音楽プロデューサー
「お早うございます。滝沢さん、今日も早くからですか?」いつもは明るい小園が、心なし沈んでいるように感じられた。
「お早う、どうかしたのか?小園」
「いえね、昨日言われてた八戸島先生なんですけど、ダメだったんですよ。そう、連続して依頼されても困る、依頼は君達のトコだけじゃないんだって怒られちゃいましたよ」確かにそうだった。前作は発売する前にボツってしまった訳だから、期間もそんなに空いていない事になる。
「弱ったなぁ、我が社の作品は、今まで全部八戸島先生にお願いしてたのに…」滝沢が困り顔をしていると、急に小園の顔が明るくなった。
「そこでなんですけど、この際、思い切って別の音楽プロデューサーを起用するって言うのはどうですか?そうすれば、作品の雰囲気も今まで付いていたファンのユーザーには目新しく写るんじゃ…」小園はこの名案はどうだと言わんばかりの勢いで発言した。
「なるほどなぁ。でも新しい音楽プロデューサーって言ったって、そんな簡単に見つからんぞ」
すると、小園は得意気になり「実はね、ちょっと、当てがあるんですよ。ジャンルはジャズなんですけど、学生時代にプロデビューした、大倉 宙良って言うんですけど、あのアメリカで有名なマリア・スタンレーを日本デビューさせた事でも有名なヤツです」と、まるで知り合いかのように自慢した。
「ふーん、そんな有名なのか?」音楽には疎い滝沢は流すように返した。
「プロデューサーだからあんまり、表に出て来ないから知らないかも知れませんけど、主にプロデュースを手掛けるトランペット奏者の真田 美奈代のダンナですよ」何故か小園は大倉プロデューサーについて、やたらと詳しかった。
「真田美奈代?知ってる、知ってる、ムチャ可愛いもんな!オレもファンだよ」小園は滝沢のテンションを見て、まるで滝沢の下心を見透かしたように横目で滝沢を見た。
「で…でもそんな大物、何のコネも無しに、受けてくれるか?」
すると、小園はまたしても自慢げに胸を叩き「アイツら、学生時代にジャズ同好会を結成してましてね、そのメンバーの中にボクと同じ電子光学部のヤツがいるんですよ。そいつを伝に連絡は取れると思います。何せ、同じN大のよしみですから、スケジュールさえ合えば引き受けてくれますって」と自信ありげに答えた。
「そんなもんかね……えっ?お前、今…なんて言った?」滝沢は小園の発したあるワードに反応した。
「イヤ、だからスケジュールが合えば…」
「そうじゃなくって、N大の、何学部だって?」小園は不思議そうな顔をしながら「電子光学部ですけど…」と答えた。
「じゃあ、お前、川上先生の事知ってんのか?」滝沢は興奮気味に聞き返した。
「川上先生?あぁ、懐かしいなぁ、変な先生だったけど、天才でしたよ。…滝沢さん何で川上先生の事、知ってるんです?」小園は不思議そうに聞いて来た。
「イヤ…まぁ、何と言うか…今、妻がお世話になっているんだ」言ってはみたものの、川上との自分の関係性の説明に困窮してしまった。
「えっ?奥さん、病気なんじゃないんですか?」やはりそう来る。滝沢は一から話す事にした。
「お前も知らなかったんだなぁ、川上先生は元は医学部の脳外科にいたらしいんだ。電子光学は、言わば医療の延長線上で研究しているらしい」そこで滝沢は、可憐が川上の世話になるようになった経緯と全てが解決したら、自分達のチームで川上の研究の手助けをしたい構想を話した。
「なるほど、分かりました!面白いじゃないですか!」流石は川上の元教え子である。案の定、滝沢の話しに乗って来た。
「あぁ、それにはまずは、妻を救う事が先決だ」話しながら決意新たにする滝沢だった。




