設定を考えたものだったのだ。
「そうか、それは助かる。それじゃあ、早速、今夜から頼むよ」滝沢がホッとしたのも束の間で「ヘイグはボクがやるとして、後に出て来るフィリップスとスターシャはどうするんです?」と滝沢が危惧していた、痛い所を突いて来た。
「んー、それは追々と言う事で…とりあえず、ヘイグは頼んだ」言っている内に、仕事が停滞してしまっている事を、寺尾が指摘しに来た。滝沢達は、慌てて業務に戻った。




