カリン姫
「それにしても、凄い町並みだなぁ」
滝沢はしばらく町の中を探索する事にした。町を行き交う人々、中央に頓挫する噴水池、建ち並ぶ家々、石畳の道、そして何より、一番奥にドンと構える城、全てがとてもリアルに出来ている。とてもじゃないがゲームの中の世界とは思えなかった。
「このゲームを作った会社やクリエーターはよっぽどだぞ。オレ達でもここまでリアルに再現出来るかどうか」滝沢はこのゲームの世界に圧倒されてしまっていた。
「少し、人と会話して見るか?RPGの原則はまず、情報収集からだからな」滝沢は周りを見渡し、適当なマダムを捕まえた。
「お城では、カリン姫が捕まって、大騒ぎ何だろ?アンタも剣士なら、カリン姫救出に少しは役にお立ちよ」滝沢は何も言っていないのに、一方的に話された事に違和感を覚えた。
『イヤ、待てよ、そうだよなぁ。ゲームの中では自分が何を聞くとかじゃなく、話すってコマンドがあるだけで一方的に話されるもんな。
…ってちょっと待て!今…何て言った?』滝沢はもう一度マダムを捕まえた。
「お城では、カリン姫が捕まって、大騒ぎ何だろ?アンタも剣士なら、カリン姫救出に少しは役にお立ちよ」やはりそうだった。マダムはカリン姫と言った。これは単なる偶然の一致なのか?それとも他に何か深い意味があるのか?滝沢には図り兼ねた。
「それにオレは剣士って言う設定なんだな」
滝沢はそれからも色々な人と会話をして、やっとの事で思い出した。このゲームは『ドラゴンストリーム』の世界だったのだ。老人が言っていた、「ここはヤフゴルド城の城下町じゃよ」と言う言葉で思い出したのだ。
しかし、拐われたのは、『ドラゴンストリーム』の世界ではソフィア姫になっていた。やはり可憐はソフィア姫になってこの世界にいる可能性が濃厚になったと言う事になる。それならば、全てクリアするまで可憐に会えないと言う事になるが、滝沢が作ったゲームならばやり方を熟知している滝沢にとっては案外早く、型が付くかも知れない。
「そうそう、確か、この壺の中に50ゼニー入ってたはずだ」滝沢は壺の中を覗いた。しかし何も入っていなかった。
「あれ?何も入っていない。記憶違いだったかな?」
とりあえず、滝沢は城に行く事にした。
「お前は何者だ?カリン姫救出に志願しに来た剣士か?」門番に問われると、YesとNoが目の前に半透明の状態で表れた。
「えっと、Yesを…あれ?」滝沢はYesを必死に手で押そうとしたが、何も変わらない。
「何だ?これ!どうやってYesを表現すれば良いんだ?」早速、滝沢は躓いてしまった。
「この分だと、バトルモードになったら、戦えないぞ。」滝沢は仕方なく、一度戻る事にした。
「川上先生だったら何か良いアドバイスをくれるかも知れない」
滝沢が始めの家に戻り、ベッドの横に立つと、
"もう、休みますか?
Yes No"と表示された。
「またかよう?ええい!もう寝てしまえ」
滝沢がベッドに横たわると、直ぐに意識が遠のいていった。そして、目覚めると、研究室に戻っていた。
「何や?エラい早いお帰りやなぁ」川上は、滝沢の方も見ずに、パソコンの画面を見たまま喋った。
『そうか、川上先生は英数字の羅列を見ただけで、映像に見えるって言ってたもんな』
「滝沢さん、ボク、言うたやろ?アンタが行っとるんはゲームの世界やで。ゲームせな、どないすんねん」川上は回転椅子をクルリと回して滝沢の方に向いた。
「はっ?どう言う事ですか?」滝沢には川上の言わんとしているところが分からなかった。
「アンタ、コッチ戻って来る時、どないした?」川上は滝沢の方に身を寄せるように言った。
「えーと…コマンドが表れて、手で押してもどうしようもないから…そのまま寝た…」
「そう!そんでエエねん。実際に体を動かすんと違うて、意識すんねん。YesかNoかって表れたら、ハイハイハイって思たらエエだけや」川上は回転椅子の上で手足をバタバタさせながら言った。
「なるほど、コマンドはあくまでも選択肢として現れるだけで実際にコマンドを実行するには、思えば良いのか!分かりました。先生、もう一度行きます。お願いします」滝沢は再びベッドに横たわった。
「アカンアカン、一日にニ回も三回もやったら、アンタの体がボロボロになってまう。焦る気持ちは分かるけど、アンタやったら、絶対、奥さんを助けたられるよ」滝沢は奇人と思っていたこの人物の優しさに触れ、尊敬の念を抱いていた。




