修練所
「流石は井上だなぁ。なかなかリアルに出来てるじゃないか」滝沢は夜中の誰もいないオフィスで、誰が聞いている訳でもなかったが、井上が描いたモンスターのデザインを絶賛していた。
滝沢はイラストレーターを使い、そのまま行けそうなデザインはそのままに、細かい修正が必要なものは、細かい修正と動きを付けたデータを作成して、どんどんとベースにデータを落とし込んで行った。
やがて朝を迎え、チームの皆んなが出社して来た。滝沢は皆んなに今日も定時で帰宅して、早朝か夜中から作業を続ける事、分からない事があれば、メールで連絡してもらう事、そして直ぐには返信を返せないかも知れない事を告げた。
定時になり、帰宅時間がやって来た。もう一つの仕事が眠りながらとは言っても、少し疲れは残っている。しかし、妻を救う為である。疲れたなどとは言っていられない。
「皆んな、我儘を言うが、後はよろしく頼む」滝沢にとってはチーム全員の理解があって出来る事だ。何としても、全てやり抜く覚悟を決めた。
川上の研究室に着くと、川上は滝沢が使うはずのベッドで、点滴を打ちながら眠っていた。
「先生も恐らく、ここに泊まり込んで可憐の様子を見てくれているんだろう?しばらく寝かせて上げよう」
滝沢が椅子に腰掛けウトウトしかけた時、ドアがノックされた。滝沢はハッとして目覚めた。
「失礼しますね。先生、滝沢さんにお変わりはないですか?」姿を見る限り、看護師のようだった。
「あら!ご主人さん、いらしてたんですか?」看護師は少し驚いた顔で聞いた。
「ハイ!貴女は?」川上から看護師を一人派遣するとは聞いていたが、初対面な事もあり、聞いてみた。
「申し遅れました。私は奥さんのケアをさせて頂いてます、看護師の河井 睦美と言います。後、交代で瀬戸と言う者がお世話させて頂いてます」河井看護師は丁寧に自己紹介をしてくれた。
「ご丁寧にどうも…」滝沢も思わず畏まってしまった。
挨拶を済ませると、河井看護師は川上の元に行き「先生!いつまで寝てるんですか?滝沢さん、来られましたよ」と少々乱暴とも思える起こし方をした。
「えっ?メロンパンが手に入ったって?」どんな夢を見ていたのか?変な起き方をした川上に滝沢は少し可笑しくなってしまった。
「また妹さんの夢を見てたんですか?しっかりして下さいよ、先生!」
『妹さん?先生には妹さんがいたのか』
「あぁ、滝沢さん、おはようさん、って言うのも変か?今は…もう八時回っとんかいな!エラい寝てもうたな。ほな、滝沢さん、始めましょか」どうやら可憐の為と言うより、いつもの事と言う感じのようだった。
滝沢は再びゲームの世界に入って行った。
「相変わらずリアルな世界だなぁ。良くよく考えると、これって殆どが我々のチームで作った物なんだよなぁ。自画自賛するつもりはないが、本当に素晴らしい!
まぁ、あり得ない、ゲーム内からの目線だからそう思えるだけかも知れないけど」
滝沢はベッドから飛び起きると、真っ直ぐ城に向かった。
「確か、王様に接見して、自由な城の出入りを許可してもらって、その後、城の中の修練所で修行して、ある程度レベルを上げたり、課題をクリアして、褒美の金や武器、防具を手に入れるんだったよな?」滝沢は自分達が作ったゲームを思い起こしながら城へと向かった。
「お主か!我が娘、カリン姫を救い出す名乗りを上げたと言うのは→Yes
それではお主の腕前を見せてもらう為、我が城の修練所へ行き、そこで腕を磨くが良い!そこで教官のハリスが認めれば旅立つ事を許そう!分かったかな?→Yes」
こうして、滝沢は修練所へ行き、ハリス教官から厳しい訓練を受ける事になった。
「痛てっ!クソ、身体が思う様に動かない。何でだ?」
"ゲームの世界でゲームをせんでどうする?"
川上の言葉が滝沢の頭の中に蘇った。
「そうだ!身体を動かそうとするんじゃダメだ。ゲームのコントローラーを持っている気持ちで技を繰り出すイメージだ」
"ズババッ!"「まっ…参った!」
『よしっ!決まった』
「リューショーと言ったな!お主、中々やるではないか!褒美にこのランバーソードを授けよう」初期の武器だが、まずは第一段階をクリアした形だ。
その後もハリス教官の厳しい訓練を受け、滝沢ことリューショーは初期装備のランバーソード、ランバーアーマー、ランバーシールド、ランバーヘルム、それに500ゼニーのお金を手に入れ、旅立ちを許された。そしてレベルを12まで上げる事に成功した。
傷だらけのリューショーは、宿屋に泊まり、回復を試みた。しかし、傷は全然、癒えていない。
「何でだよう!10ゼニー払ったのに」
滝沢は仕方なく、元の世界に戻った。
「今回は良う頑張ったみたいやな!」川上は相変わらずサンライズを頬張っている。滝沢は、この人は一体、一日に何個サンライズを食べるんだ?と思った。
「先生!宿屋に泊まっても回復しないってどう言う事ですか?」
「あぁ、宿屋は形だけみたいやなぁ。回復する為にはコッチに戻ってこんと、無理みたいや」川上は鼻の下にボールペンを挟んであっさりと言った。
「ちょっと面倒くさいですね」滝沢は辟易してしまった。
「まぁまぁ、この前も言うたけど、焦らんと、ジックリや。そんだけ奥さんの心の闇が深いと思たらエエ」
「心の闇か…」滝沢は可憐が眠りに付く前の異常に思いを巡らせて胸が締め付けられる思いをしていた。




